伝説・(第漆拾玖弾)

お疲れー!

今日はマジで疲れただろ

2時間ぶっ通しでサッキーとタイマン張ってた様なモンだもんな!

初回の2時間であのバッファローの輪郭線が仕上がっちまうなんてさ、キミも彫るのが速くなったけど、サッキーの根性も凄げぇよな

店長もビックリしてたじゃんか

途中で何度かサッキーに無理はするなって声掛けてたしな

  

彫ってる最中にクライアントから挑発されるなんてコトは滅多に無いだろうからね、良い経験だったよ

あんなペースで彫り続けてたら後半は酒巻も結構辛かったハズなのにさ

「ガンガン来いやコラァ!」とか云っちゃって、そりゃ拓巳さんも心配して入って来るよね

  

あんな無茶なペースで彫ってたら普通なら1時間で気絶するってな

そんなペースで綺麗に彫れるキミのコトも誉めてたし

マジで1対1の一騎討ちみてぇだったわぁ

明日、学校に行くとか云ってたけどよ

たぶん無理だな、家でゆっくり休んだら良いと思うぜ

何も退院した日にその足でタトゥー彫って翌日から学校行くコトぁねぇよな

  

けど紗枝に「んじゃ、明日、学校でな」って云っちゃってたからね

アイツ、這ってでも明日は学校に行くよ

酒巻って、そう云う漢だからね

あ、そう云えばさ、ボディー・アート屋に入る前にさ、このカフェで紗枝、何か云い掛けなかったっけ?

「後でいいや」とか云ってたじゃん

てか、このカフェって平日は混んでるんだね

  

おー!そーだったよ!

タトゥー・スタジオでのキミとサッキーの真剣勝負で忘れてたわ

凄んげぇの!マジで凄げぇ話だぜ

こんな凄げぇ話をキミに話し忘れるトコだったぜ!

なぁ、聞きてぇだろ?

  

わはは!一応訊くんだ

紗枝がそこまで凄い凄いって云うならよっぽどの話なんだろうね

聞かせてみてよ

  

昨日だよ、偲ちゃんウチの店に来たんだよ

あのマル暴の刑事さんは地元に還って青少年更正施設に再就職したんだってさ

福島だか福岡だか福山だか忘れたけどよ、「福」の付く県だよ

偲ちゃん、「所謂天下りだ」って云ってたけどよ

良く分かんねぇけど要するに警察の仕事からはキレイさっぱり手ぇ退いたみてぇでさ、偲ちゃんの謹慎が解けて自由に動き回れる様になったからって、1番にウチの店に来てくれたんだってよ

オーナーにも挨拶したかったって云っててよ

  

おー!山口の妹が紗枝の店に来たんだ!

山口にとってもあの店は妹との思い出の場所っぽかったからね

うん、確かに凄いわ

一応云うけど福山は県じゃなくて市だよ

ごめん、続けて

  

いやいや、凄げぇのはまだコレからなんだよ!

偲ちゃんは自分の幹部を5人連れて来ててな、あの店をヤサにしてぇって宣言したんだけどな

店ん中で軽く集会みてぇなノリになってさ、まずカウンターに居たあたしを幹部5人に紹介したんだよ

5人ともあたしのコトぁ知ってたみてぇだけどな

ジュース最有力候補でありながら誰とも連んでない一匹狼だとか云っちゃってさ

2年の先輩で信用して良いのはあたしだけだ!とか云ってな

で、一応あたしもさ、5人の顔と名前を覚えたんだけどな

その後ルール決めみてぇなコトを始めてよ

この店に出入りして良いのはこの5人と5人の誰かと一緒のヤツだけだとか、店での揉め事は一切厳禁で店内で問題を起こしたヤツはシバくとか云っててな

あと、この店はキミの高校の真ん前でキミの高校の縄張りだからキミの高校の生徒との揉め事も、店内店外に関わらず許さねぇとか云ってたよ

仮に絡まれても謝れってな、絡まれて謝んのが嫌だったら絡まれる前にこっちから挨拶しろ!とか云ってたぜ

  

うあ、凄いって、そう云う凄い話?

なんか気軽に遊びに行き辛いじゃん

山口の妹や妹の取り巻きが今後はあの店でたむろすんだ、怖わ

やっぱバリバリのヤンキーばっかりなんでしょ?

