浅野の場合-11-
浅野と梟は、ほぼ同時期に裏社会に身を投じた。互いの行う仕事上、非常に友好な関係であり、浅野は梟から情報を貰い、梟も浅野から知っている情報を仕入れていたのだ。そこには、仕事を通じた信頼関係が充分に成立していた。また、浅野が現役の間は互いが敵になるようなことが無かったのも幸いだったのだろう。互いに、友のような感覚が確実に芽生えていた。
「少し、調べて欲しいことがあるのです」
浅野は梟の眼を見つめながら言った。
「何かしら?」
「この付近……とはいえ、大体二駅以上は離れた場所にある銀行を調べて欲しいのです」
「銀行?」
「はい。但し、条件として使途不明金が一千万以上存在している銀行です。いや……『蓄えている』と言ったほうが適切ですね」
浅野は、そう言うと珈琲を一口啜る。喉が動くのを確認した後に梟が切り出した。
「前者なら山ほどあるから断るところだけど、後者ならある程度絞れるわね。けど、それでも多いと思うわよ?」
「簡単に二十程リストアップして貰えれば結構です。あと、簡易的で構いませんので建物の構造も解れば好ましいです。どれくらい時間が必要ですか?」
「今は手が空いているから、三日もあれば楽勝」
「流石ですね。仕事が速い」
「内容が簡単過ぎるもの。ぬるま湯過ぎて風邪引かないように気をつけないといけないわ」
どうやら、彼女にとっての不安は簡単過ぎる仕事をして裏社会の仕事時に、感覚が残り油断が生まれることの方が心配らしい。おそらく、浅野の依頼では彼女の腕を鈍らせるところか、暇潰しにもならないだろう。それほど、彼女にとって今回の依頼は容易いことなのだ。
「では、お願いします。報酬は――」
「いらないわ」
浅野の言葉を遮るように、彼女が言い放つ。続けて、
「その代わり、教えて。貴方が何をしようとしているのか……まさか、裏社会に復帰するつもり?」
「いえ、それは有り得ません。私は、もう充分に裏社会での仕事は楽しみました。戻っても、また『退屈』に苛まれるだけです。だから、引退した訳ですが――」
平穏の日々――それは、間違い無く自身が望んだものだ。しかし……
「表の社会でも『退屈』は存在しました。裏社会での『退屈』、表社会での『退屈』。種類は違ったとしても、私には耐え難いものです」
梟は黙って、浅野の言葉を聞いていた。彼女自身は、裏社会にいて『退屈』と感じたことなどは無い。だから、彼の言葉に共感することは無かったが、何処にいても『退屈』に苛まれるということは、セカイに居場所が無いということと同じ意味だと思った。
「私にとって、このセカイは『退屈』で構成されている。だから、壊すことにしました」
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