遠回り通勤@たった一言
音もなく降り注ぐ雨がフロントガラスを濡らしている。
ワイパーを動かすほどの雨ではないが、その雨は確かに降っている。
ポツポツ…
雨音が車内に響き始めた頃、俺は車を停めて口を開いた。
「着いたぞ」
「ん」
何度も繰り返し、本来ならば全く印象に残る事のない会話。
ただ、この日だけはその会話が耳に残り、気がつくと俺はいつもの一言に言葉を付け加えていた。
「また明日な。明日で最後なんだからちゃんと起きてろよ」
「ん。なるべくがんばる。明日もよろしく」
通学の送迎。
妹が選んだ進学先は実家から車で片道一時間以上掛かる場所にある専門学校だった。
バスも電車も最寄り駅がなく、自転車で通おうとした妹を心配した俺と父は進学先を地元の学校に改めさせようとしたが、妹はたった一言で俺と父を黙らせた。
その一言とは「そんなに心配ならお兄ちゃんが送り迎えしてよ」だった。
俺は四年間、毎朝二十分かけて実家へ来ては一時間以上遠回りして通勤していた。
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