首斬・(第肆拾肆弾)

おー!いらっしゃい!!

キミが来てくれてよかったぜ!

今日はまだ客が1人も来てなくてよ、このまま坊主だったらあたしバイト料要らねぇやって云っててさ

オーナーは来客数ゼロでも拘束時間分は支払うって、押し問答になっててよ

じゃ、あたしが客になって何か注文するって云っても「それはマカナイだな」って却下されちまってな

あれ、なんか浮かない顔してんじゃん

あぁ、ゴメンゴメン、元旦は悪かったな

全然力になれなかったな

  

いやぁ、元日はホントありがと

紗枝達が来てくれてなかったらもっと酷い正月になってたと思うから、全然助かったよ

この店、今日からって聞いてたからオーナーさんにも新年の挨拶をしようと思ってね

けどその前に冬休みのウチにさ、1度先輩のご両親んトコに顔を出そうと思ってて先にお年賀持って今行って来たんだよ

  

あー、事故ん時のだぁ

声掛けてくれりゃあたしも付き合ったのに、前回一緒に行ってるんだし

で?どうだった?少しは元気になってたか?

  

うん、元気ってワケではないけどね

お父さん3月に会社を辞めてお母さんの実家の農家を継ぐコトにしたって云ってた

今の暮らしのままだと先輩を思い出していちいち辛いし、夫婦でまたゼロからやり直すツモリで、人生の再出発をするんだって云ってたよ

先輩のコトを忘れたいワケじゃないのに思い出すと辛いって、俺、掛けてあげる言葉が見付からなくてさ

来てくれてありがとう、先輩のコトは忘れないでやって欲しいって云われたんだけどね

あの2人も前を向いて歩いて行く様に努力するから、もうわざわざ顔を出してくれなくていいよって云われたよ

なんだかね、凄く複雑な気分でさ

  

そっかぁ

あたしも父ちゃんが死んだ時は勿論ショックだったけどよ

まさか先に逝くなんて思ってもねぇ息子を突然亡くすって云うのがどれだけ辛れぇのかは分からねぇよな

あたし等じゃ想像も出来ねぇくらい悲しいんだろう、きっと

確かに事故った時に一緒に居たキミが顔を出すと辛くて前に進めねぇくらいになっちまうのも解るからさ

キミも複雑な心境だろーけどよ、親御さんの気持ちを優先して先輩ん家にはもう行くのをやめたらいいと思うぜ

  

やっぱそうだよね?

けどさ、今日が先輩の両親と話す最後なら、もっと気の利いた元気になるようなコトを云えたんじゃないかなとか色々と思ってさ

まぁ今更考えて何か思い付いたトコで手遅れなんだけどね

  

そーやってキミが先輩ん家に足を運んでるってだけでも充分だと思うよ

あとは親御さんの云う様に、忘れないであげればいいんじゃねぇかな

命日、一緒に先輩の墓参りに行こうな

ところで、キミん家はどーなんだよ

元旦、あの後どーなったぁ?

オセチ喰った後にみんなでトランプで遊んだ辺りまでは調子良かったんだけどな

お母さんの突発性号泣でウチ等の作戦は撃沈だったな

  

あれ、ホントごめんね

紗枝達があんなに盛り上げて楽しいし空気にしてくれてたのにお袋、急に声出して泣き出すんだもんね、俺も焦ったよ

「我が家の為に3人とも、ホントにありがとう」とか云って泣き崩れちゃってさ

何事かと思ったよ

一瞬、最初はポーカーの出目が悪かったのかと思って唖然とした

  

いやいやいや、配られたカードが悪くてあんな泣き方する大人は居ないだろ、普通に考えろよ!

まぁ、オンナって生き物は泣いて発散したりスッキリするってトコもあるからな、あーやって思い切り泣けたのはお母さんにとって良かったのかもな

  

お袋が泣き出して「ありがとう」を連呼し始めた時にさ、紗枝とお袋さんだけじゃなく山口まで声を合わせて同時に「そんなんじゃねえよ!」って云ったじゃん?

