祈祷・(第伍拾伍弾)

おつかれー

みんなの前じゃ訊かなかったけどさ、朝はどうしたの?寝坊?

山口が「ちゃーちゃんは絶対に来る」って断言してたから心配はしてなかったけどさ

実際に来たの予約時間ギリギリだったじゃん?

朝ココで紗枝と会うの、ちょっと久々だったから俺も楽しみにしてたんだけどね

  

あ、ゴメン

敦子ちゃんから全部聞いたらさ、なんか恥ずかしくなっちまってさ

いや、色々と知らな過ぎたってトコも充分恥ずかしいんだけどな、その後のあたしの言動とかさ、散々周囲りを引っ掻き回して大騒ぎんなっちまったのとかさ

穴があったら入りてぇってこのコトだな

恥ずかしくってキミとどんな顔して会ったら良いのかって、昨日の夜辺りから思っててさ

敦子ちゃんが「でも秀さんは絶対ちゃーちゃんと会えるのを楽しみにしてるよ」って云ってくれてさ

  

あーそれでか!

なんか今日は山口がタケシ連れて妙にそそくさと消えたなと思ってたんだよ

タトゥー彫り終えるや否や、凄い勢いで帰ってったからさ、なんか急ぎの用事でもあるのかなと思ってたんだけど、気を遣って消えてくれたんだ、あの2人

けどさ、カクカクシカジカを聞くの、山口からで良かったよね?

もしもあの場で俺から「紗枝、それはセックスじゃないよ」とか云われてたら死んでたでしょ?

全部山口の気遣いって云うか取り計らいって云うか心遣いって云うか配慮って云うか

紗枝、すんげぇ良い親友を持ったよね

「最後まで表情を変えずに堪えて」って云うのが、俺が紗枝の前で吹き出して爆笑とかしちゃったら紗枝がこの上なく恥ずかしい思いをしたり傷付いたりするからだったって解って、山口ってホントに賢いし良いヤツなんだなって思ったよ

  

ホント、あたしには全然勿体無ぇくらい良い親友だよ

敦子ちゃんもキミも、死ぬまで大事にしてぇなって思ってるわ

タケシくんもさ、あまり自覚は無ぇみてぇだけどさ、ちゃんとしっかり敦子ちゃんを支えてるよな

もっと自信持って良いと思うんだけどな

  

確かに!

今回のコトでさタケシと2人で話をしてた時にさ

傷心して落ち込んでた俺の為に山口と2人してホント全力で励ましてくれてありがとってお礼を云ったんだよ

でさ、もしも立場が逆だったとして、たぶん俺はタケシを励ます為でも紗枝を貸したり預けたりは出来なかったと思うって云ったんだ

タケシと山口との絆とか信頼関係も含めタケシの懐の深さだとか色々と良い意味で云ったツモリだったんだけどね

タケシ、俺に「そんなんじゃねーよ」って返事してさ

紗枝のおやっさんの名台詞って知ってかたまたまか判らないけどさ、タケシ、漢になったなって思ったよ

俺がタケシに劣等感を抱き始めそうだよ

でさ、タケシが云うにはね、紗枝と俺はもうお互いにお互いが所有物みたいになってるけど、山口はタケシの手の中に入ってないんだって云うんだよ

なんか抽象的な云い方ではあったけどね、山口のコトを「オレのオンナ」にしたいワケじゃないんだって云ってるのを聞いて、タケシが山口のコトを未だに「敦子」じゃなくて「山口さん」って呼んでるのがしっくり来たんだよね

だからタケシが山口を貸して寄越したとか預けたとかって思わないで欲しいって

タケシと山口とで協力しながらではあったけど各々が俺を励ます為に出来ることをしてただけだからってさ

気付いてなかったけど、俺も凄い良い親友が出来てたんだなとか思ったりもしてて

紗枝や山口に先に一応一声掛けてお断りを入れておくベキだったかもなって思ったけど、俺の独断でタケシのイニシャルのTの字のキーホルダー、ウチ等とオソロのヤツお礼にって贈っちゃった

  

あーそれな!凄ぇ良いと思ったぜ!

ほら、タケシくんさ、疎外感みてぇのを感じてたりもしてたじゃんか?

確かに出身の中学がタケシくんだけ違ったりウチ等の中には最後に入ってきたり、3人ともキャラも濃いからさ

馴染むの大変だったと思うんだよな

3人のオソロのキーホルダーと同じヤツをタケシくんのイニシャルのであげるとか、もしも先にあたしが思い付いてたらあたしが云い出してたかも知んねぇわ

マジでナイスだと思ったぜ

しかもさ、店に持って来てあたしに見せた時にさ、タケシくん「4人お揃いだね」って

あたしも入れてくれんのかよ!って、ソコにも感激したんだよ!

