秋
小秋 「やべっ! 見つかっちゃったぁ~」
吉川 「え?」
小秋 「こんなにすぐ見つかるとはね。今年はもうちょっと粘れると思ったんだけど」
吉川 「なんなんですか?」
小秋 「見ての通り、小さい秋です。まさかもう見つかっちゃうとは」
吉川 「あの、普通のおじさんにしか見えないんですけど」
小秋 「そういうものなんだよ。幸運の女神だって幸運という概念を美女に映し出しただけでしょ。人というのはそうやって概念を擬人化して身近に感じてきたんだよ」
吉川 「で、小さい秋? あなたが?」
小秋 「あんまり自分でね、小さいとか大きいとかいうのも嫌らしいから言いたくないんだけど、秋です」
吉川 「小さい秋って、主に何をするんですか?」
小秋 「主にアレだね。見つかる」
吉川 「見つかる」
小秋 「後はアレかなー、見つからなかったりもする」
吉川 「二択。見つかるか見つからないかだけですか?」
小秋 「見つかりかけるけど見つからないっていうのもあるし、そのあたりは非常にセンシティブな問題だから断言はできないけどね」
吉川 「それほどセンシティブには思えないけど。見つかるかったらどうなるんですか?」
小秋 「ちょっと恥ずかしいよね」
吉川 「恥ずかしいんだ。それで?」
小秋 「照れるよね」
吉川 「おじさんの感情は別にどうでもいいんですよ。見つけてどうするんです?」
小秋 「どうするとかはないよ。じゃ、君はアレか? ウォーリーを探せでウォーリーを探してどうするんだ? 出生の秘密でも打ち明けるのか?」
吉川 「いや、ただ探すだけですけど。あれは探すことを楽しみものじゃないですか」
小秋 「小さい秋だってそうだろ」
吉川 「そうだろって断言されたけど、その概念を初めて聞いたもので。そういうものなんですか?」
小秋 「だいたいみんなこの時期になると探し始めるじゃない。小さい秋とかツチノコとか金のエンゼルとか」
吉川 「探してます? 今どきツチノコを」
小秋 「なに? 探してないマウント? 俺は全然興味ありませんけどっていうマウントとろうとしてるの? そういうの逆に格好悪いよ」
吉川 「マウントとかじゃなくて。実際に探してないもので」
小秋 「探してないってことはないんだよ。人というのは探すものなんだよ。悟空がドラゴンボール探さなかったら今頃地球はどうなってたかとか考えたことないの?」
吉川 「考えたことないです」
小秋 「嘆かわしい! こういうご時世だからあんまり言いたくないけど、人というのは求め続けて成長するものじゃないの。人間の美しさというのはそういうところにあるんだと小さい秋は思うな」
吉川 「小さい以外の秋もあるんですか?」
小秋 「あるっていうか、あと一月もすれば中くらいの秋になるよ」
吉川 「成長するんだ。出世魚みたいなシステム」
小秋 「今は身長156cmくらいかな? 一昨日計ったときそのくらいだったから。まぁ、ちょっと小さめだよね。でも一月で170cmくらいにはなる。そこからさらに3ヶ月もすれば190cm超えると思うから、一般的には大きい秋って言われるね」
吉川 「四ヶ月後はもう秋じゃないですよ」
小秋 「そういう決めつけはよくない」
吉川 「決めつけじゃなくて真冬ですよ」
小秋 「……どうりで。大きい秋、いまいち誰も見つけてくれないと思ったんだ。見つかりやすいはずなのに」
吉川 「残念ですね」
小秋 「そっか、冬かぁ。……冬ってなに?」
吉川 「いや、秋の概念の人に言われたくないですよ。こっちが聞きたい」
小秋 「なんか企画してくれない? 大きい秋も見つけようみたいなイベントを。ネットで盛り上げてさ」
吉川 「こっちに頼まないでくださいよ。真冬にそんなもん誰がやりたがるんですか」
小秋 「今のうちから計画しないと。募集して! なんとかして!」
吉川 「そんなこと言われても。誰も参加したがらないと思いますけどね」
小秋 「誰か参加、誰か参加、誰か参加、見つけて~!」
暗転
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