独言・(第伍拾弐弾)

やっぱりココかよ

卑怯な手ばっかり使ってさ、2度と俺の前に現れるなって云ってんのに

  

来てくれたんだ

キミが来てくれなかったらこのまま海を眺めながら餓死してぇなと思ってたんだよ

日曜にボディー・アート屋の隣のカフェで開店前から待ってて偶然を装って会うくれぇならキミと話が出来るかなと思ったら昼過ぎても誰も来ねぇしよ

敦子ちゃんのタトゥーを彫る曜日を変えたんだってな

店長にキミに彫ってもらうって予約してる次のタトゥーの打合せがしてぇんだって問い合わせても店長はまだ聞いてねぇからキミに確認してキミから連絡させるって云ったっきりナシノツブテじゃん?

あたしが居なくなって敦子ちゃんがキミのマネージャー役になろうって頑張ってくれてるみたいだけど、店長はあたしに戻って来て欲しそうな顔してたからさ、キミから連絡あるかなぁとか、ちょっと期待はしてたんだけどな

2度と顔を見せんなって云われちまってるからさ、あたしなりに気は使ってたツモリなんだけどな、卑怯な手ぇとか云われちゃったな

訊いても答えてくれねぇだろーけどさ

1番気になってるコトだから試しに一応訊いてみるわ

敦子ちゃんとは、もう、ヤったの?

  

最初に云っておく

それ以上1歩も俺に近付くな、俺に触れるな、そして俺に話し掛けるな

俺は俺のコトをガキの頃から知っててくれてる敬愛してる人が、娘が帰って来ないって心配してるから、その人の為にその人の娘を連れ戻しに来ただけだから

娘の方には用事もないし心配もしてない、迷惑だとしか思ってないから

  

じぁさ、ココで独り言をブツブツ呟くくれぇならいいよな、海で独り言も云えねぇんじゃ人権侵害だよな

この2週間くれぇの間よ、ロクに飯も喉を通らなくってさ

晩飯の前に母ちゃんによ「今日は紗枝がお祈りしてみたら?思い付くコトを全部神様に話したら良いと思うわよ」って云われて

敦子ちゃんがウチに居た時に敦子ちゃんが飯の前のお祈りをするコトはあってもあたしがお祈りをするコトなんてなかったんだけどよ

とりあえず「天の神様」って云ってみたんだよ

母ちゃんや敦子ちゃんの真似して「この夕御飯を感謝します」って続けたんだけどな

気付いたらあたし泣いててよぉ

今まで神様にお願いなんてしたコトねぇよなぁ?ウチは貧乏だったからサンタクロースにだっておねだりしたコトねぇだろ?って

今まで聞いてもらってねぇ願い事の権利がいっぱい貯まってるハズなんだけどソレ全部使うから聞いてくれよ!って神様にお祈りしててさ

学校に行きゃ友達が沢山居る様なヤツばっかりじゃん!大抵のヤツは両親2人揃ってんじゃん!

あたしにはたった1人の幼馴染とたった1人の親友しか居ねぇんだよ!ってさ

  

過去形だよね

「居ねぇんだよ」じゃなくて「居なかった」だよね

あ、今のは独り言ね

  

そのたった2人しか居ねぇ大事なヤツ等をあたしから奪わねぇでくれよ!

あたしがやっちまったコトをチャラにしてくれとまでは云わねぇからあたしから取り上げた大事なモンを返してくれよ!って、もうさ、お祈りって云うかさ、泣き叫んでたな

これから先の分のお願い事も全部使い果たしても良いからあの2人を返してくれ!って

  

神様に奪われたとか、まるで俺と山口が死んじゃったみたいな云い方だよなソレ

そう云う問題じゃない様な気がするんだけどね

これも独り言ね

  

もう自分でも何云ってんのか分かんねぇくらい泣きじゃくって叫んでて、たぶん、一生分の涙を流したわぁ

あたしが泣き止んで嗚咽が治まるまで、母ちゃん黙ってお祈りの姿勢のままで待っててくれてさ

最後に「このお祈りを、救い主イエス・キリスト様の御名を通して、哀れみ深く慈愛に富みたもう父なる神様に、お捧げいたします、アーメン」って付け足してくれてよ

お祈りなんて呼べねぇ様なあたしの想いを母ちゃんが丁寧に梱包して切手を貼って投函してくれたみてぇでさ、神様に届いた様な気がしてな

  

