骸骨・(第肆拾伍弾)

おはよーっす!

今年初だな、書初だな

今朝ウチにタケシくんが来て一緒に教会に行ってるから

もしかしたら敦子ちゃんと一緒に今日は来るかもな

  

書初とは上手いコト云うね

紗枝はタケシとは会ったの?どんな感じだった?

冬休み中は俺もゴタゴタしてたし全然連絡取ってなかったんだけど、山口とは会ったりしてたのかなぁ

  

今朝あたしは会ったよー

敦子ちゃんはおめかししてたからさ

ピンポン鳴ってあたしが玄関に出たんだよ

誰だか分かんねぇくらい髪ぃ、すんげぇ短くなってたぜ

坊主になって出家でもすんのかと思ったよ

「紗枝さん、あけましておめでとございます」って声でタケシくんだって分かったわ

元気って程でもねぇけどさ、普通に挨拶してたぜ

別にあたしのコトは何て呼んでも構わねぇんだけどよ、いい加減敦子ちゃんのコトを「山口さん」って呼ぶのはどーにかした方がいいんじゃねーかな

冬休み中、敦子ちゃんとは毎日連絡は取り合ってたみてぇだよ、昼間に何度か会ったりもしてたしな

  

そうなんだ、山口とタケシは続行中なんだね、よかった

タケシって山口のコトを未だに「さん」付けで呼んでるんだ

てか、山口本人に対しても呼ぶ時は「山口さん」なの?

俺と話してた時に「山口さん」だったのは違和感なかったけどね、確かにもう良い加減もうちょっと親しい呼び方にすれば良いのにね

別にタケシにだったら「敦子」って呼び捨てにされても山口は怒らないんじゃない?

  

あーね、敦子ちゃんは逆にその方が嬉しいと思うぜ

たださ、タケシくん本人から直接聞いたワケじゃねぇんだけどな、ほらウチ等もタケシくんのコトをチャラいチャラいって云ってたじゃん?

実際さ、そこまで親しくもねぇ女の子を誰其れ構わず下の名前で呼び捨てにするヤツってチャラいじゃん?軽薄な感じしかしねぇじゃんかぁ?

キミだってさ、あたしとは幼馴染で特に最近はよく会ってるしタトゥーとかでも一緒だから呼び捨てにはしてるけど、それ以外の女子を下の名前で呼び捨てにはしねぇじゃん?

まぁ、敦子ちゃんのコトはキミもそろそろ下の名前で呼んでもいいんじゃね?とは思うけどよ

  

ん?だからタケシは別にもう山口のコトを呼び捨てにしても良い頃合いなんじゃないの?って話でしょ?

山口もその方が嬉しいなら尚更じゃん

  

いや、そーじゃなくってさ

前にタケシくんがキミに劣等感を抱いてるって云ってたぜって、云わなかったっけ?

キミがどんどん先に大人になって行ってる様に見えるってさ

別にキミに闘争心を向けてるワケじゃねぇからさ、キミの真似をしてキミに成ろうと思ってるワケじゃねぇんだろーけどよ

タケシくんはタケシくんなりの「大人」なスタンスを模索してんだと思うんだ

「山口さん」って呼ぶのも彼なりの紳士的な振る舞いの1つなんじゃねーかな

  

そうかなぁ

てか、そもそも呼び捨てってチャラいの?俺は海で初めて紗枝のコトを「紗枝」って名前で呼んだ時、実はかなりドキドキしてたんだけど、それは単に俺がビビりなだけでさ

逆に初対面でも名前を聞いた途端に下の名前で呼び捨てに出来るヤツって凄いなって思うよ

  

だろ?凄げぇ軽薄な感じだろ?

