約束
日が暮れ始め、辺りもオレンジ色に染まってきた。春の訪れを感じさせる暖かさも無くなっていく。さっきまで賑わっていたこの場所も、静まり返って、騒がしかったのが嘘のようだ。
僕は好きな人を待っていた。しかし、一向に来ない。相手は覚えているわけがない。それに、もう、来る気配もないから大人しく帰ろう。と思っていながらも、もしかしたら、その数分後に来て、行き違いになるかもしれない。そうやって自分をこの場所に留めていた。
「卒業式が終わった後、会いたい」
「わかった」
中学校を卒業すると同時に、とある女の子と交わした約束だ。高校が別々になったから、卒業式が終わってから会おうと別れを告げた。僕は、彼女が好きだった。だから告白するために呼び出した。しかし、彼女は現れない。
お腹も空いてきたし、辺りは完全なる闇へと化した。彼女は約束を破るような人じゃない。きっと、他の用事が出来て、来られなくなったのだろう。自分に言い聞かせようとすれば、虚しいし、彼女のせいにはしたくなかった。
もう、時間も時間なので、さすがに帰ることにした。校庭にあるベンチからゆっくりと立ち上がり、校門を目指す。この光景を眺めるのも最後なのだと思うと、なんだか切なくなってくる。
校門をくぐり、彼女がいないことを確認し終えると、期待していた自分に絶望した。
「大志ー!」
僕の名前を呼ぶ声が、向かいの道路から聞こえる。そこには、無邪気な笑顔でこちらへ手を振る少女がいた。
街灯が目立つ歩道、一つの道路を隔てて僕と彼女の目線が、交わり、重なった。
「美莉亜!」
僕も手を振って、存在をアピールする。始めはクラスが同じで、たまたま隣の席になって話して、次第に仲良くなって、気がつけば放課後に遊ぶ仲にまでなっていた。そして、遊ぶ回数を重ねるにつれて、僕は彼女に対する心持ちが変化していった。いつのまにか、友達であることに苛立ちを感じていたのだ。
近くの横断歩道から道を渡り、彼女の元に着いた。
「遅かったから、もう来ないかと……」
「そんなわけないよ。ただ、会う場所決めてなかったからさ」
「そういえば、場所、決めてなかったな」
「まぁ、結果、会えたんだし、良かった」
お互いに安心し切って、疲れた表情を浮かべる。とりあえず近くの公園のベンチで休もうということになった。
星のよく見える快晴であった。僕と美莉亜は星空を見上げ、綺麗だなぁと言って、中学の話をした。僕は大して話すことなんてなかったが、くだらない話にも、彼女は耳を傾けてくれる。
「あ、月も見えるね。少し欠けてるけど」
「欠けてるというより、未完成なんだと思うな。僕と美莉亜も、中学を卒業しただけ。高校や大学を通して、やっと大人になれるんじゃないかと思う。あの月は、成長の途中なんじゃないかな」
「ぷふっ」
彼女が急に吹き出すので、僕は恥ずかしくなって顔を熱くさせた。
「いや、その、欠けた月でも綺麗だなって」
「そうだね」
「好きだよ」
今にも爆発しそうなほど高鳴る鼓動、唇は震え、彼女の方向に目を向けていられなくなった。
「私も」
僕が目をそらしていることをいいことに、彼女は僕の唇を奪った。柔らかく、意識が飛んでいきそうな感覚に襲われる。唇が離れると、意識が戻り、今やっていた行為を思い返すと、動揺した。
「これからもよろしくね!」
「あ、う、うん。よろしく……」
ぎこちない返答は、夜の公園に響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます