白井の場合
白井の場合-1-
一人の白衣を着た男がゴーグルを付け、両手に持ったハンダ鏝を器用に動かしていた。彼の座るデスクは広いが、電子部品やネジなどの機構部品が散乱しているので作業できるスペースが随分と狭くなっている。決して広くは無い室内には、彼の作業音と何かが駆動するモーター音が響いていた。
「ふぅ……。完成やな」
そう言うと彼はハンダ鏝の電源を落とし、ゴーグルを外した。
「さて、依頼主に報告しとくか」
携帯を取り出し、ボタンを押すとコール音が耳元で鳴る。単調な音が数回響くと相手が彼の呼びかけに応えた。
「はい」
「もしもし? 白井(しらい)ですけど、御依頼の品物が完成しましたんで連絡させて頂きました」
「そうですか。では、いつ取りに伺えば宜しいでしょうか?」
「いつでも構いませんよ。今日でも全然」
「そうですか。では、本日は時間が空いていますので今から取りに伺います」
「はい。わかりました」
一通りのやり取りを終えると、白井は持っていた携帯の電源を切り、散らかったデスクの上に投げるように乱暴に置いた。そして、そのデスクが置いてある作業部屋から出るとリビングにある茶色の二人掛けソファーに横になる。大きく息を吐くと、周囲を見渡した。
六畳の部屋一つに十畳のリビングで構成されたマンションの一室に白井は住んでいた。リビングは片付いているが、作業部屋として使っている六畳の部屋はデスクだけでなく周りも自分が発明した物や作業道具で、ぐちゃぐちゃになっている。そして、視線をデスクに移す。そこには、先程完成させた黒い樹脂筐体に入った発明品が置いてあった。
「つまらんな……」
そう呟くと白井は、ゆっくりと眼を閉じた。
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