浅野の場合-9-
時刻は夜中の九時を過ぎた頃だった。周囲は暗く、街灯が煌々と光り誘われる様に虫が二、三匹飛んでいる。また、人通りも少ないので異様な程の静けさに包まれているようにも感じた。
浅野の喫茶店も当然の如く閉店しており、電気も消えている――しかし、そのことを気にも留めずに扉を開ける者がいた。そして、また扉も抵抗無く容易に、その者の進入を許す。
「いらっしゃいませ」
扉が開き、中に入って来た者を迎え入れる様に浅野が声を掛けた。彼は暗闇の中で、その者が来ることを待っていたのだ。とはいえ、暗闇ままでは会話をするのにも支障を来たす。彼が店内のスイッチを押すと、僅かに遅れて電灯が点き室内が明るさを取り戻した。
「まさか、貴方から連絡があるなんて想像もしてなかったわ」
そう言ったのは、この時間に浅野に呼び出された一人の女性だった。歳は若く、二十歳前後だろう。紺のジーンズに黒いパーカーと同色のキャップを被っており、その帽子から出ている髪は短く金色だ。帽子を深く被っているので、傍から見ると男性に見えるかも知れない。
「夜分遅くに申し訳御座いません、梟(ふくろう)さん」
浅野は、その女性に声を掛けると微笑みと共に一礼した。
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