衝動
吉川 「俺は感情を表に出すことはない。ただ命令に従うだけのマシーンだ」
藤村 「哀れだな」
吉川 「なんとでも言うがいい。俺はそういう風に育てられた。そういう生き方しか知らない。それ以外の生き方などないのだ」
藤村 「お前をそんな風にした組織に憤らないのか?」
吉川 「言っただろ。俺は感情を持たない」
藤村 「そうじゃない。お前は感情を持っている。ただそれを押さえつけられてるだけだ。組織によってな」
吉川 「お前、いったい何を知ってるんだ?」
藤村 「お前のことは調べさせてもらったよ」
吉川 「同情か? そのような感情を持つから人は弱くなるんだ」
藤村 「俺にはお前が強いようには思えないがな」
吉川 「俺を怒らせようとしても無駄だ。強いか弱いかは試してみればわかる。結果が全てだ」
藤村 「怒りたくても怒れないんだな」
吉川 「……」
藤村 「お前の脳内には小型の爆弾がしかけられている。それは脳のある信号により起爆する」
吉川 「その通りだ。俺が怒りに震えた瞬間……パンッ!」
藤村 「俺ならお前を救える」
吉川 「なんだと?」
藤村 「俺ならお前を救えると言ったんだ」
吉川 「お前は組織の科学力を甘く見てるようだな」
藤村 「お前の方こそ、俺の腕を甘く見ているようだ」
吉川 「言い残すことはそれだけか?」
藤村 「俺を殺すか? お前にとっては簡単だろうな。しかし、それでお前は一生組織の犬だ」
吉川 「俺は感情を持たない」
藤村 「本当か? 持ちたいんじゃないのか?」
吉川 「俺は……感情を……もたない……」
藤村 「迷ってるようだな。組織の外で生きることへの恐れか?」
吉川 「そんなものはない」
藤村 「お前は自由に感情をもてる。時に怒り、時に悲しみ、人を愛することもできる」
吉川 「俺は……」
藤村 「お前はお前だ。組織の犬じゃない」
吉川 「しかし……」
藤村 「そこで俺の出番と言うわけだ。こいつを見ろ!」
吉川 「なんだ、この巨大な機械は?」
藤村 「これがお前の翼となる。組織から自由に飛び立つためのな」
吉川 「俺の脳内の爆弾を……」
藤村 「そうだ。この高温高圧オーブンで」
吉川 「え? オーブン?」
藤村 「そうだ! なんと400度までOKだ」
吉川 「それで、どうする気だ?」
藤村 「こうするのさっ!」
吉川 「こっ……これはっ!?」
藤村 「ほぉら、吉川くん。新しい顔だよ!」
吉川 「……」
藤村 「焼きたてのほかほかだよぉ!」
吉川 「……パンッ!」
暗転
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