禿

吉川 「あれ? なんかこれ……」


藤村 「おっと、それは明らかにハゲですね」


吉川 「わぁ、なんだあんた。どこから来たんだ」


藤村 「幸せの青い鳥を求めているうちに、ひょっこり出くわしました」


吉川 「ひょっこり来ないでくれ。帰ってください」


藤村 「いやいや、そうご謙遜なさらずに」


吉川 「謙遜してないよ! なんだお前」


藤村 「申し遅れました。私、あだ名が藤ちゃんと呼ばれてます」


吉川 「なんで初対面であだ名で呼ばなきゃいけないんだ」


藤村 「おっと失礼。略して藤村と申します」


吉川 「だから、何を略したんだ! それが名前だろ」


藤村 「いえいえ、お茶だけで結構でございます」


吉川 「茶なんかださねーよ!」


藤村 「バッターだけに三振! なんちゃって」


吉川 「いや、意味がわからない。なにがバッターだけだったんだ」


藤村 「宴もたけなわではございますが、あなたのその後頭部!」


吉川 「う……」


藤村 「それはハゲですね。正式名称、円形脱毛症候群」


吉川 「別に群はできてない。一個だけだ」


藤村 「そんなあなたのハゲを救うために、青い鳥に連れ去られて参りました」


吉川 「捕まってたのか」


藤村 「そのハゲのままで生活をしますか? 隠しながらバレるのを怯える弱者の人生を送りますか?」


吉川 「うぅ、なにか、いいものでも?」


藤村 「いいものも何も、相当いいものづくしです」


吉川 「尽くさなくていいから。一つでいい」


藤村 「これです」


吉川 「……なにこれ?」


藤村 「一見、何これととお思いでしょう! しかし、これは……え? なんだこりゃ?」


吉川 「お前が把握してないじゃないか!」


藤村 「まぁ、つまりこれもイリュージョンの一環なわけですが」


吉川 「いつからイリュージョンだったんだ」


藤村 「まぁまぁ、自己紹介はこのくらいにして、そろそろフリータイムに入りますか」


吉川 「勝手にフリーにしないでくれ。何しに来たんだ」


藤村 「おっと。あなた。ハゲを気にしてらっしゃる?」


吉川 「最初からそう言ってるだろ!」


藤村 「奇遇だなぁ。私も11月生まれ」


吉川 「俺は7月生まれだし、なにがどう奇遇なんだ」


藤村 「ハゲを隠したい?」


吉川 「はぁ……。まぁ、できれば」


藤村 「この負け犬め!」


吉川 「なんなんだ! なんで罵倒されなきゃいけないんだ!」


藤村 「わかりました。村を救ってくれたお礼に、私がとっておきのハゲ隠しアタッチメントを授けましょう」


吉川 「いや、ぜんぜん村は救ってないけど」


藤村 「これじゃ」


吉川 「なんだよ! これさっきのわけわからないやつじゃん。もっと部分カツラみたいなやつじゃないの?」


藤村 「そんなもので世間の目を欺けると思ってか!」


吉川 「うっ……」


藤村 「これをよく見ろ。ドロドロのグチャグチャだ」


吉川 「はぁ」


藤村 「おまけに、ちょっと臭い」


吉川 「ほんとだ。臭い」


藤村 「半径20km圏内の犬が盛りのついたように吠えまくるほどの強烈な香りじゃ」


吉川 「そんなもんいらないよ!」


藤村 「ばかもん! これをハゲた部分に塗って御覧なさい」


吉川 「毛が生えるの?」


藤村 「生えるかっ! こんなドロドログチョグチョクサクサで生えてたまるか」


吉川 「じゃぁ、なんで塗るんだ!」


藤村 「バカだなぁ。これをつければ世間から羨望のまなざしで見られるぞ」


吉川 「とてもそうとは思えない」


藤村 「すごい賢そうに見える」


吉川 「なんでだよ」


藤村 「ほら、まるで脳みそがはみ出てる人みたい! 誰もハゲになんて着目しない!」


吉川 「いらない」



暗転

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