大人の事情
吉川 「とにかく大人の事情で、この度は残念ながら中止となります」
藤村 「大人の事情じゃしょうがないか」
吉川 「しょうがないです」
藤村 「でも男の事情ならどうかな?」
吉川 「どういうことですか?」
藤村 「男の事情。男には事情が色々あるじゃない?」
吉川 「たとえば?」
藤村 「例えば……、ローライズのパンツを履くと窮屈で危なっかしいとか」
吉川 「そ、その事情がなにか?」
藤村 「大人の事情と言うけどさ、男の事情だって数の上では負けてないわけですよ。全人類の大人と、全人類の男、どっちが多いかと言われるといい勝負じゃない?」
吉川 「いや、大人の事情ってそういう勝負の話じゃないと思いますけど」
藤村 「でも大人の事情なんて所詮大人だけの事情でしょ? こっちは全男だよ?」
吉川 「母数の問題じゃないんですよ。大人の事情っていうのも全大人が問題なわけじゃなくて一部の力を持った大人が否認するから大人の事情って言われるんです」
藤村 「そうか。だったらゴリラの事情はどうかな?」
吉川 「なにを言ってるんですか?」
藤村 「こっちはゴリラの事情で中止しませんということで」
吉川 「ゴリラの事情っていうのを聞いたことがない」
藤村 「ゴリラがどうしても中止しないっていうんです。力の強い。そんな大人なんかよりも遥かに力の強いゴリラが。ボス格の」
吉川 「いや、そういう力じゃないんですよ」
藤村 「ニシローランドゴリラだと思ってるでしょ? マウンテンゴリラですよ。しかもオス」
吉川 「種類の問題じゃなくて。ニシローランドゴリラだとも思ってませんでしたよ。『はは~ん、ゴリラといってもニシローランドゴリラだろうな』みたいな予測を立ててるわけないでしょ」
藤村 「その大人に言ってください。ゴリラとどっちが強いか。試してみますか? と」
吉川 「権力的な力だから。たぶん単品のゴリラじゃ撃ち殺されて終わりですよ。毒を使うかもしれない。大人だから。やり口汚いから」
藤村 「そうきたか。わかりました。ではこっちはサイボーグの事情を出します」
吉川 「出しますって、そんな特殊な事情を出し入れしないでくださいよ」
藤村 「サイボーグ。しかも戦闘用サイボーグ。変形も可能だし最大速度はマッハ3」
吉川 「それを出されて大人の事情が引っ込むと本気で思ってるんですか?」
藤村 「ファイティングコンピューターの異名をとり、三桁の足し算なら暗算できる」
吉川 「大して賢くないじゃないですか。ざらにいるレベルの知能ですよ、それ」
藤村 「このサイボーグが『ドウシテモヤリマス』って言うんだから中止はできません。サイボーグの事情です」
吉川 「サイボーグそんな喋り方なの? 今どきの合成音声はもうちょっと自然にできるでしょ。30年前のコンピュータ積んでるのか?」
藤村 「ウィーンガシャン、ウィーーーーン、カリカリ、カリカリカリ、サイシンノパッチヲダウンロードシテマス。コノダウンロードニハ7856ジカンカカリマス」
吉川 「どんだけかかってるんだよ。もうちょっと回線いいところで頑張りなさいよ。ダメですよ、そんなサイボーグ。普段遣いでも役に立たないでしょ」
藤村 「確かに。現在の科学力ではこれが限界だ」
吉川 「限界はもうちょっと先でしょ。マッハ3出るのになんで頭脳がポンコツなんですか」
藤村 「しかたがない。こうなったら忍者の事情でいく」
吉川 「忍者を抱え込んでるの? この現代に?」
藤村 「こんなこともあろうかと事情を抱えた忍者軍団を結成していた」
吉川 「軍団で」
藤村 「個々の強さはそれほどでもないが、必ず任務をやり遂げるという鉄の意志を持つ集団だ。手裏剣は刺さると痛いし分身もする。その忍者の事情で大人の事情を打ちのめす」
吉川 「忍者の事情でもダメなの」
藤村 「そういうけどね。実際に顔のそばに手裏剣が飛んできてごらんなさい? そうとう肝の座った大人でも意見を覆すもんだよ」
吉川 「覆らないですよ。だいたい大人の事情を言い出す大人っていうのは肝なんて座ってないんです。ただケチなプライドを守りたいようなしょうもない人間なんですよ。そのくせ権力だけはあるからたちが悪いという」
藤村 「言うね、キミも」
吉川 「今のはナシで」
藤村 「こっちにはまだまだ吸血鬼の事情や透明人間の事情もあるんだけど」
吉川 「なんでそんなモンスター軍団を携えてるんですか。何者なんですかあなたは」
藤村 「なぜかモンスターに好かれる体質なんだよね。特有のフェロモンが出てるのかな」
吉川 「とにかく大人の事情は覆りません。ダメです。あ、ちょっと失礼。連絡が入りました。……はい。え? はい。はい」
藤村 「どうした?」
吉川 「覆りました。犬人の事情らしいです」
藤村 「忍者の事情がやってくれたようだな」
暗転
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