ご愁傷さま

藤村 「本日は誠にご愁傷様です」


吉川 「これはご丁寧にありがとうございます」


藤村 「しかし突然のことで……」


吉川 「あの、失礼ですけど……」


藤村 「紹介がおくれました私、故人とは古い付き合いでして」


吉川 「あぁ、そうですか」


藤村 「まぁ、腐れ縁というんですかね」


吉川 「そうなんですか」


藤村 「あいつは……大空みたいなやつでしたよ」


吉川 「その言葉を聞いたら喜ぶと思います」


藤村 「曇ってたけど」


吉川 「くも……そ、そうですか……」


藤村 「なんか春先の肌寒い曇り空って感じかな」


吉川 「はぁ……」


藤村 「あるっしょ? 体育の時間、短パンにしようかジャージにしようか迷うくらいの」


吉川 「まぁ、そういったところもあったかもしれません」


藤村 「でもね、優しかった。海みたいなやつだったよ」


吉川 「そうですよね!」


藤村 「それも赤潮! びっしりプランクトン」


吉川 「赤……」


藤村 「もう、ミジンコとかケンミジンコとかその他のミジンコとか」


吉川 「ミジンコばっかりだな」


藤村 「そんなやつだったよ」


吉川 「ミジンコばっかりの……」


藤村 「あと、色々な意味ででっかいやつだった!」


吉川 「そうだったんですか」


藤村 「知らないかもしれないけどね。ちょっと小さめのビルとかなら一跨ぎ」


吉川 「いやいやいや、実際のでかさ? そんなにないよ」


藤村 「あいつのあだ名、山だったからね」


吉川 「えー。そんな人だったの?」


藤村 「まぁ、山ってのは本名からきてるんだけど」


吉川 「そんな名前じゃないですけど」


藤村 「あいつとの思い出を語ったらつきないよ」


吉川 「そうですか」


藤村 「笑ったのはアレ! 焼きそば事件」


吉川 「へー。なにがあったんですか?」


藤村 「一緒に焼きそば食べたんだわ」


吉川 「はい」


藤村 「美味しかったぁ」


吉川 「えぇ」


藤村 「……懐かしいなぁ」


吉川 「え? 終わり!? 事件は?」


藤村 「これが世に言う焼きそば事件」


吉川 「いやいや、事件おきてないじゃないですか。焼きそば食べただけじゃないですか」


藤村 「あの時代は焼きそば食べること自体が大事件だったんだよ」


吉川 「いつの時代ですか! そんな時代に生きてませんて」


藤村 「あとね、番組録画しようと思ったら野球の延長で30分撮れなかった事件」


吉川 「いや、もう事件の名前だけで内容わかっちゃいました」


藤村 「あの時は悔しかった」


吉川 「……一緒に見たんですか?」


藤村 「いや、昨日。まじで悔しかったよ」


吉川 「あなた個人の事件じゃないですか! ぜんぜん思い出じゃないじゃないですか」


藤村 「この悔しさを誰かに伝えたかった」


吉川 「いや、伝えてくれなくて結構ですよ。はた迷惑だな」


藤村 「でもね、あいついいやつだったの」


吉川 「もういいですよ。なんか変な話ばっかりじゃないですか」


藤村 「どれもこれも大切な思い出だよ」


吉川 「もっとこう、あなただけが知ってる故人との思い出とかが聞きたいです」


藤村 「あいつはもち肌だった!」


吉川 「いや、知らないですよ。そんなこと言われてどうリアクションすればいいんですか」


藤村 「あとね、あとね、うぶ毛。こう、生え際のところにうぶ毛がふわぁ~って」


吉川 「いや、だから」


藤村 「あとは、そうそう。キューティクルすごかった」


吉川 「もういいですって」


藤村 「あと、肘! 肘のここのたるんでる部分てつねっても痛くないよね?」


吉川 「それは故人だけじゃない!」


藤村 「あと手相がよかった!」


吉川 「でももう死んだ!」


藤村 「あといい匂いしてた!」


吉川 「もう死臭!」


藤村 「あとすごいいい感じ!」


吉川 「なんか、漠然としてる」


藤村 「あとね、あとね、俺だけが……俺だけの……え~と」


吉川 「わかりましたから」


藤村 「あと、俺が故人!」


吉川 「父さぁ~ん!」



暗転

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