昔から「無理が通れば道理が引っ込む」って云ってだな

そんな無茶な願い事を送り付けられちゃって、神様に同情するよ

その小包を開封してビックリしただろうなホント

裏切られて傷付いた気持ちなんて、奇跡でも元通りになんてなるワケないと思うんだけどなぁ

って云う、そこはかとない俺の独り言ぉ

  

あたしがさぁ、仮にヒトを殺めて帰って来ても母ちゃんは受け入れてくれるとか云い出してさ

勿論母親として「警察に行って自首しなさい」とは云うけど、裁判を受けて社会的にちゃんと償って帰って来なさいって云ってくれるって

あたしが何処まで堕ちても母ちゃんはいつまでも母親で、ずっと味方で居てくれるとか云われてさ

ありがてぇなぁって思ったよ

「ありがとう」なんて言葉が出て来ない程ありがてぇなぁって

けどさ、今回のコトって償い様がねぇじゃん?謝って済むんだったらとっくに解決してるワケだしな

それじゃもう2度と元通りになんて戻らねぇんだなって絶望したらさ、また泣けてきちまってさ

母ちゃんにも申し訳なくなってきちゃって、力ぁ振り絞って「ごめん」だけ云い遺して家ぇ飛び出して来ちゃったんだよ

気付いたらココに居たわ

  

2時だぜ

夜中の2時にタク電が鳴ってさ、何事かと思ったよ

俺も考え事してたら眠れなくって、たまたままだ起きてたからさ、親父やお袋が起きて来る前にと思って急いで電話に出たんだけどね

お袋さん泣いてたな、泣きながら「こんな時間にホントにごめんなさい」とか云っててさ

深夜過ぎになっても娘が帰って来ないって、歩きであの公園まで探しに行ったらしいよ

でも娘は居なくて、そのまま中学校も見に行って俺ん家にも娘の原チャリが停まってないか見に来たって云ってたな

娘のバイト先まで歩いて行こうかと思ったけど流石に徒歩じゃ限界あるし探し回ってる間に行き違いになるかも知れないからって一旦帰ってバイト先のオーナーさんにも電話したって云ってたわぁ

オーナーさんに「秀くんなら居場所が分かるかも知れない」って云われて意を決してウチに電話して来たってさ

「来たってさ」じゃないや

「来たんだよなぁ」って云う回想の独り言だった

  

あちゃ、マジかぁ

母ちゃんからオーナーに電話ってパターンは想定してなかったな

ぁ、いや、人様の独り言なんて盗み聞きしてねぇんだけどさ

オーナーには洗い浚い全部話しちまったからなぁ、何があったのか母ちゃんももう聞いちまってるよなソレ

全部聞いた上でキミに電話してくれたんだ、夜中の2時に

キミを傷付けたみてぇに母ちゃん悲しませたくなかったから、母ちゃんには絶対ぇ黙っていようって決めてたのにな

  

「キミ」って誰だろ?

独り言のハズなんだけどな

別に俺も人様の独り言を立ち聞きなんてしてないけどさ

オーナーも全部知ってるのかぁ

  

あたしが処女じゃなくなっちゃったってだけで大事な幼馴染があたしから離れて行っちゃったって話してさ

その幼馴染に「たかがセックスだろ?気にする程のモンじゃねーよ!」ってオーナーからも云ってやってくれよって云ったんだけどな

オーナーだって散々ヤり捲ってたって云ってたからさ、セックスなんて何てコトねぇよって云ってくれると思ったんだよ

そしたら顔色変えちゃってさ、女の子の大事なモン、父親が居ねぇあたしにはソレを教えてやらなきゃいけねぇ大人は自分だったハズなのにとか云い出してよ

なんなんだよ、どいつもこいつも過剰に反応しやがってよぉ

オーナー、初めてあたしに怒った顔見せたなぁ

ビンタ張って目が覚めるなら思い切り張り倒すトコだけど、自分は父親じゃねぇし父親代わりにも満足になれなかったただの駄目な男だからあたしをビンタする資格もねぇとか云っちゃってさ

そうだ、キミがまだ童貞だったって聞いてビックリしてたぜ、オーナー

キミに凄く失礼なコト云っちまったとか云ってさ

それからキミがさぞかし傷付いただろうって、キミのコトを心配をしてたよ

  

だから「キミ」って誰だよ!