  

でた!キミのビビり

キミはさぁ、先週ウチの高校に来てみんなが見てる中で偲ちゃんとも話してたじゃん?敦子ちゃんやタケシくんもだけどよ、キミ等3人もこの店にちょくちょく出入りしてるから会った時は「お邪魔してます!」って必ず挨拶しろって云われてたぜ

一応さ、その5人の誰かとこの店でキミが鉢合わせになったらあたしか偲ちゃんが最初は紹介するからよ

まぁ、仲良くしてやれよ

まぁ、ヤンキーっちゃヤンキーだけどよ、ちゃんと偲ちゃんが首輪着けて鎖に繋いでるし、良く躾られた可愛い仔達だったぜ

親の殆んどが狂臣会だけどな

  

そっかぁ、その山口の妹の取り巻きはもう俺のコトを知ってるんだね

まぁ、あまり鉢合わせにならない様にするわ

みんなここまではバイクとかで来るんでしょ?

ヤバそうなバイクが停まってたら引き返せばいいや

  

おいおい、よせよ

大丈夫だって、アイツ等はキミのコト大歓迎だぜ

あちらさんは早くキミと顔合わせして知り合いに成りたがってたぜ

偲ちゃんもよ、敦子ちゃんのコトを「姐さん」って云ってたけどさ

この店じゃキミやあたしやオーナーまでみんな、姐さんと自分が世話んなったり親身になって貰った義理があるから絶対ぇ粗相を掛けるなってかなり厳しく念押ししてたしな

  

ホントだね、紗枝の店、昨日は凄いコトになってたんだね

そんな日に出会さなくて良かったよ

  

あ!違げぇんだよ!

凄げぇ話って云うのはもっと全然凄げぇんだってば!

コレはキミもマジでビビるぜ、あたしもビビったもんな

その後な、偲ちゃんがオーナーにも幹部5人を紹介してぇとか云い出してよ、オーナーの名前の話になったんだよ

ウチの父ちゃんはオーナーのコトぁ「まー坊」って云ってたし母ちゃんも「まー坊」か「まーちゃん」だったからな、あたしもオーナーの名前知らなくてさ

  

そーだね、俺もオーナーさんのコトは「オーナーさん」としか呼んだコトないから名前、知らないや

「まー坊」って云うからには「ま」から始まるんだろうけどね

  

最初はさ、オーナーも「オーナーで良いよ」とか云っちゃっててさ

あたしと偲ちゃんで名前を教えろよとか云って盛り上がってたんだよな

そしたらよ、幹部の1人が怯えた様な顔になって

「し、偲さん!しょ、初代っすよ!」

とか云いながら震えた指でカウンターの上に貼ってあった営業許可書を指したんだよ

  

初代?それってあのおやっさんの部屋にあった集合写真の、暴走族か何んかの初代総長みたいな感じ?

紗枝のおやっさんもオーナーさんも、沢山伝説作ってそうだもんね

あのマル暴の刑事さんに今でも顔と名前を覚えられてたくらいだからね

けど、名前を当てるのに営業許可書を見るとか、目敏い幹部だね

で、オーナーさんの名前は何んて云うの?

  

眞下雅俊、見事に苗字も名前も「ま」から始まってるよな

偲ちゃんも直ぐにピンと来たみてぇでさ、あたしに石碑を見てねぇのか?って訊いて来るんだよ

初代とか石碑とか、ワケ解んねぇコト云い出したなとか思ったんだ

  

まさか!石碑って!

紗枝の高校の校門脇にあるジュースの石碑?

歴代のジュースの名前が彫り刻まれてるんでしょ?

え?初代って、もしかしてオーナーさんが紗枝の高校の初代ジュースってコト?

うわぁぁぁぁ!マジ伝説!マジで伝説の漢!

嘘でしょ?

オーナーさんは認めたの?

  

いや、オーナーはさ認めるも何も

キョトンとしてたんだよ

「君達、何んの話をしてるんだい?」って、惚けてる感じじゃなくて素で不思議そうな顔しちゃってさ

店であたしとキミがよく「ジュース、ジュース」って話してんのは耳にしてて「ジュースって何んだ?」って程度には気になってたらしいんだよな

  

ビックリしたぁ

なんだ、違うのか

けど、オーナーさんが初代ジュースだったらマジで凄いけど、有り得ない話でもないよね?

今、納得しちゃったもん

  

偲ちゃんの幹部の1人がオーナーによ

「眞下さん、ウチの高校の11期生っすよね?」

って確認したらさ、そこは認めたんだよ

そー云やあたし、父ちゃんと同じ高校ってコトはオーナーとも同じ高校で、オーナーって高校の先輩だったんだなってその時初めて意識したんだけどな

卒業式ん時に卒業証書授与式で校長から何んか云われなかったかって訊かれててさ

  

俺もその石碑は見たけど名前とかまでは覚えてないや

初代ジュースって11期生だったの?

歴代ジュースが何期生だったかまで彫られてるんだっけ?

で?で?卒業証書を受け取る時に校長から何云われたの?何があったんだって?

