第83話 神は自ら奇跡を啓く者に微笑む




『この人間の敗北は覆らない』



 見下ろしていたネルに興味を失ったのか、賭け神ブツクメーカーが振り返る。


 自分フェイへ。


『それと、お前が賭けたは全部もらっておくよ』

「…………」


 右の掌に、鈍い痛み。

 右手に刻まれていた「Ⅵ」の神痣が消えて、「Ⅲ」という痣へと生まれ変わっていく。




 フェイ:「神々の遊び」六勝〇敗から三勝〇敗へ。




 無言で佇むフェイ。


 打ちひしがれた姿で言葉さえ失ったネル。

 それを呆然と見守るパールと、口をつぐんだままのレーシェ。


 四人の来訪者をぐるりと見回して――


『本当がっかり。つまらない』


 賭け神ブツクメーカーと呼ばれる神は、人間そっくりに溜息をついてみせた。


 それは失望。


 ネルという人間にではない。

 数十年ぶりに遊戯ゲームで遊べるという歓びを削がれたことへの、子供のように無邪気な「神のいじけ」だった。 


『楽しい遊戯ゲームができると思ったのにね。もう帰りな人間』


 くるりと背を向ける。

 その賭け神ブツクメーカーへ。


「待てよ」

『……』


「ゲームはここからだろ」


 フェイの発した一言で。

 去っていこうとする賭け神ブツクメーカーの足取りが、ぴたりと止まった。


『何を言っているんだい人間?』


だって言ってんだよ」

『?』


賭け神ブツクメーカー――」


 ネルの姿をした多相神を見据える。


「お前がこのゲームを受けた時点で俺は勝利を確信した。。ってかネルにもそう言っただろ。勝てば万々歳だけど、負けて落ちこむ必要なんてない」


「……え?」

「よし交代タツチ


 ぽかんと。

 呆気にとられた様子のネルの肩を叩いて、フェイは気丈に笑んでみせた。


「ダークスの時も、この前の神さまとの戦いも、二度も応援してもらったよな。その借りはちゃんと返さないとな」


「…………フェイ……殿……?」


「まあ何とかするさ。――ってわけで」


 こちらを興味津々に見つめる神へ。

 フェイは、一切の迷いなき口調でそう言った。


「次は俺が遊んでやるよ。もちろん受けてくれるよな? なにせアンタまだ全然遊び足りてないんだろ?」

『――――』


 賭け神ブツクメーカー

 それは復帰を望む使徒が1vs1の遊戯で戦う神だと


 だが。


 


 今までの神の言動から、人間側が勝手にそう解釈しただけ。

 これっぽっちも当てにならない。


 なぜなら。

 遊びを司る神さまは誰も気まぐれで、人間と遊びたくて溜まらないから。



 そう。

 いつだって、どんな時だって――――



 




 神は遊戯ゲームに飢えている。




 

 



「俺が負けたら俺の勝利分をくれてやる。俺が勝ったらネルの敗北数を消してもらう」


 ネルの姿をした多相神は無言。


 ただじーっとこちらを見つめて、一分、二分、五分と……なかば気が遠くなるくらいの時間を隔てて。


『決めた』


 神が笑った。


『決めたよ人間』


「勝負する気になったか?」

『違う。遊戯ゲームを決めたと言っているのさ』


 ネルの姿で。

 ネルにはない琥珀色の瞳を爛々と輝かせて、神が両手を広げてみせた。





『これより三つの遊戯ゲームを行う。その全勝負でワレが仕組むイカサマを見破ってごらん』




 

 フェイvs賭け神ブツクメーカー


 神のイカサマ破り、ゲーム開始――







『神は遊戯(ゲーム)に飢えている。』



 Chapter.2 終演


 Chapter.3 開幕












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