夢遊病

吉川 「先生、私はどうやら夢遊病のようで」


医者 「ほぉ。どうしてそんなことを?」


吉川 「私が寝ている間にどうも奇妙なことが起こっているらしいのです」


医者 「吉川さん、こんな話を知ってますか?」


吉川 「どんな話ですか?」


医者 「桃太郎。むかしむかしあるところに……」


吉川 「いや、桃太郎なら知ってます」


医者 「そうですか。私なりにアレンジした新作なんですが」


吉川 「それが夢遊病となにか?」


医者 「関係はありません。ただ言いたかっただけ」


吉川 「はぁ。いや、私深刻に悩んでるんです」


医者 「お気持ちはお察しします。ただ、私の桃太郎も抜群に面白いんです」


吉川 「それどころじゃなくて」


医者 「わかりました。桃太郎は別の機会にしましょう」


吉川 「そうしてください」


医者 「ところで吉川さん、こんな話を知ってますか?」


吉川 「いったいどんな?」


医者 「可哀想な象。むかしむかしあるところに……」


吉川 「いや、知ってます。可哀想な象は知ってますから」


医者 「あれ可哀想だよね。まじで」


吉川 「そうじゃなくてですね、私の夢遊病を」


医者 「あぁ、そうですか。でもいいんですか?」


吉川 「なにがですか?」


医者 「私の象はいままでの概念を超越した可哀想さ加減ですよ」


吉川 「そんなの別にどうでもいいです」


医者 「可哀想なのに……」


吉川 「私の方がずっと可哀想だ!」


医者 「お言葉ですが吉川さん」


吉川 「はい?」


医者 「象の方が可哀想ですよ」


吉川 「わかったから。はいはい。象は可哀想。だから私の夢遊病を!」


医者 「ところで吉川さん、こんな話を……」


吉川 「またか!」


医者 「小人の靴屋と言うお話です」


吉川 「あぁ。小人が靴を作る」


医者 「昔々、おじいさんとおばあさんがいました」


吉川 「おばあさんは出てこなかったような」


医者 「その隣におじいさんがたった一人で経営する靴屋がありました」


吉川 「最初のおじいさんとおばあさん、導入のためだけに出てきたの?」


医者 「おじいさんはある日、靴の納品を頼まれてたのですがとてもじゃないけど間に合いそうにない」


吉川 「はいはい」


医者 「あぁ。今夜中に二億足は無理だ!」


吉川 「多い! そりゃ無理だよ」


医者 「なんとか一億九千万足までは作ったものの、力尽きてしまいました」


吉川 「一億九千万足まで作ったことがすごいよ」


医者 「あぁ、可哀想な象」


吉川 「象関係ないじゃん!」


医者 「おじいさんは最新の医療技術により一命を取り留めましたが昏睡状態でした」


吉川 「そもそも、いつの話なんだ」


医者 「その時! 川上からどんぶらこと靴が!」


吉川 「小人は! なんで川上から流れてくるの?」


医者 「きっと川上で事故でもあったのでしょう」


吉川 「妙にリアルな話だな」


医者 「それはさておき、おじいさんの靴屋では突然、穴と言う穴から這い出した小人であふれかえってました」


吉川 「嫌な登場のしかたするな」


医者 「小人達はおじいさんのためにえっちらおっちら靴を作りました」


吉川 「やっとちゃんとした話になってきた」


医者 「おじいさんが目覚めて靴屋に戻ってみるとそこには……」


吉川 「靴があったんでしょ?」


医者 「二億足の靴と力尽きた小人の死体がビッシリと」


吉川 「死んじゃったの!? なんか見たくない光景だな」


医者 「あぁ! 可哀想な象!」


吉川 「象は関係ないじゃん」


医者 「……というお話です」


吉川 「なんかとっちらかってよくわからなかったけど」


医者 「つまり、吉川さん、あなたが夢遊病だと思っておられるのは小人の仕業だということはありませんんか?」


吉川 「なんでそんなにロマンチックな展開になっちゃうんだ」


医者 「あなたが夢遊病だと言う証拠はありますか!」


吉川 「いや……そう言われると……」


医者 「あなたは夢遊病ではない!」


吉川 「う……うぅ……」


医者 「はっ!? どうしました? 吉川さん、いまさらさっきの話の感動は押し寄せてきたんですか?」


吉川 「うぅ~ん。はっ!? また寝てしまったようだ。すみません。ここはどこですか?」


医者 「……え? 今まで寝てたの?」


吉川 「すみません」


医者 「え~と……どうやら夢遊病のようですね。ではこれを処方しておきます」


吉川 「なんですかこれ?」


医者 「靴です」



暗転

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