なんかさ、上手く云えないんだけどね

紗枝ん家では今でもまだ、おやっさんが生きてるんだなって感じたよ

  

そーだったな、敦子ちゃんも一緒に同時に「そんなんじゃねえよ!」って云ってたな

父ちゃんの魂はあたしん家じゃまだまだ健在だし、敦子ちゃんも大分ウチの娘になってきたってトコだな

交換条約の第2弾さ、その場の思い付きにしては名案だと思ったんだけどよ、否決だったな

あたしがキミん家にあのままお泊まりしてよ、キミはあたしん家に泊まればお父さんとも離れて一晩お互いに頭ぁ冷したり愚痴を吐き出したり聞いたりも出来て冷却効果は絶対ぇあったと思うんだけどな

あ、そーか!敦子ちゃんがどっちに泊まるのかが問題だったのか!

  

いや、ソコじゃないと思うぞ紗枝

あの状況で「第2弾!」とか云えちゃう紗枝の神経に度肝抜かれたよ

まぁ、冷静になって考えればあのまま交換条約の第2弾でお泊まりするのも手だったかも知れないけどね

とてもじゃないけどそんな心境じゃなかったからさ、特にウチの両親がね

親父、紗枝達が帰る時に「紗枝ちゃん、今日はごめんね、またいつでも来てね」って云ってたのは本心だったと思うよ

あの後親父、俺にも仕事の鬱憤で八つ当たりしたって謝って来たしね、俺も云い過ぎたって謝ったけどさ

けど、ウチ史上最悪の親子喧嘩だったからね、まだギクシャクはしてるよ

ほとぼりが冷めるまでもう少し時間が掛かりそうだな

  

あーでもさ、一応和解成立はしたんだろ?

だったら良かったのかも知んねぇな、お泊まりで一晩引き離すよりもよ

あ、ベーコン・レタス・トマト・ドッグ出来てんじゃん

飲物は?コーヒーでいいか?

  

あ、いや今日はミルクティーで

なんかさ、立ち聞きするツモリはなかったんだけどさ、親父がお袋と話してるのを聞いちゃったんだよね

親父の仕事の話をさ

  

おお!やっぱり何か失敗でもしちゃったの?

最近ずっと仕事が上手く行ってないっぽかったからな

  

親父の部下が担当してた売り先が倒産しちゃったらしいんだよ

で、親父の会社は売った物の代金を回収出来なくて、凄い額の損害だってさ

で、管理職の親父が責任を取らされて降格だってさ

  

直接お父さんが悪いワケじゃねぇけど、部下の不始末で責任を取らされたって感じかぁ

お父さんの云ってた自分が悪りぃワケじゃねぇのに頭ぁ下げたりって話、繋がるなぁ

  

でさ、まだ内示らしいんだけどね

今まで馬の合わなかった若い遣り手の部下が春から直属の上司になるらしいんだ

  

会社ってトコはそー云う下剋上みてぇのがあるってのは聞いてたけどな

ウチ父ちゃんは会社員じゃなかったからそー云う煩わしい話はほとんどなかったんじゃねぇかな

まぁ、年下の上司とかって、お父さん的にはプライドが傷付く話なのは想像できるわ

  

親父、そいつに云われたらしいんだ

「お飾りの首斬り要員、お勤めごくろうさん」ってさ

自分はお飾りなんかじゃなく上を目指して行くから、余計なコトをして足を引っ張らないで欲しい、定年まで大人しくしててくれって

なんなら退職金の概算を出しておいてやろうかって云われたんだってさ

  

なんだそいつ!云い過ぎだろ!

今まで上司だったお父さんが部下になるからって舞い上がってるんだろーけど、人としてソレは云い過ぎだよな

それとも、よっぽどお父さんのコトが憎かったのかなぁ

人から怨みを買うよーなタイプじゃねぇよな、キミのお父さん

  

今までもね、会議とかで革新的な販売形態とか企画して提案してきてたらしいんだ

けど親父はコトなかれ主義だし保守的だから「前例がない」とか「会社の経営方針と違う」とか云ってそいつの提案をことごとく却下して来てたんだって

親父はそれが正しいと思ってたし会社の為だと思ってて、管理職としての自分の取るべき態度だって信じてたんだよね

そいつはいつも親父に喰い下がってたらしいんだけど、親父は当然そいつに個人的な怨みもなければ悪気なんてなかったって

  

あーね、ある意味逆怨みを買っちまった感じか

逆にそいつからしてみたら自分の正しいと思ってる企画や会社の為だと信じてやってるコトをお父さんに邪魔されて来てるって感覚なんだろーな

客観的に見たらどっちが正しいのかなんて判んねぇけどな

そいつのキミのお父さんへの云い草はアウトだよな

退職金とか云って会社を辞めさせる方向に仕向けるのってパワハラとかで訴えたら勝てるんじゃね?

