第10話 俺のスキルを見せてやるよ!

 マジか!? そんなあっさりスキルを披露することを承諾するのか!?


「何驚いてやがンだ? テメーがやれっていったんだろ」


「それはそうだが……」


 もしかして、こいつは複数のスキルが使えてその内の一つを見せるから問題ないとかか?


 俺はユニーク職業だからレベルアップ出来ない。だから今後もビーチクスキル(現在効果なし)のみで戦うことになるだろう。だが他の職業はどうだ? レベルアップでスキルが増えたりするのか?


 ちょっと相棒俺の神器に小声で尋ねてみるか。相棒は自分から俺に話しかけてくることは少ないが、俺が質問をすると答えられる範囲で答えてくれるのだ。


(なぁ相棒、神器のスキルって複数使えるものなのか?)


『NO、一つの神器が使えるスキルは一つだけです。これはすべての神器共通の原則で覆ることはありません』


(レベルアップとかしてもか?)


『YES、職業のレベルは関係がございません。神器はスキルが一つだけ使えるアイテムという認識で間違いありません』


 なるほどな、じゃああいつは今からガチで一つだけ使える神器のスキルを見せてくれるのか。バカだな。


 俺は目の前のアホをニヤニヤしながら眺めることにした。


「ンだ? 何がおかしい? 神器のスキルをたった一つ見せるだけだろ? 何をためらう必要があるってンだ」


 どうやらこいつは神器のスキルは一つしか使えないことに気づいていないようだ。俺みたいに神器に確認すればすぐにわかることなのにな。やはりバカだ。


 赤髪は周囲を取り囲んでいる町民の一角に視線を移した。


「オイ! テメーら何でもいいから弓を持ってこい」


 町民たちは「早くしろ!」と怒鳴り立てられて、働きアリのようにバタバタと散って命令に従う。その後すぐに、どこから出てきたかわからない弓と矢を一人が手に持って帰ってきた。


 赤髪はそれを強引に奪い取った。


「じゃあさっそく俺様のスキルを見せてやるぜ」


 赤髪は何かを確認するように周囲を見渡している。何をするつもりなんだ?


「そうだな……じゃ、あれでいくか」


 そう言うと、広場のシンボルと思われる時計を指さした。


「あそこに鳥がいンだろ。それを今から射貫いてやる」


 あ、本当だ。種類はわからんが時計に鳥がとまってるな。でも鳥を射貫くだけなら弓が得意であればスキル無しでもできそうだぞ。


 赤髪は標的となる鳥を確認したあと――時計に背を向けた。そして後ろを向いたまま器用に弓を引き絞った。


「俺様のスキルは【対象感知】だ。一度認識したターゲットなら後ろ向きでも気配がわかる」


 それがこいつのスキルか……。荒々しい見た目に反してちょっと地味な効果だな。


 とか思っていると、先ほどから黙って成り行きを見守っていた城崎が口を挟んできた。


「考えてみたけれど弓術が優れた人であれば後ろ向きでも射貫くことが可能なんじゃないかしら? そのまま撃って当たっても神器のスキルを使用した証明にはならないと思うわ」


 ……そうか? 後ろ向きに弓で狙った場所を射貫くのは難しくないか?


 スキル無しでも物理的に不可能ではないだろうが……意図的に実行するのは無理だろ。


 城崎にいちゃもんをつけられた赤髪は意に介することなく返答する。


「ハッ! 確かに達人ならやれるかもな」


 本当に達人だったらできるのだろうか。疑問だ。


「じゃあよォ、俺様が射貫く前にその鳥に向かって石を投げていいぜ」


 先に石を投げてもいいということは後ろを向いたまま、動いている鳥に当てるってことだな。その条件であれば明らかに人外の技であることは間違いない。


「そこの女、早く投げろ」


 赤髪が俺の方を向いて指示した。女……? ああ、俺のことか。


 俺は広場に落ちていた適当な石を拾って鳥に投げた。直撃はしなかったが驚いた鳥がバサバサと飛び立った。


 鳥はすでに時計を離れ、さらに遠くに飛び去ろうとしている。


 ――その瞬間、赤髪は絞った弓を開放し矢を放った。そして吸い込まれるように空中を飛ぶ鳥に命中した。


「な、なんとっ! 背を向けた状態で飛んでいる鳥を落とすとは! やはり伝承通り勇者さまは神の加護を受けているのだ!」


 見物していた町民から大歓声が沸き起こる。俺もスキルの発動を見たのは初めてだ。今の射撃は言うまでもなく神業だった。エルが神の奇跡と呼んでいたのも頷ける。


「どうだ? 俺様は器が大きいからスキルの一つや二つくらいなら好きなだけ見せてやるぜ」


 まあ今のがお前の唯一のスキルだけどな。切り札を晒してしまったな、アホヤンキー。


「じゃ、次はテメーの番だ。さっさとスキルを見せやがれ」


 えっ、俺の番だって? ………………あっ! しまったあああああああ! 完全にそのこと忘れてた! 俺スキル使えねーんだが!? 


 アホは俺の方だった。


 周囲の連中は先ほど目の当たりにした神業に続いて俺が凄いことをするのだと期待のまなざしを向けている。広場のボルテージは最高潮だ。


 ど、どうしよう……。興奮に包まれた周囲を見回すと、大勢の中でもひときわ目立つライトグリーンの少女が見えた。


 エルは心配そうな表情を浮かべている。俺がスキル使えないの知ってるからなぁ……。


「オイッ! どうした往生際がわりーぞ! さくっとヤっちまえよ」


 赤髪に急かされた。


 こうなったら神に祈るしかないな。ああ、神様……何とかこの状況を覆す方法を伝授してくれ……。


 ん? 神様だって? ……そうだ!


 ――いい一手を思いついた。まさに神の一手だ。




「もちろん俺のスキルも見せてやるよ! 一回だけ、特別にな!」

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