  

まぁ、出身校が同じとは云っても中学ん時はほとんど会話してなかったからね

そう考えるとタケシが後から仲間に入って来たって程でもないよね

まぁ、紗枝を入れるも入れないも、紗枝が核だからね

それとさ、コレ

たぶん俺が笑顔で返したら喜ぶんじゃないかなと思って持って来たんだけど、長らく借りっ放しになっちゃっててゴメン

ありがとね、聖書

海で紗枝が云ってた山口の置き手紙的な箇所、紗枝はもう確認したの?

ピレモンって箇所は確かにあったんだけどさ、15章はなかったよ

15章全体を読んでみるツモリで探したんだけどね

ピレモンって短くて1章しかないんだよ

てか章がないの

で、15節を読んでみたんだけど

紗枝、まだ読んでなかったら読んでみ

栞を挟んでおいたからさ

  

あー、忘れてたわ

怖くて読めねぇなって思っててさ

二の足踏んでる間に突然キミ達が戻って来てくれて舞い上がっちまってさ

すっかり忘れてたわ

てか、短くて章がないのがあったんだ

聖書は通して読んだんだけどな、気付かなかったよ

  

そこを読んでみて解ったんだけどね、最初から山口は俺を慰めて俺が立ち直ったらまた俺と紗枝が元通りになるようにって思ってたんだな

そう考えるとさ、夜な夜な俺を呼び寄せて自分の子守りを口実に毎晩ホテルのベッドで2人きりになって俺を口説いてたの、迫真の演技だったなって

あんな風に迫られたら、正直あと少しで山口とヤるトコだったと思うよ

ヤっちゃっててもおかしくない状況だったよマジで

俺がその気になっちゃってたら山口はどうするツモリだったんだろうね

  

この箇所、凄ぇな

忘れてたくれぇだから敦子ちゃんには確認してねぇんだけどよ、コレってあたし宛の置き手紙じゃなかったんじゃねぇかな

てか、キミは結局なんで敦子ちゃんとヤらなかったの?

敦子ちゃんみてぇに胸がデカくて腰がくびれててお尻がプリッとしてるのって、オトコはみんなヤりたがるんじゃねぇの?

しかもキミは迫られてたんだろ?

キミの部屋でキミと話した時点ではめっちゃ口説かれてて「たぶんヤる」って云ってたじゃん?

あたしも、ヤっちゃうんだろうなって諦めてたんだけどな

海で会った時に「まだヤってない」みてぇなコト云っててさ、ホッとしたんだけどさ、あんなナイス・ボディーでセクシーな敦子ちゃんに迫られてんのになんでキミはシないのかなって思ったんだよ

  

そうやってさ「オトコ」って一括りにするけどさ、オトコにも色々と居るんだよ

確かに山口はスタイル良いと思うよ

タトゥーを彫り始めた時にも思ったよ、コイツ大人の女性みたいな身体してるなってね

けどね、好みとか人其其だし別に好きな人が居たり今回の俺みたいに傷心仕立てホヤホヤだったりするとどんなに良いオンナが目の前にいても、いや、多少は本能で反応はするよ、反応するけどさ

まぁ、そんな感じかなぁ

  

あ、じゃあやっぱりキミも身体に変化はあったんだ!

じゃホント、ヤろうと思えばデキちゃったんだな、間一髪だったんだな

  

あとさ、紗枝が俺の部屋に夜這いしに来た時にちょっと話した気がするけどさ

俺、山口に口説かれながら何故かヤらない理由を探してたじゃん?

で、山口がそれを理路整然とシラミ潰しに論破してたって話したと思うんだけどね

最後の最後で山口がひっくり返せなかったヤらない理由って云うのが、何故か俺がヤらない理由を探してるってコトだったんだ

  

夜這いとか云うなよ!

まぁ、夜這いみてぇな流れにはなったけどさ、結果的にフラれてるしな

で、最後の最後のその部分は敦子ちゃんからも聞いてるよ

キミを口説き落とせるって自信は多少はあったらしいんだけどな、キミから決定打を突き付けられて諦めて口説くのを止めたってさ

  

山口には上手く説明出来た気がしないんだけどね、ほら、俺が事故って意識が戻る時に声を聞いたって云ったの覚えてる?

まだ成し遂げてないじゃないかって云われて命を突っ返された気がしたって

たぶんあの時の声だと思うんだ

声って云っても言葉じゃないんだけどさ、山口のテレパシーみたいな感じ?