法律とかよく知らねぇけど

  

そいつ、遣り手だって云ったじゃん?

まだ内示が出ただけで実際にはまだ親父の上司じゃないから、今この時点では何を云ってもパワハラには該当しないんだって

そう云うトコ、抜け目ないヤツらしいんだ

降格して給料も下がるみたいなんだけどね、このままそいつの下で働いてても窓際に追いやられるだけなのが見えてるから、更に給料下がるけど別の部所に転属願いを出したいんだってお袋と相談してたんだよ

  

そー云うシタタカなヤツって大人になっても居るんだな

くだらねぇイジメとかと然して変わんねぇじゃん

まぁ、キミのお父さんは悪くはねぇよな

災難だったとしか云い様がねぇよ、お気の毒に

真面目にさ、学んで来たコトを実行して来てシナリオ通りに良い会社に入って、会社に云われた通りにやってきて出世して、ここまでは順風満帆だったのにな

とんでもねぇドンデン返しを喰らっちまったな

そりゃ相当凹んでんだろ

家族にまで八つ当たりしちまうのも納得は出来るわ

今までのお父さんの人生を根底から否定されちまった様なモンだからな

  

うん、そいつにも云われたらしいんだ

親父がそこまで出世が出来たのは自分の頭を使って自分の生活や会社を良くしようとか思わないでロボットみたいにただ云われたコトだけをやってた来たからだって

だから会社の駒として、こう云う時に管理責任で処分を受ける為だけに置かれたお飾りのロボットだったんだってさ

親父には悪いけど、そして俺はそいつの物の云い方もムカつくけど、そいつの云う通りだなって思ったよ

  

なぁなぁ、キミはその話をどんな状態で聞いてたの?

廊下とかで壁にコップとかくっ付けて聞いてたワケ?

まるでその場に居たのかってくれぇ詳しく聞いちゃってんじゃん?

キミに聞かれてんの、お父さん達に気付かれちゃってんじゃね?

  

ほら、正月ってテレビとかラジオとかつまんないじゃん?

だからリビングのソファーに寝そべってイヤホンで音楽を聴きながら親父が置きっ放しにしてた週刊誌を見てたんだよ

で、イヤホンで聴いてた音楽が止まったらいつの間にかダイニングに親父も来ててお袋とそんな話をしてたからさ、逆にその場を立ち去るタイミングを逸しちゃった感じ?

耳にイヤホン入れたまんま面白くもない週刊誌をペラペラ捲りながら読んでるフリしてたから、たぶん聞かれてるとは思ってないよ

聞かれてるって気付いたら話を変えただろうしね

  

なるほどな

そりゃ出来るコトなら退席してぇ状況だったな

けどさ、キミのお父さんとお母さんもよ、そんな話を向き合って出来るんだからさ、夫婦としてはマトモな方なんじゃねぇの?

今回はちょっと、コトがコトだっただけにお父さん取り乱しちまったけどさ

基本的には良いお父さんとお母さんだと思うぜ

でなきゃキミがこんな風にマトモに育つワケがねぇしな

キミは自分ん家が裕福だって自覚はねぇのかも知んねぇけどさ、裕福な家庭ってさ、中身が崩壊してるの多いイメージじゃん?

大概金持ん家の子供って親のイイナリかグレてるかのどっちかだろ?

  

どぉだろうね

ウチは裕福とまでは思ってないけど、何不自由なく生活が出来てるコトには親父に感謝してないワケでもないんだけどさ

こんなコトになる前に拓巳さんと知り合えてて良かったなとは思ってる

親父の云ってるコトだけを聞いて来てたなら今回たぶん、俺も親父と一緒にワケ分かんなくなっちゃってたと思うしね

それにさ、今までの親父は紗枝ん家を見下してたって云うかさ、少なくとも年収だとかステータスだとかでね、優越感は抱いてたと思うんだよね

けど、さっき紗枝が云ってたみたいに胸張っておやっさんの魂は健在だ!とか云える様なモンは、ウチの親父からは何もないなとか思っちゃってさ

優劣で量るのも違うとは思うんだけどね、紗枝のおやっさんよりも人間として漢として劣ってるのに満身しちゃってる感じが嫌だったから、良い気味だとか様ぁ見ろとまでは云わないけど、良い薬になったら良いなとは思ってるよ