俺には話し掛けるなって云ってあるから独り言なんだろうけど

俺が童貞だとか女を寝盗られただとか、詰まんねぇ男だって云い触らして廻るのは勘弁して欲しいよな

まぁ、あの店には2度と行かないだろうからいいけどね

  

次の日バイトに行ったらさ、入口に手書きで「しばらくお休みします」とか書かれた紙が貼ってあってよ

使わねぇかも知れねぇけど一応持っておけって渡されてた合鍵で中に入ったらさ、真っ暗い中にオーナーが居てよぉ

大麻吸ってガッツリとキマってんの

大麻キメてブリブリにぶっ飛びてぇのはこっちだよ!って思ったねマジで

オーナーの咥えてた大麻を奪って思い切り吸ってやろうかと思ったんだけどな

誰だったか大事なヤツと、あたしが初めてドラッグをやる時は一緒に飛ぼうぜって約束してた気がしてさ

思い止まってオーナーに「店を開けるぞ」って云ってさ、オーナーはもうキマってて使い物になんねぇから奥に隠れててもらってな、その日はあたし1人で店ぇ開けたよ

「こんな恩を仇で返す様な男に、この店のオーナーなんてやってる資格も無ぇよ」とか何度もブツブツ繰り返してけどな

あと、あたしの父ちゃんに申し訳なくて仕方が無ぇとか母ちゃんに合わせる顔が無ぇとか云ってたな

その次の日からはちゃんと店ぇ開けてたわ、全然口を聞いてくれなくなっちまったけどな

まぁ、あたしから話し掛けないからってぇのもあるだろーけどさ

  

じゃあ真夜中にお袋さんから電話なんか来たらオーナーさんビックリしただろうね

まぁオーナーさんは何にも悪くないと思うんだけどさ、あのオーナーさんのコトだから責任を感じちゃってるのは解るわぁ

俺のコトを心配してくれつつ俺なら娘の居場所が分かるかもなんて俺の名前出しちゃうのも解るし

行く先々で他人に迷惑を掛けて廻る困った娘だよな、まったく

さっさと連れ戻してお袋さんに引き渡してお役御免したいトコだよな

これ以上係わってても更に迷惑掛けられそうだしさ

  

ああ、ごめん、ごめんなさい

って思ってるって云う独り言

そー云やさ、敦子ちゃんが出て行った時に机の上に紙切れが落ちててさ

きっと敦子ちゃんが聖書に挟んでたのが落ちたんだと思ってたんだよ

ホント、付箋紙くれぇのちっちゃい紙切れでさ「ピレ15」って書いてあったんだよな

印象が薄くてハッキリとは覚えてねぇんだけどさ、そー云えば聖書に「ピレモン」ってあったなとか思い出してよ

新約聖書だったか旧約聖書だったかすら覚えてねぇんだけど、後んなってからもしかして敦子ちゃんからの最後の置き手紙なのかなって思ってさ

けど、あたしに読んで欲しい聖書の箇所だったらピレモンの何章の何節って感じで数字がもういっこあるハズなんだよなぁ

まぁ、数字は何節かは書いてなくて章を示す「15」しか書いてねぇんだから敦子ちゃんの自分自身の為のメモかなんかなんだろうな

けど、もしかして15章全体を読んで欲しいって云う意味かなぁとか思ったりもしてさ

まぁ、確かめたかったら母ちゃんの聖書を借りれば確めれるんだけどな

まだ敦子ちゃんが最後の最後にあたしに何を云いたかったのかなんて聖書を開いて確認する勇気も無ぇんだけどさ

  

あ、やべ!

なんか唐突に分厚い本が借りっ放しになってたのを思い出した!

