第29話 珠姫の帰還

 しばらくすると、舞踊が、牢獄に放り込んでいた宇宙連邦の太陽系鎮守府将軍、一文字蔵人を武装兵に抱えさせて戻って来た。

「むむ、一文字蔵人、一瞥振りだな」

 ぺこりの時代劇口調は治らない。

「ふん、ぺこりごときに不覚を喰らうとわな。俺も老いたぜ。早く首級を跳ねてくれ。縄目の屈辱は度し難い」

 一文字には恐れが無い。心の強い男だ。非情とも言える。

「おい、一文字。息子には会いたいか?」

 ぺこりが情けを掛けてやるが、一文字は、

「あれは、莫逆の友、萬願亭道楽にくれてやったもの。もはや、俺の息子ではない。故に会いたく無いわ」

 と、どこまでも無情であった。そこに舞踊が割って入って来て、

「ああ、そんなことはどうでもいいです。コンピューターの計算によるとあと三十分後に、この時間世界と珠姫のいた時間世界が最接近します。この一文字蔵人さんをあっちの世界の一文字蔵人さんということにして、あちらの世界へ送ってしまえば、あまり大きな時間変動は起きないでしょう。ぺこりさんの御家来衆は急いで、亡くなった一文字さんの衣装をここにいる一文字さんに着せてください。髷はどうしようもないからこのままでいいや。これで時間世界がちょっと変わっちゃうけど。仕方がない」

 そういうと舞踊はいまにも暴れ出しそうな一文字蔵人に催眠スプレーをかけて眠らせると着替えを命じさせた。

「おい、舞踊。気絶しているものに和装というか甲冑を着せるのはたいへんだぞ! 力がいる」

 ぺこりが嗜めると、

「木偶坊、チョイド、マイド参上!」

 と舞踊の造った、三体の超アンドロイドが現れ、倒れ込んだ一文字蔵人を持ち上げる。

「さあ、御女中方、着物を取り替えてください」

 舞踊が手を叩くと、女中頭の長与をはじめ、五人の優秀な女中がさっさと、一文字蔵人の宇宙服を脱がせて、死んじゃった方の一文字蔵人の和服を着せる。後の重い甲冑は舞踊の超アンドロイドたちが取り付ける。

「では姫さま、僕と一緒においでください。木偶坊は一文字さんをおぶって一緒においで」

「おいおいおい、ちょっと待って。おいらには話が全く見えて来ないぞ」

 ぺこりが口を挟んだ。

「ああ、ぺこりさんごめんなさい。時間がないので、手短に言いますね。いまから二十分後に、この部屋の下、四階にある海水プールが姫のいた世界の時間軸と最接近します。その時を見計らって、姫と、こちらの一文字蔵人をプールに突っ込めば、渦潮が巻いて、あちらの時間の重力の支配下に落ち、元の世界にも出ることができます」

「ふーん。なんで、この下の階に、海水プールがあるって知ってるんだ?」

 それには説明が必要だ。前作『悪の権化』中盤で、海洋保全のために爆弾テロをおこなっていた、ウミガメの通称『ぼく』とその仲間でイルカのチェキ。彼らは、ぺこり軍に破れ囚われたが、自然を愛する心は同じだとして、ぺこりは二匹を許し、特別メンバーとして海洋での異変などを調べる役目を与えた。ただ、通信手段がないので、ぺこりは新アジトを作る際に鶴見川の横に長い暗渠を造り、最終的に五重塔の四階にあつらえた海水プールに彼らが来ることで、情報の交換をしているのだ。『ぼく』はぺこり誕生の時、札幌円山動物園の手術室、ぺこりの母親が横たわっていたベッドの下にたくさんのエゾリスたちと隠れていたので、不動明王の不思議な光を浴びている。なので、人間の言葉が話せる。エゾリスたちも代々、ぺこりの部屋の天井に隠れ住んでいて、スパイ活動などしているのだが、それはいまのところ『悪の権化』でのエピソードなので、おヒマな方は、さらっとご覧ください。熱心に読むほどのものではありません。


 ああ、無駄話をしているうちに早くも一分前になっていた。ぺこりも重い腰をあげて舞踊、珠姫、一文字蔵人をおぶった木偶坊、チョイド、マイドにぺこりの護衛、土佐鋼太郎、目白弘樹が四階のプールに下りて、プールに渦潮が出てくるのを待っている。


 その時、珠姫が、

「皆様が、どういう方々なのかはよく存じませんが、いろいろとお手間をかけてくださりありがとうございます。ところで、あちらに還ったのち、この偽物の一文字蔵人はどのようにすれば良いのでしょう」

 と舞踊に尋ねた。

「ああ、そうか。忘れていました。では蛇腹さんにもらった『白痴になる薬』を射っておきましょう。そうすれば、あなたの世界で一文字は幼児のように楽しく暮らします。そしてそのうちにふらりと何処かへ行ってしまうでしょう。一文字に情けをかける必要はありませんよ。こいつは家族を捨てて、宇宙連邦の一員になり、地球人としての誇りを捨てたのですから」

「はい。ところであなたさまは、白智の城をご存知なんですか?」

「いいえ」

「そうですか……」

 珠姫が答える間に、舞踊は一文字に『白痴になる薬』を射った。

「時間だ。渦潮が来る」

 海水プールが流れるプールのようになり、次第に上下が逆さの竜巻のような強烈な渦巻きになった。

「では、まず拙僧が一文字めを放り投げます。それっ」

 一文字蔵人の身体が渦潮に消えていく。水に落ちた音は全くしなかった。

「では、姫さま。怖いでしょうが渦潮目掛けて……飛べませんよね」

「はい、とても怖いです」

「チョイド、マイド。姫を渦潮の中心までお連れしなさい」

「はい」「はーい」

 チョイドが珠姫の上半身を、マイドが足元を持って、飛び上がった。二体は渦潮の真ん中まで来た。


 さて、ここで作者は考える。ここで、チョイドかマイド。あるいは両方が渦潮に転落して、異世界行きという展開も十分あり得る。しかし、作者はメインがぺこりであるこの小説に少々飽きている。余計なエピソードを入れても、それを回収できる自信がない。なので、

「さようなら、お姫さまー」

 と笑ってみんなで見送り、

「いよいよ、次回からは宇宙連邦本体との大戦争だ。作者は宇宙連邦の者どもが、新型コロナウィルスに感染して全滅するという、ハーバート・ジョージ・ウェルズのようなことを考えているようだが、今時さあ地球侵略に来るような宇宙人が特殊な呼吸マスクみたいのをしないで、地球に下りると思う? それにさ、純沙はこっちが宇宙に出張って、アウェイの戦争をしたがっているみたいだからね。こっちが未知のウィルスにご注意だよ。西邑(にしむら)大臣と田邑(たむら)厚労大臣を拉致して連れてっちゃおうか?」

 ぺこりが長台詞で締めようとしている。

「お言葉ですが、ぺこりさん。大臣を連れて行っても、カナリアの役にしか立ちませんよ。それに僕はすこし疲れて来ました。ここらへんでお開きにしましょう」

「そだね〜」


 では次回から対宇宙連邦大戦争編になります。



 

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