第41話 今日は曇り空だ
赤髪が黒甲冑の人物の正体で、酒場で事件を起こし城崎を襲った犯人か……
ありえるな。あいつは広場でおかっぱ頭と揉めていた。殺す動機がある。
そして、城崎を襲った理由。
城崎は勘が鋭いから、赤髪が犯人だと気づいていたんじゃないか? それを赤髪も察知して口封じのため城崎を狙った。
それに……そうだ! そもそも城崎がここに泊まるって話はあのプレイヤーたちにしか伝えてないじゃないか!
俺とエルの関係を知っていた点からしても、間違いない赤髪が黒甲冑の中身だ。
「…………でも、それを知ってこれからどうすればいい」
ここが日本なら警察に話して捜査してもらうところだが、ここなら…………あいつか、調査のため町に来てたフレッドとかいう騎士に伝えればいいか。
だがもう夜は深く外は暗い。しかもさっき黒甲冑に襲われたばかり、まだ近辺をうろついているかもしれない。格好の的になる灯りを持って、一人で外に出るのは危険だ。今寝ている二人を置いていくこともできない。
明日、朝起きたら町に向かって報告しよう。
目を閉じて静かに眠っているエル側から城崎側に寝返る。城崎はあれからまだ目を覚ましていない。
「なあ城崎、お前は全部知っていたのか?」
きっと赤髪が犯人だと知っていて、それを告発するべきかずっと悩んでいたのだろう。
俺の知っている城崎麗華なら、悪人には容赦なく秒で裁きを下すはずだ。いつも論理的な決断をする城崎が、今回は情に流された?
…………俺には城崎の気持ちはわからない。明日、目が覚めたら訊いてみよう。
夜間の警備は相棒に任せて、俺は眠りについた。
◇ ◇
「――――――くださ――い――」
うん? かわいい声が大きな声量で俺を呼んでいる。
「――――ツバキ――さまっ! ――」
なんだか慌ただしい。グラグラと俺を揺らしている。
「ツバキさまっ! お願いです! 起きてください!」
――エルが必死に俺に呼び掛けている!
一気に覚醒し、ガバッとベッドから起き上がった。
「どうした!?」
エルはひどく狼狽していた。
「大変です! レイカさまがいないんです!」
「何っ! どうしてだ!?」
城崎がいない……だと!?
「わたしが今朝起きて牛さんのお世話をしていたら、レイカさまがやってきて、少しだけお話ししたんです。その途中でレイカさまは体調がまだ優れないと言って家に戻りました。そして、わたしが家に戻ったらいなくなってて……」
城崎は一回起きて、その後、行方をくらませたのか。
「
「はい、わたしも家の近くから離れないようにしていたので、あの方が現れたらすぐにわかるはずです」
となると、城崎は自分からこっそりとここを離れたのか?
「城崎と話したのはどれくらい前だ?」
「お日様がまだ少し暗かったころです。今から、えーと……ツバキさまが寄り道せず町に行って帰ってくるくらい、でしょうか?」
2時間、といったところか。
自分から動いたのだとすれば、城崎が向かった先ははっきりしている。アルージュだ。それ以外に用事がありそうな場所はない。
ここから町まで歩けば3時間だが、急げばもっと早い。すでに町に着いているかもしれない。
いったい何の用で……って決まっているか。黒甲冑の正体についてか。
昨日の件もあって、早急に告発すべきだと考えて町に向かった……んじゃないか?
エルは困り果てているようで、ウロウロと部屋を歩き回っている。
「どうしましょう……」
城崎に何かあったわけじゃないと思うが……不安だな。
よし決めた。
「俺が町まで行って様子を見てくる。すぐ戻ってくるからエルはここで待っていてくれ」
「はい……お願いします。必ず、無事に帰ってきてください!」
言葉のトーンを強めて承諾してくれたエル。俺のことを心配してくれているようだが、城崎のことも気にかかるのだろう。
俺としてもエルを一人残すのが不安だが、そんな調子で飛び出した城崎を無視することはできない。
それに、エルは昨日凄い覇気で黒甲冑を追い返した。城崎が言っていたエルが強いという予想は的中しているかもしれない。
俺はどんよりとした空を一瞥し、町に向けて移動を開始した。
◇ ◇
プレイヤーが宿泊している宿に入る。とりあえず、ここを当たってみるか。他に城崎が行きそうな場所に心当たり無いしな。
宿の1階共有スペースでは、オーナーのお姉さんが落ち着かない様子でうろちょろしていた。俺が中に入ると、声をかけてきた。
「あ! ツバキさんおはようございます。あの、皆様は外出しております」
「全員か? 城崎を探しに来たんだが……」
「あら? レイカさんでしたら先ほどお見えになりましたよ」
「本当か!? どこに行ったんだ?」
俺は食い気味に問いただす。お姉さんははっきりしない態度でそれに答える。
「たぶん、勇者さま方の元に向かったと思うんです。少し前にかなり焦っているようすでレイカさんが宿を訪れて、勇者さま方の居場所を尋ねたんです。私が南西の草原に向かったと話したら、そのまま宿を飛び出して行ったんですよ」
嫌な予感がする。
「その集団に赤髪――ヴォルドバルドは混ざっているか?」
「ええ、今朝他の勇者さまと一緒に草原に向かわれましたよ」
赤髪も……共にいる!?
ダラダラと汗が噴き出す。これは、何だかマズイことになってるんじゃないか?
堪らず、俺は急いで宿を出て、南西にあるらしい草原の方向にダッシュで駆け出した。
◇ ◇
曇り空からポチャポチャと雨が降り始めた。見渡す限りの緑、空は灰色。見覚えのある光景だ。
「相変わらず何もない草原だな」
俺がこの世界に降り立った場所。永遠に広がる草原だった。
「あいつらはここで何するつもりなんだ?」
モンスターがいる気配はない。俺がさまよっていた時もどうにかスライムを一匹見つけられたほどだ。
城崎が心配でここまでダッシュしてきたが……どこにいるのか場所がわからない。見晴らしはいいが、いかんせん広すぎる。
「地道に探すしかないか……」
定期的にダッシュしながら人影を探す。今日の調子は『好調』。まだ魔力は残っている。
そうしていると、不意に、人型のシルエットを遠方に捉えた。人が二人立っているようだ。
「城崎か!?」
ダッシュで近づくと、徐々に状況が見えてきた。
「――――ッ! やはりそうかッ!!」
そこには、全身の力が抜けたように膝をついている城崎。
そして――剣を右手に持った赤髪。
ヴォルドバルドが城崎を見下ろしていた。
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