あれ?それって男と女とじゃ感覚が違うのかなぁ

友達とか仲間内なら大抵仇名があったりするんじゃねぇの?もしくは「ちゃん」付けで「秀ちゃん」みてぇな感じ

男が気安く女の子を呼び捨てにしてるの見ると「あんたぁ、あの仔のなんなのさ」って思うぜ、軽い嫌悪感はあるけどなぁ

今まであたしには友達が居なかったからあたしの感覚が変なのか?

  

あぁ!変だとは云わないけど慣れてないんじゃないかなぁ

学校じゃ俺もみんなに「秀」って呼び捨てにされてるけど、なんの違和感もましてや嫌悪感もないよ

そう云えば紗枝ってさ、言葉遣いはメチャメチャ悪いクセにヒトの名前を呼び捨てにしないね

タケシのコトも「くん」付けだし山口のコトも藤城さんも「ちゃん」付けてるよね

  

それは当たり前だと思ってたよ

気心知れる前に呼び捨てってさ、図々しい感じがすんだよな、呼ぶのも呼ばれんのもよ

キミのお父さんだってオーナーだって店長だって藤城ちゃんだってスタッフのみんなだって「紗枝ちゃん」って呼んでくれてて呼び捨てにはしねぇじゃん?

キミが学校で「秀」って呼ばれんのは、なんとなくしっくり来るけど、ソレは男子だからかなぁ?

敦子ちゃんだって「ちゃーちゃん」って呼んでくれてるからな、キミ以外の男から「紗枝」って呼び捨てにされたら、たぶんカチンと来ると思うんだ

  

ほら、やっぱり

今紗枝が挙げたの、ほとんど大人じゃん?

大人は年下の若い女の子を呼び捨てにはしないんだよ、だから同世代から呼び捨てにされるのに紗枝が慣れてないだけだよ、きっと

  

ほら、やっぱり!

弁えのあるオトナの男はよ、年下の若い女の子を気安く呼び捨てにしねぇんだろ?

タケシくんは敦子ちゃんを受け止めれる様な大人の男を目指してんだよ

まぁ、あたしの受けた印象とか臆測でしかねぇ話だけどな

もしくは、ウチ等3人の間に自分が入れる隙間が無ぇとも云ってたからさ、疎外感みてぇのをまだ抱いてんのかも知んねーしな

それならまずは「山口さん」って呼ぶのやめろって思うけどよ

  

今日2人揃って来たら提案してみようか、タケシの山口を呼ぶ呼び方をみんなで考えるとかさ

拓巳さんやボディ・アート屋のスタッフさん達にも意見を聞いてみるとか

  

おう、面白れぇなそれ

そー云やスタッフさんで青いモヒカン刈りヒト、シンさんだっけ?シンヤさん?

やさぐれた顔してんのに喋るとやたら丁寧なヒト

あのヒト、やっぱり辞めちゃったのかなぁ

年末に辞めるとか云ってて店長に引き留められてたじゃん?

  

あ、シンヤさんだね

自信喪失したとか云ってたね、自分には絶対に越えられない壁があって伸び代が感じられないとか

まぁ、店長が云ってた通りスランプみたいなモンなんじゃないかな?

仮に年末で辞めたとしてもまた戻って来る様な気がするし、年末年始でリフレッシュして普通に今日来てるかも知れないよ

  

あのヒトの云ってた壁ってさぁ、キミのコトなんじゃねーかなって思ってるんだよな

いや、キミを追い越そうとかキミに勝ちたいとかじゃなくてな、キミの才能がさ、あのヒトには到底及ばねぇなって意気消沈しちまったんじゃねぇかなって

  

はぁ?んなワケないでしょ!!

シンヤさんの描くデザイン、凄い格好良かったし彫るのも細かくて丁寧で、ひよっこの俺なんてまだまだ足元にも及ばないよ!

そもそも俺とはデザインのタイプも違ったし、俺の絵と比べてどうのこうのなんて思ってもないと思うよ!