  

キミの云わんとしてるコトは分かるけどよ

ちなみに見下されたり貧乏だの片親だの不良だのって云われんのには慣れっ仔だからさ、あたしに同情みてぇな感じならソレは要らねぇよ

大概云われてるコトも事実だしな

けど今後、キミのお父さんがキミになんて云うのかは気になるな

今まで通り良い大学を出て良い会社に就職しろって云い続けんのか、何か別のコトを云うのか

まぁ、会社をクビになったワケじゃねぇからな、今まで通りかも知んねぇな

  

親父はマニュアル人間だからさ、たぶん同じコトしか云えないんじゃないかな

例えばさ、お袋が美容院に行った次の日とかにね、その髪型を褒めるんだよ

なんかさ、褒めてるんだけど「云われる前に自分で気付きましたよ」的な感じ?

髪型を褒めるよりもソレに気付いた自分を自分で褒めてる様な感じにしか見えなくてさ

感情じゃないんだよね、正にロボットかご褒美目当ての子供みたいな感じでさ

俺にもね、中学ん時だったと思うんだけどさ

もしも俺に彼女が出来てデートとかで一緒に御飯を食べる時には、女性の方が食べるのが遅いモンだから彼女のペースを見ながら同時に食べ終える様に心掛けてゆっくり食べなさいとかアドバイスしてさ

なんて云うか、決められた公式通りにやれば成功するって思ってるんだよ

それでもまぁ、これまではその成功を手にして来てたんだろうけどね、人間的な深みみたいのがないんだよね、紗枝のおやっさんみたいなさ

  

あー、そっか、そー云う話ね

別にあたしに同情してるってワケじゃねぇんだな、よかったわ

なんかウチの父ちゃんのコトを褒めてくれてあんがと

あたしもさ、好き嫌いは当然あるけどよ

実際にどっちが正しいとかどれが正解だとかは無ぇんだと思うんだ

価値観って其々じゃんかぁ?

今はキミのお父さんとかあたしの父ちゃんとか、父親の話だったから比べちゃうみてぇな流れになっちまったけどさ

ウチの父ちゃんはウチの父ちゃん、母ちゃんは母ちゃん、キミのお父さんもキミのお父さん

おんなじ様にあたしはあたしでキミはキミなんだよ

あたしに好きなヤツも居ればそーじゃねぇヤツも居るみてぇにさ、あたしのコトを好きなヤツも居りゃ嫌うヤツも居て当然だし、自分の価値観でしか物事を測れねぇヤツが他人を否定するんだと思ってるから、あたしは嫌いなヤツでも否定はしねぇようにしてるわ

だからあたしが否定された時には、少なくともその部分ではそいつより上だなって思えるし、その余裕のオカゲであんまし腹が立ったりはしねぇわ

別に心が広かったり寛大だったり理解あるってワケじゃねーんだ

半分は護身みてぇなモンだな、自分の為だ

  

なるほどね、けど、その理屈は正しいと思うよ

あ、なんか団体様が入って来たよ

俺、お皿持っていつもの席に移動するからさ

これ、オーナーさんにお年賀持ってきたんだけど渡しといてもらえるかなぁ

  

あ、そーだったな

オーナーに新年の挨拶って云ってたな

オーナーは直ぐに手ぇ空くからさ、キミの席に行く様にって呼んでくるわ

それと、悪りぃ

ミルクティーまだ出してなかったな

それもオーナーに持たせるわ

  

いや、紗枝、それは悪いよ

紗枝とオーナーさん、どっちがオーナーだか分かんないよソレ

  

いいんだよ、あたしもオーナーも今日は客が来なかったから全く働いてねぇし

オーナーも奥で暇そーにしてっからさ

キミに相手してもらえたら嬉しいと思うぜ

  

あ、じゃあさ、あの団体客のオーダーがまだならミルクティーは今受け取って自分で持って行くよ

  

おーけぇ

ほい、ミルクティーな

  

ミルクティー、今日は早めー!

また愚痴聞いて貰っちゃってごめんね

んじゃ!

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