浅野の場合-19-

 自己紹介は沢田、佐伯、四ノ宮、白井と順に進んでいった。名前と職業と一言を交えた簡単なものだったが、互いの素性が解ったことで空気は和み、会話を交わすことも多くなった。

 白井の自己紹介が終わると浅野は皆に珈琲を振舞った。先程まで、銀行強盗の話をしていたとは思えない程に、徐々にだが打ち解けていく。白井と佐伯がカウンター席に、沢田と四ノ宮がテーブル席に一緒に座る。どうやら後者の二人は一番歳の差が有るのにも関わらず気があったようだ。

 皆が珈琲を飲みながら、数分経過した時だった。

「では、最後に私が自己紹介致しましょう」

 浅野が珈琲を入れる為に身に着けたエプロンを外し、そう言った。

「浅野さんもするんですか?」

沢田が不思議そうな顔をして尋ねる。

「えぇ、勿論。皆さんは私の事を知っているのですか?」

 浅野が微笑みながら問うが、その質問に答えられる者は誰一人としていなかった。確かに、皆は彼と此処に集まる前に面識があり、名前も顔も知っている。しかし、『浅野』という人物が、何者なのかは解らないのだ。

「確かに一番知っとかなアカン人物やな。今更、喫茶店のオーナーです……なんて、オチや無いやろな?」

 白井は珈琲を一口啜り浅野を見つめて言った。砂糖もミルクも入れない珈琲そのものの味を彼は楽しんでいる。

「まさか。しかし、白井さんの言う通りです。皆さんを銀行強盗に誘っている張本人なのですから、私のことは知っておかなければなりません」

浅野は微笑みながら言い、皆の視線を自分に集まっていることを確かめると、 

「では、改めて自己紹介させて頂きます。私の名前は浅野と申します……単刀直入に隠さず言いましょう。私は以前、詐欺師をしていました」

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