俺もシンヤさんのデザインから刺激を貰ったりはしてたから、もしもシンヤさんも俺の絵を見て多少刺激を受けててくれてたなら光栄だなって感じだよ

  

まだあたしがクロスのタトゥーを彫ってもらってた頃だったと思うんだけどな、キミは覚えてねぇかなぁ

ウチ等がタトゥー・スタジオに入ったらさ、店長とその、シンヤさん?中で2人で真剣な話をしててさ

「あ!紗枝ちゃん丁度良いトコに来た!」とか云って、なんかセクシーなポーズを取って見せてよって無茶振りされたコトがあったじゃん?

  

あははは、そんなコトあったねぇ!

紗枝、たじたじしながら両手で髪の毛を手櫛で掻き上げる様なポーズをしてさ

「それが紗枝の全力のセクシー・ポーズなのか!」って俺、ツッコミ入れたんだよね、覚えてる覚えてる

  

いや、部屋に入るや否や唐突に振られたらなんにも思い付かねぇだろ、普通

でさ、店長がシンヤさんにさ、あたしの何が見えるかって訊いたんだよ

  

あー覚えてるよ、紗枝の腰のクビレやおっぱいが見えるかってシンヤさんに訊いたんだよね

拓巳さんが云うと全然エロくないんだなって思ったんだよ、その辺のオッサンが同じコト云ったら絶対キモい台詞なのにって

  

あたしは焦ったよ?

キモいとは思わなかったけど、云うコトがエロいなぁとは思ったよ!

その後にタトゥーを彫る予定だったから脱ぎ易い様にダボダボな服装で来てて良かったなって思ったし

身体のラインが分かる様なピッタリした服だったらもっと恥ずかしかっただろーなってさ

でさ、シンヤさんが返事をする前に今度はキミにも同じ質問を振ったんだよな

キミ、なんて答えたか覚えてる?

  

今思い出したよ、確かぁ

「見えます、紗枝の全身の骨格まで見えてます」って返事したんだよね

あ、その後みんな沈黙しちゃって、拓巳さんも険しい顔して絶句しちゃってさ

怒ってるワケじゃないのは分かったんだけど、拓巳さんの顔が怖くて

そうそう、もしかして俺が調子に乗って大口を叩いたって思われたかなって慌てたんだよ

で、そこにあった紙とペンを取って

  

そう、キミは紙とペンを取って集中してたから聞いてなかったかも知んねぇけど、店長がシンヤさんに「デッサンは目に見えてる部分を模写するんじゃなく想像と創造で脳の中に見えてる物を紙に写し出すんだ。それで構図やバランスは大分良くなる筈だから。秀くんは天才だから持って産まれたモノがあるけど、ソレは努力や訓練で補える物だ」って話してたんだよ

  

拓巳さん、シンヤさんにそんなコト云ってたの?

マジで全然聞いてなかったわ、聞いてたのかも知れないけど覚えてないよ

  

いや、キミは集中してたからたぶん耳に入ってなかったんだと思うぜ

店長がシンヤさんに話終えた時にはキミ、あたしのコトを見もせずにあたしのポーズと全く同じ格好したガイコツの絵をスラスラっと描き上げてたからな

その集中力や記憶力や想像力にタトゥー・スタジオ内全員が完全制圧されたし

  

あー思い出したよ

俺はさ、骨格まで見えてるって云ったのが嘘じゃないんだって証明したくって必死に描いたのに描き終えたらみんな更に固まってて「なんだこのやっちまった感は!」って焦ったのを思い出したよ

変な汗かいたし

けど、それって大分前の話だし、シンヤさんの辞める辞めないの話とは無関係なんじゃないかなぁ

  

シンヤさんさぁ、あのガイコツの絵を欲しいって云って来たじゃん?

人様に差し上げるんだったらもっとちゃんと描いたのにってキミは断ってたけど、今自分の目の前でキミが描いたこの絵が欲しいんだって云って結局シンヤさんが持って行っちゃったんだよな

でさ、その後もあたし何度かシンヤさんがあのガイコツの絵をじっと眺めてんのを見掛けたんだよ、よっぽど気に入ったんだなって思ってたんだけどな

藤城ちゃんの虎のデザインも一時期は宙ぶらりんになっちまって店内に飾ってあったじゃん?