山口と今ヤったら取り返しの着かないコトになるぞって鬼気迫る感じではなかったんだけどね

ヤってもヤらなくても好きにすればいい、だけど正解は「ヤらない」って選択だよって

なんか知らない人が親切に「ハンカチ落としましたよ」って教えてくれる様な感覚で正解は「ヤらない」だよって囁かれた気がしてさ

明らかに自分の中から湧いた声じゃないのだけは確かだったんだ

けど、それを聞いたらさ、確かに今この状態で山口とヤっちゃったら、山口本人もそうだしタケシとか、たぶんもっと他にも周囲りの人達に負の連鎖が拡がるなって云うのが直感的に見えたんだよね

そして、ヤったからって紗枝への気持ちを忘れたり傷が癒えたりするワケでもないって思えて来て

けどさ、今思えば山口は元々本気で俺とヤる気はなかったワケだからさ、どっかで口説くのを止めるツモリだったんじゃん?

ソコで口説くのを止めてくれなかったら俺の方も手詰まりだったからね、山口もソコを見極めたんだろうね

けど、あそこまで必死に俺を口説く様な演技をしてくれたオカゲでさ、気は紛れたよ

ホント、独りだったら紗枝のコトばかり考えてどんどん落ち込んでたと思うからね

山口が俺と一緒に居てくれる口実をタケシと2人で作ってくれて、毎晩俺を口説く演技をしててくれて、そこは感謝してるよ

  

あー、なるほどね

繋がったわ、敦子ちゃんの話と

ちなみに敦子ちゃんの気持ちは演技なんかじゃなくてマジだったって云ってたぜ

つまり、キミとヤるツモリで本気で口説いてたってさ

「神様と取り引き」って云ってたんだけどさ、凄ぇ真剣にお祈りしてたってよ

まずキミの傷が癒える様にってお祈りしてて、ソコは神様と敦子ちゃんの願いが一致してるから叶うお祈りだって自信があったんだってさ

で、キミには恩があるからキミの心の傷を癒す為に自分を使ってくれってお願いしたんだって、恩返しがしてぇなってお祈りしてたって

そこも神様と敦子ちゃんの目的が一致してると思うから叶うって思ってたって

実際、状況的にキミを励ましたり出来る位置に居んのは敦子ちゃんとタケシくんだったからな、間違いなくキミを癒すのに自分を使って貰えるって思ったって

でさ、キミを元気付ける為に、もしくはキミを元気付けたご褒美に、キミとヤりたいなってお祈りもしてたんだって

けど、セックスはキリスト教的にはダメじゃん?

だから聞かれない様な気もしてたらしいんだけどな、せめてキミを口説く許しだけでも欲しいってお祈りしてて

実際にヤるのがダメなら神様が止めてくれって祈ったって云ってたぜ

  

ちょ、山口のお祈りって凄いね!本音ぶっちゃけ過ぎじゃない?

キリスト教的にセックスがダメなのにキリスト教の神様に「セックスしたい」とかお祈りしちゃっても良いモンなの?

なんか紗枝のお袋さんのお祈りと違い過ぎててビックリだよ!

そんなコトをお祈りしたらバチが当たりそうじゃない?

  

ぶぁは!確かにバチ当りなお祈りっちゃあバチ当りなお祈りだな

そっから結構マジな話になってさ

敦子ちゃんが云うには「罪とは神様に背く心」なんだって云うんだよ

神様は敦子ちゃんの心の中の想いや望みや願いを全部お見通しなのにキレイ事を並べて取り繕ってお行儀の良いお祈りを捧げたって仕方ねぇんだって云ってたよ

自分の心の中身を全部さらけ出して正直に神様に話さなきゃ意味ねぇじゃんって感じでさ

いくつか聖書の箇所も開いて熱弁してくれたんだけどよ「愛はすべての罪を覆う」って箇所を読んで聞かせてくれてさ

セックスは罪だから「これから罪を犯します」ってお祈りして「はい、どうぞ」とは立場上神様も云えねぇだろうからって

まずは正直にキミとヤりたいって気持ちを告白して動機は愛なんだって云って説得を試みてからキミを全力で口説いたんだけど

敦子ちゃんはずっと神様に背を向けたり背いたりせずに正面から神様に心の中身を正直に全部晒してるから、その行動は罪ではないし、それによってセックスって云う罪を犯してしまっても愛だからなんとかなるって勝算もあって

更にその考え方が間違いだったりダメだったりするなら神様が阻止してくれとまで祈ってて、神様に阻止されたなら従いますだか諦めますだかって約束もしてたんだってさ

で、結果

神様がキミの方に「正解はヤらないだよ」って語り掛けたワケじゃん?