えっと、どーしよ、日曜日に教会に行けば母親には会えるから、母親経由で返しておいてもらおうかな

  

いや!だから自分で聖書開いて確認する勇気もまだ無ぇから急いで返さなくっていいぜって思ってる独り言

けどなぁ、貸した相手がひょっこりあたしの前に現れて返してくれたら、あたし、すんげぇ嬉しいだろーなぁ

てか、返してくれなくったって良いから

またあたしの前で笑顔を見せてくれたらなぁ

教会にはもう行けねぇしな

あたしとはもう2度と顔を合わせたくねぇって云ってるあたしの大事なヤツが教会に行き始めたらしいからな

水曜の夜の集会にまで通い出したって聞いたからなぁ

幼馴染も居ねぇ、親友も居ねぇ、ボディー・アート屋も行けねぇ、バイト先も行き辛れぇ、んで教会にも行けねぇんじゃ四面楚歌どころか八方塞がりじゃねーかあたし

なんでこんなんなっちまったんだよ!

こんなコトって、あるか?ねーだろ!

悪い夢でもココまで追い込まれたりしねーだろ!

ぁ、独り言な

全然分かってるし、自分が悪ぃって分かってるよ

云ってみたかっただけだよ、独り言だもんな

  

なんかぁ

俺が誰かさんの行きそうなトコに先回りして牽制してるとか思われてなければいいんだけどな

教会は山口が毎週水曜日にも行ってるって聞いて、タケシも門限があるから途中で帰るけど一緒に行ってるって云うからさ

俺だけ1人で先に山口んトコに行って待ってるのもおかしいから先週は付き合っただけだよ

今週の水曜日は独りで時間潰してて教会には行ってないし、たぶん今後も水曜日の集会に行かないと思うな

タトゥーを彫るのも平日の方が学校から3人でまとまって一緒に行けるし日曜日を外せば2人が教会に行った後にのんびり出来るからって云う便宜上の理由で、決して誰かさんを避けてるとかじゃないんだよな

誰かさん、行きたい時に何処でも好きなトコに行ったらいいと思うなぁ

  

そか、そー云われてみると

あたしが自分で行き辛くしちまってんのを他人の所為にしてただけかも知んねぇな

日曜にボディー・アート屋に顔を出した時もさ、シンヤさんが居てな

シンヤさんは何も知らねぇんだろーな

凄げぇ笑顔でさ、スカラのタトゥーを彫り終えたって見せに来てくれてな

「これ、モデルは紗枝ちゃんなんだよね」とか云っててさ

なんかそーやって話し掛けてくれるだけでも有り難かったなぁ

  

拓巳さんがさ、他の2人に気を遣ってか名前を出さずに話を出して来たんだよ

俺に「背中か胸にワンポイントとヘソの下にもワンポイント、仕事請けた?」ってさ

山口はピンと来たのか元々知ってたのか判らないけど目付きが変わってさ

タケシはそのクライアントが紗枝だなんて思い付きもしなかったんだろうね

「紗枝さんが請けてたのかも知れないね」って

拓巳さんさ、山口は山口で紗枝よりも絵画とか詳しいし優れてるトコもあるけど紗枝は紗枝で山口には無いモノを持ってるみたいなコトを云ったんだ

一長一短だよなみたいな感じでね

山口はデザインとかのパートナー的な役割をさせたらきっと俺の助けになりそうだからマネージャーって云ってもパートナー寄りな感じかなって

  

あーね、なるほどね

絵心とかは絶対ぇ敦子ちゃんの方があるしな、確かに知識とかも負けてるもんな

キミのマネージャーで居れたのも、めっちゃ嬉しかったんだけどなぁ

  

山口、ちょっとキツい口調でさ

「私、男を見る目もちゃーちゃんより長けてると思います!少なくとも秀さんの価値は私の方が理解してるハズ」って云ってさ

一瞬タトゥー・スタジオん中が凍り付いたんだ

しばらく沈黙してたなぁ

  

敦子ちゃん、怒ってんだなぁ、あたしのコト

けどさ、この前キミん家で話を聞いてて思ったんだけどな、タケシくんが敦子ちゃんを愛してるって話さ、連立方程式で敦子ちゃんがキミのコトを愛してるって意味だよなぁ

あたしにも一生懸けてでもキミには恩返しがしてぇって常々云ってたしよ

あたしがキミと居た時は徹底してあたし等の邪魔をしねぇように立ち振舞っててさ、あたしが居なくなった今は全力でキミのサポートに回ってるワケじゃん?

タケシくんを巻き込んだってトコに至るまで全部キミの為なんだなって気付いたんだよなって独り言

ヤったのかなぁ?とかツイデに呟いてみたり

  

山口が喋り疲れて眠るまで手を握っててやるだけの詰まんねぇ男のまんまだよ!

