サイコダイブ

藤村 「あらかじめ言っておきますが、これは、インチキでもペテンでもない」


吉川 「はい」


藤村 「そもそもサイコダイブというのは、被験者の意識の中に潜り込み、そしてそこから得られる情報をこちらの意識で処理をすると言う作業です」


吉川 「要するにイタコみたいなもんですか?」


藤村 「いや、イタコは死んだものを現世に一時的に蘇らせると言う、一種の霊現象を元にしたもので。まぁ、それについては真偽を問い始めるときりがないのですが、サイコダイブは霊現象ではありません。事実、被験者の中に入るのは私の意識ですから」


吉川 「はぁ……」


藤村 「では、よろしいのですね? これからサイコダイブをしても?」


吉川 「お願いします。それで弟の意識が戻るならば!」


藤村 「わかりました。それでは早速……」


キーーーーン


吉川 「なっ!? なんだ? この耳を劈くような怪奇音は!? これがひょっとして……サイコダイブ」


藤村 「あ、失礼。電話です」


吉川 「着信音かよ! なんだよ! なんでそんな耳障りな着信音なんだ」


藤村 「もしもし? 俺だけど」


吉川 「出ちゃうのか。なんか緊張感ないな」


藤村 「あ、今? そうそう。潜るところ。いや、参っちゃったよ、本当。あ、大丈夫。2、3分で終わるから」


吉川 「2、3分で終わっちゃうのか」


藤村 「またまたー。だからいつも言ってるじゃん。……お前だけだよ♪」


吉川 「うわぁ、妙に甘ったるいトークの電話だなぁ」


藤村 「失礼しました。最近、妙に間違い電話が多くて」


吉川 「間違い電話じゃないだろ。明らかに弾んだトークしてたじゃんか」


藤村 「それでは、気を取り直してダイブします」


吉川 「本当に弟は大丈夫なんでしょうか?」


藤村 「安心してください。今の所、成功率は……%です」


吉川 「え? ちょっと、今のところ聞きにくかったんですが」


藤村 「ほにゃ……%です」


吉川 「なんか濁してません?」


藤村 「ほにゃらら%です!」


吉川 「なんだ、ほにゃらら%ですって。それは何%なんだ」


藤村 「ご想像にお任せします」


吉川 「いや、大丈夫なんですか?」


藤村 「ひょっとして疑ってらっしゃる?」


吉川 「そりゃ。初めてですから」


藤村 「誰でも初めての時はそうおっしゃいます。しかし終わったあとには皆さんこうおっしゃりますよ。……金返せ。と」


吉川 「ダメなんじゃないですか! みんな不満爆発してるじゃないですか!」


藤村 「おっしゃりたいことはよくわかっています。でもご安心下さい。私たちが考えることはまず弟さんの命のことです」


吉川 「そうですよ。お願いしますよ」


藤村 「弟さんも今はきっと苦しんでいると思われます」


吉川 「だからこそ」


藤村 「しかし私にも危険なことなのです。もし弟さんの意識にとらわれてしまったとしたら、私も二度と……」


吉川 「そんなことにはならないように、どうかお願いします」


藤村 「関西には、こういう言葉があります」


吉川 「はぁ」


藤村 「餅は餅や!」


吉川 「いや、それは、餅屋なのでは……」


藤村 「餅やで! 怒るでしかし」


吉川 「なんか、間違った関西の認識のされ方をしているんじゃ」


藤村 「蛇の道はヘビー」


吉川 「蛇ですね。ヘビーって言っちゃうと、なんか大変そうだから」


藤村 「つまり、こういうことは専門家に任せていただければいい」


吉川 「お願いします。もう先生しか頼ることはできないのです」


藤村 「それでは、弟さんの意識に潜ります」


吉川 「お願いします」


藤村 「あ、一緒に来ます?」


吉川 「いや、そんなライトな感じで誘われても」


藤村 「大丈夫。近くだから」


吉川 「近くなの!?」


藤村 「すぐすぐ。駅の側だから」


吉川 「駅の側!? 弟の意識が? 駅ってなに駅?」


藤村 「ほら、一人だとアレだし。なんかさ、寂しい感じするじゃん?」


吉川 「はぁ……別に、私は構いませんけど」


藤村 「まじで!? 友達も呼んでいい?」


吉川 「いや、呼んじゃまずいでしょ。弟の意識に潜るんでしょ?」


藤村 「じゃ、二人で行きますか」


吉川 「はぁ……」


藤村 「あ、その前に、金属の物とか身につけてません?」


吉川 「えーと、財布と、携帯と、あとベルトのバックルかな」


藤村 「それ、入るときはずしてもらわないとビーって鳴るから」


吉川 「え? なにがビーって鳴るんですか?」


藤村 「俺が」


吉川 「あなたが鳴るんですか? 意味がわからない」


藤村 「つい言っちゃうの。ビーって」


吉川 「それは、我慢すればいいんじゃ」


藤村 「わかった。じゃ、なるべく我慢してみる」


吉川 「お願いします。なるべくビーって鳴らない方向性で」


藤村 「じゃ、潜りますよ」


吉川 「はい」


藤村 「ご唱和ください。クルクルバビンチョパペッピポ ヒヤヒヤドキッチョのモ~グタン♪」


吉川 「え……。それ言わないとだめなんですか?」


藤村 「いや、言わなくてもいいですけど、気分的に言った方が盛り上がると思いますので」


吉川 「いや、盛り上がりとか別にいいですから。無事であれば」


藤村 「そうですか? 結構みなさん喜んで言ってもらってるんですけどね」


吉川 「あの……。とりあえず早く弟の……」


藤村 「わかりました。それでは、ダイブします」


吉川 「はい」


キーーーーン


吉川 「また着信音かよ」


藤村 「いや、今回は違います」


吉川 「はっ!? これが、サイコダイブ……」


藤村 「メールです」


吉川 「メールかよ! わかったから、携帯切っておいてくれよ」


藤村 「すみません。マナーモードにしました」


吉川 「とにかく、早く、弟を!」


藤村 「わかりました。行きます!」


吉川 「はい」


藤村 「サーイコ、ダーイブ!」


吉川 「うわぁ……」


藤村 「着きました」


吉川 「ここが……」


藤村 「……という、段取りで行きますから」


吉川 「まだ始まってないのかよ! なんだよ! リアクションし損だよ」


藤村 「もう、入ってるんですよ……」


吉川 「え?」


藤村 「ここは、あなたの意識の中です」


吉川 「どういうことですか?」


藤村 「あなたの弟さんの依頼によって来ました。私、サイコダイバーの藤村と申します」


吉川 「え? え!?」


藤村 「ここは、あなたの意識の中なのです」


吉川 「まさかっ!?」


藤村 「嘘ではありません。御覧なさい、この風景、全てあなたの心の中にある風景だ」


吉川 「わ、私は……」


藤村 「さぁ、一緒に戻りましょう」


吉川 「そんなっ!? 私は……」


藤村 「あなたの世界、それはあなたの中にある意識の中の世界だ。そして人はその外側に世界を持っているのです」


吉川 「では、私は……」


藤村 「あなたは、あなたです。しかしそれは、あなたと言う意識の中のあなたに過ぎない。勇気を出して、目を開いてください」


吉川 「私は……」


藤村 「そうです。あなたの外にも世界はある」


吉川 「うわぁああああああ!」


藤村 「お帰りなさい。吉川さん」


吉川 「こ、ここが、本当の世界……」


藤村 「……という段取りでいきますので」


吉川 「もう勘弁してください」



暗転

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