シンヤさん、あの虎もよく眺めてたよ

  

そうなんだ、なんか嬉しいな

シンヤさん程のベテランに気に入って貰えるなんてマジで光栄だよ

俺等があの店に出入りするようになって他の彫り師さんやスタッフさんにも良い刺激になってるみたいなコトを拓巳さんは云ってくれてたけど、あながちお世辞でもなかったのかな

  

いつだったかなぁ、結構最近になってからの話なんだけどよ

シンヤさん、店の外でタバコ吸いながらさ、またあのガイコツの絵を眺めててさ

あたしに気付いて「紗枝ちゃんもその場に居て秀くんがコレを描くのを見てたよね?ものの2~3分だったよね?」って話し掛けてきてさ

あたしはなんだか誇らしくて「凄ぇだろ!あの天才はあたしの幼馴染だよ!」って云ったんだよ

そん時にさ、あのやさぐれた顔に優しい笑顔を浮かべながら「ああ、凄いな、ホントに」って云っててさ

今思えばあの時のシンヤさんの笑顔って、諦観の境地だったのかなって

  

マジで?あの時に紗枝の骨格のラフ・スケッチを描いたコトすら今思い出したのに、それをシンヤさんがずっと持ってて眺めてたとか、今初めて聞いたからビックリだよ

けど、あの骨格の絵はホントに雑な落描きレベルだったから、あの絵を見てシンヤさんが「越えられない壁」とか云って自信喪失するって云うのは考え辛いよ

たぶん、紗枝の考え過ぎだと思うなぁ

  

シンヤさんが勝てねぇと思ったのはさ、あのガイコツの出来映えとかじゃねぇんだと思うぜ

ポーズを取ったあたしって云う同じモデルを一緒に見て、骨まで想像してバランスを見てるってトコやそれを2~3分でスラスラっと紙に描き出しちゃうってトコだったんじゃねぇの?

店長も言葉を失って固まってたぐれぇだからさ、そー云うコトだと思うぜ

  

いやぁシンヤさんの画力なら既に越えてると思うんだけどな

スカラのデザインなんて俺の何10倍も描いて来てるだろうし、紗枝の取ったポーズだってそんなに難しいポーズじゃなかったからさ

たぶん違うと思うよ、あの骨格の絵とシンヤさんが辞める辞めないの理由は無関係だと思うなぁ

あ、山口来たよ

1人だね、タケシは帰ったのかな?

こっちにハンド・ジェスチャー送ってるじゃん

「先に行ってるね」ってさ

  

あ、ホントだ

なぁなぁ、「タケシくんはどーしたの?」ってハンド・ジェスチャーでどうやんの?

 

そんなのあるワケないじゃん!

仮に、仮にだよ?仮にそんな手話みたいなハンド・ジェスチャーがあったとしても紗枝もまだ知らないハンド・ジェスチャーを今こっから山口に送っても山口に通じるワケないじゃん!

  

なんだよー、敦子ちゃん一方的に云いたいコトだけ云いやがって!

ちょっとタケシくんがどーしたか聞いて来るわ!

てか、もうウチ等も行こうぜ!

あれ?キミまだ喰い終わってねーのかよ!

何ちんたらしてんだよ、先に行ってるぜ

  

ああ、山口が来てから何か頼んでそれを食べ終わるまで、同時に食べ終わる様にってペース配分で食べてたから・・・

  

あ!それってキミのお父さん直伝のデート・マニュアルだぁ!

なんだかんだ云ってキミ、お父さんの云うコト聞いてんだな、おたまじゃくしくん

んじゃ、先に行ってるぜ

  

うん、俺も直ぐに行くよ

んじゃ、後でね

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