落語

藤村 「落語を覚えようと思う」


吉川 「なんでぇ、やぶからぼうに」


藤村 「これからの時代、落語の一つもできないようじゃ、生き残っていけないからな」


吉川 「落語がそんなサバイバル術になるとは思えないけど」


藤村 「落語を教えてくれ」


吉川 「まぁ、俺はこう見えても落語の黒帯だからな」


藤村 「さすが、有段者は違うなぁ」


吉川 「じゃ、手始めに基本の寿限無あたりからいこうか」


藤村 「うん。頼む」


吉川 「かくばかり、偽り多き世の中に、この可愛さは誠なりけりといいまして」


藤村 「え? なに?」


吉川 「枕」


藤村 「お、俺は枕にはちょっとうるさいぞ。やっぱテンピュールが一番だね。NASAだから」


吉川 「うん。そうくると思った。そうじゃなくて、落語の前にくる、まぁなんというか導入のことを枕話というのだよ」


藤村 「あー、そっちの枕? それはなに? NASAで開発されたの?」


吉川 「NASAにそんな暇な職員はいない」


藤村 「俺はやっぱりNASAで開発されたやつがいいなぁ」


吉川 「これはね、子を思う気持ちというのはもってみないとわからないという意味なの」


藤村 「ほほぉ、いいこと言うね」


吉川 「かくまでに、親は思うぞ千とせ飴、なんて上手い事を言ったもんで……」


藤村 「それも枕?」


吉川 「そう」


藤村 「NASA?」


吉川 「NASAは出てこないから。NASAからいったん離れよう」


藤村 「わかった。俺も少々NASAにこだわりすぎてたきらいはある」


吉川 「ちょいと、おまいさん、何をしてるんだい。ぼーっとして」


藤村 「いや、ぼーっとしてないよ。ちゃんと聞いてるよ」


吉川 「いや。もうお話に入ってるの。いまのは女房のセリフ」


藤村 「あー。俺じゃないの?」


吉川 「女房がハチに向かって言ってるの」


藤村 「それで、なんか、ナヨナヨしてたのか」


吉川 「ナヨナヨ感で女の雰囲気を出してるんだよ」


藤村 「へー。なかなかやるもんだね。俺はすっかり女だとだまされたよ」


吉川 「ずいぶんあっけなくだまされるな」


藤村 「昔から騙されるのは得意だったんだよ」


吉川 「ぼーっとしてって、俺だって好き好んでぼーっとしてるわけじゃねーや」


藤村 「なんか、急に女房のキャラが変わったな」


吉川 「いや、これは別の人。ハチ」


藤村 「え? いつの間に!?」


吉川 「いや、いつの間って、今変わったんだけど」


藤村 「まじで? 超早い変身じゃん。蒸着じゃん!」


吉川 「なんだよ。蒸着って」


藤村 「宇宙刑事ギャバンだよ。0.05秒で宇宙からコンバットスーツが送られてきて変身するの」


吉川 「まぁ、そんな感じだよ」


藤村 「やっぱりそれは……NASAが作ったの?」


吉川 「しつこいなぁ。NASAは関与してないよ」


藤村 「NASAの手も借りずに、よくそれほど早い変身を……」


吉川 「落語ってのはね、登場人物が何人も出てくるから、こう、角度を変えたりすると違う人物になるわけ」


藤村 「へぇ、ギャバンにも?」


吉川 「いや、今のところギャバンが活躍する落語はないけど」


藤村 「やっぱギャバンは無理なのか」


吉川 「別に、ギャバンになってもかまわないけど、ギャバンがお父さんじゃ、ちょっと子供がかわいそうでしょ?」


藤村 「あー、子供にもばれちゃいけないからね」


吉川 「う、うん。そうそう」


藤村 「じゃ、ギャバンはまた次の機会にしよう」


吉川 「ちょっとしっかりしておくれよ。今日は坊やが生まれてから七日目じゃないかい」


藤村 「女房だ」


吉川 「なに? 初七日かい?」


藤村 「ギャバンだ」


吉川 「いや、ハチです」


藤村 「あ、そうだった」


吉川 「初七日ってバカだね。それじゃ死んだ人じゃないかい。お七夜っていうんだよ」


藤村 「女房だ」


吉川 「お七夜? そうか、そういうのかい」


藤村 「シャリバンだ」


吉川 「なんで、シャリバンがでてくるんだ。ハチだよハチ」


藤村 「あー、ハチか。そうか……。シャリバンはでてこないんだね」


吉川 「お七夜になったからには、名前をそろそろ決めてもらわないと困るんだよ」


藤村 「女房だ!」


吉川 「そうか、そろそろ名前をきめねーとなんねぇのか。でもおまえ、俺のつけた名前にいちいちケチつけやがって、これじゃいつまでたっても決まらねーじゃねぇか」


藤村 「ハチだ!」


吉川 「どうだろ? 一つ、名付け親ってのもあるんだから、横丁の隠居のところに言って聞いてみるってのは?」


藤村 「女房だ!」


吉川 「そうだな、いっちょ、隠居にでも決めてもらうか」


藤村 「ハチ!」


吉川 「……ん、っつ~と……」


藤村 「どうした? もぞもぞして、おしっこ漏るのか?」


吉川 「違うよ。これはこう、歩いている感じをだしてるの」


藤村 「おしっこ漏るんじゃないのか」


吉川 「横丁の隠居のところにね、歩いていくの。急に隠居がでてきたらビックリするでしょ?」


藤村 「うーん。隠居のことだから、どこか屋根の天袋に隠れているとも限らないぞ」


吉川 「そんな風車の弥七みたいな隠居いない」


藤村 「さっきは、すぐに変身したくせに、面倒くさいねぇ」


吉川 「ご隠居! すいません、ご隠居!」


藤村 「着いたわけだな」


吉川 「おやなんだい、誰かと思ったら長屋のハチかい」


藤村 「誰だ!」


吉川 「隠居だよ」


藤村 「ニューキャラだな?」


吉川 「ここからは、隠居の家で、隠居とハチとのやり取りになるの」


藤村 「よし! だいたいわかった」


吉川 「いや、まだ全然だから」


藤村 「そうなの?」


吉川 「これから寿限無の名前をつけてもらうって話になる」


藤村 「それ、あれでしょ? 長いやつでしょ?」


吉川 「長いところが面白いっていう話だからね」


藤村 「いいや、長いの面倒だもん」


吉川 「面倒って……じゃ、どうするんだよ」


藤村 「そこらへんは、適当に現代風にアレンジするよ」


吉川 「どうやって?」


藤村 「え~と、Child is pretty cute ! don't you ?」


吉川 「なんでいきなり英語なんだ」


藤村 「NASAで開発された枕だから」



暗転



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