  

不良ばかりが集まって荒れ放題だったこの高校に、開校11年目にして初めてこの不良学校を束ねた君は、本校初の番長だなって云われたらしいんだよ

卒業生も在校生も、会場全体で番長コールが沸き上がったんだってよ

  

ぶぁははははは!

それ、オーナーさんの話と繋がるじゃん!めっちゃ合致してるじゃん!

卒業式で番長コール、もう間違い無いじゃんソレ!!

で「俺を番長なんて呼ぶんじゃねぇ!」って云い捨てたんでしょ?

ばっちりオーナーさんの話と一致してるし

しかも11期生なんでしょ?

まさか紗枝の高校のジュースの初代がこんな身近に居たとはね

けど、オーナーさんは初代ジュースだってトコは認めてないの?

  

あーね、自分が初代ジュースだって自覚はマジで無かったみてぇだな

偲ちゃんの幹部の話してた伝説とオーナーの話がちょっと違ってな

幹部が云うにはよ、その後オーナー、校長のマイクを奪い取って番長コールをしてる会場に向き直って

「番長なんて古りぃ呼び方すんじゃねーよ!今はな、ジュースって云うんだよ!」

って云ってマイクを床に叩き付けて、まだ卒業式終わってねぇのに卒業証書を貰ったらそのまま式の途中で帰っちまったんだってさ

  

確定!オーナーさん、初代ジュース確定です!

けど何んでオーナーさんは自分が初代ジュースで紗枝の高校の伝説の漢だって認識がないんだろうね

まぁ、昔獲った杵柄を自慢する様なタイプではないけどね、ホントに自覚してなかったぽいじゃん

  

オーナーさ、3年の最後に車両盗難で挙げられてたらしくてな

あのマル暴の刑事さんの取り計らいで鑑別所送りを卒業まで待って貰ってたんだってよ

だから、卒業式の途中で飛び出して校門を出たトコで待機してたパトカーに乗せられて、卒業証書を持ったまんま鑑別所だか家庭裁判所だかまで護送されたって云ったぜ

だからその卒業式の後、どーなったかなんて気にもしてなきゃ、まさか自分があの高校で今だに語り継がれてる伝説の漢になってたなんて知りもしなかったんだよな

  

なるほどね

紗枝のおやっさんも中退しちゃってたし、連んでた仲間の中で卒業出来たのはオーナーさんだけだったみたいな話だったもんね

そんな感じじゃ、オーナーさんが1番ビックリしてるのかもね

  

そーだな、みんなビックリしてたけどな

偲ちゃんだけは何んか府に落ちたみてぇなスッキリした顔してたぜ

オーナーに話ぃ聞けて良かったってお礼してたな

初代ジュースの経緯、想像通りだったとか云って、ソコは確認しようが無ぇなって諦めてたけど実際に初代ジュースの話を本人から聞けて何んかを確信したみてぇなコト云ってよ

  

なんだろ?

山口の妹、何んか深そうだね

何を考えてるんだろうね

ものの1週間で37期生を束ねたのに、全然「これから」みたいな感じだね

山口の妹はジュースを狙って紗枝の高校に入って来たんじゃないのかなぁ?

もっと他に目的があったりするのかなぁ

まぁ、あの狂臣会の組長の娘だからね

俺等じゃ解らない思考回路も持ってそうだよね

  

キミぃ、鋭いな

あたしも同じコト思ってたんだよ

偲ちゃんはジュースを獲りに来たんじゃなくてジュースってシステムそのものに挑みに来たんじゃねーかなってな

入学式の時点で37期生全員の生徒手帳を切らせたじゃん?

その時点で37期生のジュースのカリキュラムは崩壊してるワケじゃん?

  

確かに!

初日でノーティーとヌーディーの区別が無くなってるワケだからね

ジュース自体の定義を崩しに掛かってるのかも!

  

だろ?

偲ちゃん、云ってたんだよ

「新しい秩序は破壊から生まれる」ってな

あたしもピンとは来なかったけどよ、なんとなくだけどな、なんとなく何が云いてぇのかは感じ取れたんだよな

偲ちゃんはただのジュース狙いでジュース合戦をしに来たワケじゃねぇんだなって

もっと高いトコに志があんのが解るぜ

  

「新しい秩序」かぁ

あと「破壊」ねぇ

山口の妹からも目が離せなくなって来たね

あ、今日ってまだ週のド真ん中で明日も学校なんだよね

あまり遅くなると明日明後日の学校が寝不足でキツくなるからそろそろ帰ろうか

  

そーだな

サッキーもだけどよ、キミも相当疲れてるハズだからよ、ゆっくり休めよな

  

ありがと

めっちゃ凄い話もありがと

近々俺も初代ジュースの顔を拝みに店に行くね

  

おー、待ってるぜ!

  

んじゃ、またね

  

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