話の、俺の独り言の腰を折るなよ!誰の独り言だか知らないけど

しばらくの沈黙の後にさ、拓巳さんが3人に話し始めたんだよね

紗枝の詳しい話なんて何にもしてないけどさ、山口の反応を見て察したんだろうね

若いウチは色々ある、これから先も色々とある、乗り越えれたモノもあれば失敗して後悔するコトもあるって

その時は我慢出来なくて失ってしまったモノも、時間が経って振り返ると何で手離してしまったんだろうって思うコトが多いよってね

感情的になって下した判断は大抵の場合、間違った方を選ぶモンだってさ

感情的に手離して失ったモノは必ず後悔するって

大事な決断をする時には自分自身の感情と理性のバランスをちゃんと見て、感情が理性を上回ってる時には決断を先送りにすると良いってさ

そう云う時は誤った判断をしてしまうモンだって

  

店長、相変わらず格好良いな

その台詞、たぶんあたしにも云いたかったんじゃねーかな

ま、店長があたしのコトまで考えて云ったワケじゃねぇにしろ、あたしにも通じる話だなって、思ってみたり呟いてみたり

  

云いたかったのはさ

もしも今、予約を請けてたタトゥーの話をしたら感情に任せてキャンセルって云うか、お断りしちゃうと思うんだよね

「他所のタトゥー屋に行ってくれ!」って云っちゃうと思うんだ、俺

けどね、今やってる総身彫りが終わるまでどんなに早くてもあと半年以上掛かると思うんだ、たぶんあと1年近く掛かるんじゃないかなぁ

その時になったら感情を抑えて理性で別な返事になるかも知れないし

今お断りしちゃったら、その時に後悔するかも知れないなぁ

とか思ってクライアントさんへの返事を先送りにしてるんだけどね

クライアントさんに返事を急かされて今すぐに返事をしろって云われたら、お断りしちゃうんだろうな

  

キミ、あたしが家出して行方不明になったらココまで迎えに来てくれって云ってたの覚えててくれたんだな

家を飛び出した時にはあたしも忘れてたんだけどさ、やっぱりキミと居ると落ち着くわぁ

あ、話し掛けてねぇよ、今のも独り言だよ

  

東の空が明らんで来たな

道が混み出す前に帰れれば3時間くらいで帰れるかなぁ

さっさと娘を連れて帰るとするか

  

ガキの頃に同じ朝を迎えた男女だなとか云って笑い合った幼馴染が居たっけなぁ

その幼馴染と一緒に朝日なんか見れちゃったら、あたしは嬉しいんだけどなぁ

  

ちょっ!バカか?

今からココで日の出まで待って、それから帰ったんじゃ道も混むし、帰れるの昼過ぎになるぞソレ!!

  

今日土曜だしな

道ぃ、混み出すの遅いんじゃね?

もしかしたら案外全然混まなかったりしてな

独り言なんだけどよ

  

いや、眠いし!誰かさんの所為でめっちゃ眠いし

今から帰るのが限界だよ、これ以上遅くなって、更に混んだ道を走るなんて無理だ!帰ろう

  

そー云やさ、あたし独りでココまで来たんだし、別にあたし独りで朝日を見てから独りで帰っても良いワケだよな?

もともと独りだったワケだし

  

紗枝!

お袋さんが心配してるんだ、帰ろう

否が応でも帰り道に朝日は見れるから

走りながら朝日を見よう、各々別々に独り独りでね

  

あ~あ

この季節、生足でそんな短けぇの履いてたら海じゃなくても凍死するだろ!とかって突っ込み入れてくれる様な男は今後2度とあたしの前には現れねぇんだろーなぁ

  

マジかよ、クソッ

ぁ、あ・・・あ~あ

なんだか今日は暑いなぁ、1月下旬なのに

あああ、あ~あ

夜明け前の1番冷え込む時間のハズなのに俺、汗かいてるじゃん

チックショー、鬼かよ・・・

あ、あ~あ

袖に足を通して、このジャンパーを履く様なバカなオンナでも居ればくれてやるトコなんだけどな

クッ、マジで寒・・・ぃゃ暑い

手に持って帰るのもアレだからな、ココに棄てて行こおっと、このジャンパー

  

ぇ?あ、そんなツモリじゃ・・・

ありがとう

  

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