第22話 ドストライクだ!

 その服は、清らかな白を基調としている。最大の特徴はホワイトラインが入った紺色の大きな襟。


 傍には赤色のスカーフ、ひだが重ねられたプリーツスカート。


 女学生のシンボル――セーラー服がそこにあった。


「セーラー服だとぉぉおおおおおおおおお!」


 最高じゃないか! 俺は純粋無垢な女子高校生が大好きだからドストライクだ!


 いつかセーラー服を脱がせたり脱がさなかったりして週刊誌みたいなエッチをしてみたい!


 セーラー服といえば、あれだ。伝統ある名門学校の制服ってイメージだ。黒髪で清楚な、いいとこのお嬢様が身に着けてそうだな。誰であっても、これを着てるだけで清楚度がうなぎ上りだ。


 だが、セーラー服の真価は別にある。例えば、わがままボディのエルがこれを着ている姿を想像するんだ。服は清楚系なのに、一見でわからされてしまうほどデカすぎるバストが激しく主張していたらどうだ。


 ――ただ露出が多い服よりエッチだろ? ドスケベな体つきとピュアな服装が大きいギャップを生むんだ。


 そう、つまりこれは乳首と同じだ。柔らかいおっぱいに少し硬めの先端部がついているんだぞ。このギャップに興奮しないやつは男じゃない! 俺は女になっても興奮するぞ!


 …………話が脱線したな。セーラー服を見てハイテンションになってしまったようだ。


 つまり、エルの家のチェストの五段目にはセーラー服が入っていた。


「でも……なぜここにセーラー服が?」


 ――その瞬間、俺の天才的頭脳が高高度な演算処理を開始する。脳内が難しそうな数式で溢れかえる。


 答えを導きだしたのは一瞬だった。そう、可能性は3つある。


 一つ目、これはエルが通っていた学校の制服。この世界にも学校はあるだろう。そこにエルが在籍していた可能性は十分ある。


 二つ目、実はエルは海軍だった。セーラー服といえば女学生の制服のイメージが強いが、元々は水兵の制服だ。エルは提督だったが現役を退いて、ここで牛を育てている。想像に難くない。


 三つ目――俺はこれが一番可能性が高いと踏んでいる。それは……『エルがコスプレ好きのお姉さんだった』という説だ。


 こう考えたのには理由がある。エルはわざわざセーラー服だけを別の段に仕舞っていた。要するに、だからこそ他の衣類と隔離して置いた。これが答えだ。


 またしても難事件を解決してしまった。もしこの世界にスクール水着が売っていたらエルに買ってあげよう。できれば旧式にしたい。


 再度五段目を確認する。他の段と比べてスカスカだ。セーラー服以外は何も入っていないように見えるが……。


「……いや、別のもあるな」


 ふんわりした真っ白な上着だ。作りは丁寧とはいいがたい。とりあえず寒さをしのげるように毛を集めましたって感じの服だ。羊の毛でできているのだろう、モコモコしていて凄く温かそうだ。


 でも、なんでこれだけがセーラー服と一緒に? 名探偵でもちょっと理解しかねる。


 ……まあいい、エルの秘密のコスプレ趣味を知ることができた。満足な収穫だ。




    ◇    ◇




 あっという間に、目的の町――アルージュに到着した。タイムは20分4秒。もう少しで10分台に到達できる。


 肩にかけた鞄にはミルク20本が入っている。ミルク1本は10G。朝昼2回往復すれば1日で400G稼ぐことができる。このペースで続ければ、目標の5000Gはすぐに手が届くだろう。


 販売をするために中央広場に移動する。エルもそこでチーズとバターを売っているはず。とりあえず合流しよう。


 そう思い広場についた後、エルの姿を捜す。人通りが多い広場だがライトグリーンの髪は目立つので、すぐに見つかるはずだ。


 ……だが、何故かなかなか見つからない。


「妙だな……」


 より精巧に視線を巡らせる。スーパーで親とはぐれた児童並みの注意力で辺りを捜索する。


 ――すると、エルではなかったが人だかりが目に入った。


「なんだ? またあいつらプレイヤーが来てるのか?」


 前にあったことだが、勇者扱いされているプレイヤーが広場に集まった時凄い人数が集まって取り囲んでいた。


 それと同じだろう。ただ、エルも野次馬に混ざっている可能性が高い。ずっと勇者に会いたかったと言っていたから俺以外のプレイヤーにも興味があるはずだ。


 エルを見つけるため人ごみに近づく。あの時ほどの人数ではないが数十人は集まっているな。


 けれど……そいつらの表情は困惑しているように見えた。プレイヤーが集まっているなら歓喜の声を上げているはずだが……。


 ただ事でない気配を感じ、急いで騒動の発生源を確認する。


 ――そこでは予想外の事態が起きていた。


 野次馬に囲まれている2人の男。片方は濃い緑色のおかっぱ頭の壮年の男、もう片方は同じ髪色とヘアスタイルの若い男。


 2人の共通点は髪以外にもあった。口元を愉快そうに歪めて侮蔑の目を向けているところだ。俺にとっては見慣れた表情。学校でいつも向けられていたあの顔だ。


 そして、そいつらの視線の先には、




 ここ数日、寝食を共にした妖精のような少女――エルが普段の明るい表情を曇らせ、うつむいて立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る