第30話 太陽系ビリヤード作戦

 珠姫が……きちんと元の時空に戻ったかどうかはわからないが、舞踊がやったことだ。間違い無いだろう、と一息ついて、ぺこりは自室に帰って水沢舞子にお茶でも淹れてもらおうなどと考えていたが、そのペコリの背中越しに、テンションが猛烈に上がってきている、宇宙一の大軍師、諸葛純沙の「大至急、軍議を!」という声が迫ってきた。ぺこりとて高水準のIQを持っているが、純沙や舞踊、仲木戸などのぶっ飛んだ天才のような狂気はない。戦闘時、特に白兵戦では狂気を出すが、現在はあまりにも優秀な武将が雲霞の如くおり、ぺこり自身が出陣することなどほぼない。

「おいらは曹操と一緒で人材コレクターだなあ。必要以上に人を集めてしまって、実際に働いているのはお馴染みのメンバーだよ。出番の少ないものはフラストレーションが溜まっているやつもいるだろうな。いっそ、謀反でも起こしてくれたら楽しいのに」

 などとボヤいている。しかし、実際のぺこりは劉備タイプなので、家臣たちはその人柄ではなくて、くま柄? に惹かれて仕えているので謀反はない。残念でした。


「おい、純沙。まだ見ぬ敵に対する軍議もいいが、お前の本来の任務である学園の経営はどうするんだ? しっかり教師たちを監督しないと、破廉恥な犯罪をして逮捕されるやつがでてくるぞ! 学園の名声が一気に地に落ちる」

 ぺこりは純沙に注意した。

「ご心配なく。学園は、教師生活二十五年の町田先生を理事長代理にしていますから」

「町田先生? どっかで聞いたような名前だな? 生徒の中にサングラスをカチューシャみたいにして、かえるのイラスト? がプリントされたシャツを着ている者はいないか?」

「さあ、存じません。それより軍議を!」

 純沙がせかした。クールビューティーの顔が紅潮している。それはそれで、かわいい。


 大会議室に佐官以上の武将と各庁の長官、参謀総長らが集められた。ぺこりは内心、「マジ、こんなに人材、必要かな? 軍事専門の人材派遣会社でも設立しようか?」などと考えていた。仲木戸、古代の両名は月で、惑星を動かすための巨大ブースター製造のために不在である。軍議を仕切るのは純沙であり、難しい物理化学系の話は舞踊がする。ぺこりは文系だから理系の話が大嫌いなので、聞いているふりをして、手持ちのタブレットで非連結決算だけれど本当は『悪の権化』の関連会社の収支や、責任者の働きぶりを見ている。宇宙連邦が巨大すぎる敵であることは分かっているが、純沙が守備戦ではなく打って出ると聞き、宇宙空間に行くのが怖いぺこりは関ヶ原の合戦で大坂城にじっとしていた西軍の名目上の総大将、毛利輝元のごとくお留守番でもしていよーと考えていた。どうも、純沙が張り切りすぎていて、モチベーションが上がらないのだ。むかし観た『ガッチャマンⅡ』で、サイボーグ化されたコンドルのジョーばかりが目立って、本来の主人公である、ガッチャマンこと大鷲の健が霞んでいるように見えたのと同じ感覚だ。ここで豆知識。ガッチャマンは科学忍者隊のリーダー、大鷲の健だけのことを言い、他の四人は単なる科学忍者隊のメンバーというだけなのである。


「ぺこりさま、真面目にお聞きください」

 めざとい、純沙が注意する。

「ほーい」

 ぺこりはふざけた。

「もう結構です。さて、前回の軍議で、木星、土星、火星を移動させて、将棋で言う『囲い』で王将である地球を守ると申し上げました。それで仲木戸兄弟に月面に製造所を建設していただき、惑星移動用のブースターを作っていただいています。その仲木戸さんから連絡があり、木星、土星の衛星はどうするかというお尋ねがあり、あたしは考えた末、この際、衛星を爆弾として、宇宙連邦の船団に撃ち込もうと決断しました。いま、月では衛星を爆弾化するためのロケット兼核弾頭を製造し始めています」

 純沙は平然と言い放った。それにはぺこりも反応する。

「おい、純沙。やりすぎだ。いくら衛星といえども重力に深刻な影響が出るだろう。それに核弾頭だと! おいらたちは北朝鮮じゃないぞ!」

 ぺこりの怒りに会場が静まる。ここで、舞踊が出てきた。

「ぺこりさん。重力の問題はクリアできます。衛星のあった場所に小惑星で作った、ふふふ『人工衛星』を置くのです」

「おい、舞踊。なにを笑ってんだ! 衛星はよくても核弾頭はどう説明するんだ!」

 ぺこりの怒りは収まらない。

「ああ、それでしたら……今後、三百年間、地球人があの星域に辿り着くことはないという宇宙物理学会の研究結果が発表されています。もちろん、我々の組織以外ではですけれど」

「うぬう。ウチの研究データが盗まれんとも限らないだろう?」

「そんな手ぬるい組織ですか、我々は?」

「上手の手から水が漏れってことわざを知らないのか? よう、デジタル庁長官、鶴一声(つる・いっせい)くんよ!」

 突然呼ばれた鶴長官は、

「大丈夫だ〜!」

 と一声漏らした。それが、ぺこりの笑いのツボに入り、

「もう分かった。ひひひ、あとは突撃体制をネロが、ひひひ、説明しろ。ごめん、かっぱくん、お水持ってきて。笑いが止まらん。死ぬ。ミネラルウォーター一年分、この前あげた、ひひひ、だめだ〜。あとは任せる!」

 ぺこりは退場した。あとは、ネロが淡々と、十二神将(一人見習い)や将官などを各宇宙戦艦等に振り分け、軍議は終わった。

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