浅野の場合-15-

「貴方の考えは多少理解したわ。確かに、話のとおりならばお金に関する損害は無いかもしれない。けど……」

「けど……何でしょう?」

 浅野が問い返す。しかし、彼の頭の中には佐伯が尋ねたい内容が既に解っていた。また、それに対する解答も準備が出来ている。

「けど、そこに居合わせた客達は傷つくわ。外傷では無く、心に傷がつくかもしれない」

 佐伯は浅野を見据えて言った。確かに、浅野の考える計画に誰かを怪我させることなんて含まれていない。だが、彼女の言うとおり銀行には客がいる。そして、銀行強盗に会ったショックで精神的にダメージを負うことは充分に考えられることだ。

 例えば、犯罪により巻き込まれた人物が犯人による目隠しにより暗所恐怖症になったり、犯行のあった場所が狭かった為に閉所恐怖症になったり……そのような事例は確認されている。佐伯が言いたいのは、そのことだろう。

「確かにそのとおりです。精神的なショックは厄介なことです。目には見えませんし、程度も解らない……しかし、それすらも取り除けたらどうでしょう?」

 浅野は佐伯の視線を受け止めて返す。今言った言葉に嘘は無い。確かに難しいことではあるが、彼は自分が考えている計画ならば可能だと確信していた。

「そ、そんな事できるんですか?」

 佐伯の反応を奪うように、沢田が驚く。しかし、彼だけでは無く残りの皆も声に出さずとも表情で驚いていることが浅野には伝わっていた。 

「えぇ、可能です。皆さんが協力してくだされば……ね」

 浅野は四人に微笑みながら締めくくった。 

「じゃあ、僕――」

 と、沢田が言いかけた時だった。

「ちょっと待った!!」

 沢田の言葉を遮り、白井の声が響いた。

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