敦子ちゃんもずっと真剣にお祈りしながら臨んでたからキミが上手く敦子ちゃんに説明出来てなくても、敦子ちゃんにはバッチリ通じてたと思うぜ

神様からストップが掛かったんだって納得もしてたしオカゲでキミの傷を癒すのに役立てただけじゃなくあたしとの縒りが戻った時の妨げにもならずに済んだって、神様に感謝してるって云ってたしな

  

紗枝は小さい頃に教会に行ってたしお袋さんがクリスチャンだから山口の話を100%理解出来るのかも知れないけど、たぶん俺は今、紗枝の云ってるコトの半分くらいしか理解してないと思う

だけど山口が神様に近しいって云うか親しいって云うのは凄く解ったよ

なんか、現実に会話とか出来ちゃう感じなんだね

山口のワールドを理解するのにも俺にはやっぱり紗枝の通訳が必要なんだなって思ったよ

たぶんタケシも毎週山口と教会に行ってるし、そう云う話とかも山口としてるんだろうね

タケシもそう云うの理解出来そうなタイプだしさ

山口とタケシが急激に近付いた様に見えたのって、なんかそう云うスピリチュアルな部分での繋がりもあるのかなとか今思ったよ

  

あたしに云わせりゃキミだってこっち側の人間だよ、今こうしてカフェの中で普通にあたしと神様の話とかしてんじゃん?

端から聞いたらたぶんウチ等の会話だってかなり怪しいと思うぜ

神様とかに興味無ぇヤツが聞いたら単に変な宗教にハマってる2人の会話だなってくれぇにしか思われないと思うしよ

けどキミも、あたしが知ってるだけでも病院と敦子ちゃんのホテルとで少なくとも2回は神様の声を聞いちゃってるしな、キミ自身が気付いてねぇだけでもっと話し掛けられてるとも思うしよ

キミもこっち側の人間で、選ばれてるんだぜ

藤城ちゃんの付き人だっけ?田沢さん?

何があったか知らねぇけどさ、キミと店長が話してんのを聞いただけでも、キミがまた何んかそー云う力を発揮してたんだなって思ったしな

店長も自分の彫り師を始めた頃を見てる様だとか云ってたじゃん

なんかパワー、持ってるよキミ

  

あ、田沢さんね

俺も詳しくないから弟分とか子分とか舎弟とか呼び方は分からないんだけどさ、会社とかで云うなら部下みたいなモンでしょ

藤城さんがタトゥーを彫りに来る時に運転手で着いて来る様になってさ、ほら藤城さんも出世したみたいなコト云ってたじゃん?

で、その田沢さんが藤城さんに「この人が彫巳伝説の再来って云ってた高校生ですか?紹介してくださいよ」とか云っるのが聞こえてさ

  

あ、店長もなんかソイツにカチンと来たとか云ってたな、けどキミとの会話を聞いててスッキリしたみてぇなコトも云ってたからさ、口喧嘩でもしたのかと思って聞いてたんだけどよ、藤城ちゃんも感謝してたって云うからさ

いったい何があったんだろって気にはなってたんだ

  

拓巳さんがカチンと来てたって云うのは今日初めて聞いたよ、聞いて俺もちょっと驚いた

田沢さんって別に嫌な感じでもなかったし高校生の俺にも一応デスマス調の丁寧語で話してたからあまりビビらずに普通に会話出来てたんだけどね

俺にタトゥー彫って貰うと出世できるんでしょ?だったら自分にも何か格好良いヤツを彫って欲しいみたいなコトを云って来たんだよ

拓巳さんがカチンと来たのはソコじゃないかなって思うんだ

  

あ、納得

店長はデザインの良し悪しを理解して評価した人しか相手しねぇもんな

キミのデザインを見もせずに「何か格好良いの」なんて云われ方、店長が1番嫌いそうだもんな

しかもキミに彫って貰えば出世出来るとか、そー云う目的じゃ店長自身も彫りたがらねぇしな

  

俺は別に彫るのが嫌だなとか思わなかったんだよね

拓巳さん程の自信もないからさ、彫って欲しいって声掛けて貰えるだけでも有り難いなと思ってたし、俺の方も前向きって云うか結構前のめりだったんだよ

俺のデザインはきっと藤城さんの虎を既に見てるだろうしって思ってたから「俺の絵を見もせずに」みたいな感覚もなかったんだ

  

じゃ何んで口喧嘩みてぇなコトになっちまったの?藤城ちゃんも怒ってねぇってコトはキミは悪くなくて田沢さんって方が悪かったんだろうなって云うのは想像できるけどな

ソイツはキミにどんな無礼なコト云ったの?

