エピソード

藤村 「この間すごい面白いことがあってさぁ。吉川と一緒に飯食いに行ったんだけど」


吉川 「どういうこと? ボクいた時の話?」


藤村 「いた」


吉川 「いた時にあったエピソードをボクに話してるの?」


藤村 「ダメ?」


吉川 「いや、ダメっていうか。いたんだからさ、情報は共有してるわけじゃん?」


藤村 「メチャメチャ面白かったんだよね」


吉川 「普通それはボク以外の人に話さない?」


藤村 「いないから……」


吉川 「あ」


藤村 「他に話す人、いないから!」


吉川 「ごめん。いいよ。聞くよ。ご飯食べに行ったのね。それで?」


藤村 「それでって、いたじゃん! どうした? 記憶喪失か?」


吉川 「理不尽だな! 聞く態勢に入ったから聞いてるんだよ。知ってはいるよ、でも話したいんだろ?」


藤村 「そうそう、でサイゼリヤ行ったのね。そしたら吉川なんて言ったと思う?」


吉川 「多分知ってるけどヒント少ないな。どのタイミングでのセリフだ?」


藤村 「『サイゼリヤってサイゼリアなのかサイゼリヤなのかごちゃってなるよね』だって!」


吉川 「あー、言った。なるよね」


藤村 「だから俺『それじゃお前はイタリアのことイタリヤと迷うのかよ!』って言ったんだよ」


吉川 「……言ってないよ? なに? その発言は初めて聞いたぞ? 言ってなかっただろ。誰かと勘違いしてる?」


藤村 「そうしたら『それ聞いたら余計アなのかヤなのかわからなくなって。もう人前ではサイゼと略して呼ぶしかなくなるよ』だって」


吉川 「言ってないけど? なにそのエピソード。あの時、ボクがサイゼリアなのかサイゼリヤなのか迷うって言ったら、キミは『あぁ、わかる』とか薄いリアクションしか返さなかったじゃん」


藤村 「まじ面白かったわ」


吉川 「え? ひょっとして、あの時の会話が弾まなかったのをエピソードとして話すことによって修正しようとしてる? そういう話があったと捏造してるの?」


藤村 「なんか俺もアなのかヤなのかわけわかんなくなっちゃったよ」


吉川 「怖っ! 怖いことするなぁ。あの会話を今無理やり書き換えたの? 上手いこと返せた感じに。昔のことを記憶違いでなるのならまだしも、こんな直近でする人はじめてみたよ」


藤村 「でさ、吉川ってばどの料理にもオリーブオイルじゃぶじゃぶかけるんだよ」


吉川 「じゃぶじゃぶじゃないけどな。でもかける時はかけるよ」


藤村 「まじで何にでもかけるからビビってさ。聞いたんだよ、そしたらなんて言ったと思う?」


吉川 「それは覚えてるよ。『エキストラヴァージンオリーブオイルは身体にいいから大丈夫』みたいなことを言ったな」


藤村 「吉川ったら『エクゾディア場に出さなくても手札で5枚揃ろえば大勝利!』だって」


吉川 「言ってないよ!」


藤村 「見たらまじでエクゾディアと封印されし者の両手足揃ってんの」


吉川 「何の話!? サイゼでご飯食べてるのに突然デュエルが始まったの? 過去を修正するにしても破天荒すぎない?」


藤村 「あの時は最高だったな」


吉川 「エピソードの盛る部分がでかすぎて戦慄を覚えてるよ。とんでもない違法建築だな」


藤村 「その後、まさか吉川があんなことになるなんてな……」


吉川 「ボクの話? さすがにボク単体のエピソードを捏造するの無理ないか?」


藤村 「あんなに楽しかったのに。それなのにっ! もう全部覚えてないって言うんだぜ、あいつ!」


吉川 「どうしたボク? なにがボクの身に起きたんだ? いや、何も起きてないけど。そのエピソードの中のボクはどうなっちゃってるんだ?」


藤村 「あいつに! あいつに飯代貸したのに!」


吉川 「お前に友達がいない理由がよくわかったよ」



暗転

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