  

いやいや、田沢さんと話した時点では俺もそんなコトになってるなんて思いもしてなかったんだよ

今日の話を聞いて俺もビックリしてるくらいだからね

田沢さんにタトゥーを彫って欲しいって云われて、俺は普通に何を彫るのが良いか話し合いを始めたツモリだったんだよね

何か彫って欲しいモノのリクエストはありますかって訊いたら「なんでもいいから格好良いヤツ」って云われてさ、それじゃ何んのイメージも湧かないじゃん?

で、「田沢さんは自分の人生とか生き様を表現するならどんな感じですか?」って訊いたんだよね

なんか通じてないみたいでさ、俺も前のめりだったからさ、畳み掛ける様に色々と訊いちゃってさ

武田信玄の「風林火山」で例えるならどれですか?とか、藤城さんみたいに座右の銘だけでも良いですよ、座右の銘は何んですか?とか尊敬する歴史上の人物でも居れば俺もその人のコトを調べますんで尊敬する人とか居たら教えてくださいとか

それでも俺がイメージを出来る様な答えが出て来なくてさ、例えば山口の場合、自分が信仰してるキリスト教の聖書に由来したデザインを総身彫りで全身に彫ってるって話をしてて、丁度シンヤさんも居たからシンヤさんのふくらはぎのスカルも見せてもらって、「シンヤさんのコレはタトゥー様のデザインではなかったんですけど」まで云ったらシンヤさん本人がこの絵が自分の人生の分岐点で、一生忘れたくない絵だったから、この絵を描いた本人に彫って貰ったんだとか云ってくれてさ

「とにかく、死ぬまで一生の間、田沢さんの身体に着いて遺こるモノなので何を彫るのか考えた方が良いですよ」って、俺は親切心とか田沢さんが後悔しない様にって云う老婆心から云ってあげたツモリで、何を彫るか決まったらいつでも云ってくださいって云って別れたんだ

  

ぶぁははは

なるほどねー!

それでその田沢さんって人、自分には何んにも信念とかそー云うのがねぇなって悩んじまったんだな

自分が空っぽの人間だって気付いただけでも田沢さんにとって大きな前進だって藤城ちゃんが云ってた意味が解ったわ

藤城ちゃん、キミと知り合えたコトを誇りに思うみてぇなコトまで云ってたしな

店長もその空っぽの人間に「お前は空っぽだ」って畳み掛ける様にキミが質問攻めをしてて爽快だったんだろーよ

キミ、ある意味天然だけど切れ味の良い尖ったモン持ってるもんな

  

次の日曜日には、タトゥーを背負うって云う重みを解ってなかったから俺にタトゥーを彫って貰える漢になってから出直してくるって俺に云いに来てたみたいだけど

ほら、ウチ等が山口のタトゥーの曜日を変えちゃってたからさ

それっきり会ってないや、今日も田沢さんは来てなかったしね

  

あたしの居ねぇ間にそんなコトもあったんだな

タトゥーを背負う重みかぁ

あたしはそんなに重くは考えてねぇから、あたしに云われんのもどーかとか思われるかも知んねぇけどさ、キミはちょっと重く考え過ぎてるトコあると思うぜ

まぁ、店長辺りに云わせりゃキミくれぇが丁度良いのかも知んねぇけどな

  

あれ?アレ山口とタケシじゃない?

2人して戻って来たぞ?

  

あー、ホントだぁ

何んか袋持ってんな、買い物でもして来たんだな

買い物して、なんでわざわざココに戻って来たんだろ?

ウチ等に用事かな?

  

うん、そうっぽいね

こっち見てるじゃん

手、振ってみる?

てか、俺と紗枝がココに居るって良く分かったね

  

いや、それは普通に分かるだろ

さっきまで一緒に隣のボディー・アート屋に居たんだし、ウチ等2人を置いてそそくさと居なくなったのも、むしろあの2人がウチ等をこのカフェに行くように仕向けてた様なモンじゃん

  

出て行った方がいいかな?

出て来るの待ってるんじゃない?

  

いや、入ってくるでしょ

  

あ、タケシだけこっちに来るね

ウチ等2人を呼びに来てるんだよ

やっぱウチ等がカフェを出て行った方が良いっぽくない?

  

だな

  

紗枝はもう食べ終わった?

行ける?

  

おう、行こうぜ

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