第28話 並行世界

 珠姫の顔が水沢舞子と瓜二つだったため、思わず、「わあ!」と叫んでしまったぺこりだが、珠姫もぺこりの巨大さにびっくりして声を出したので、あまり羞恥心を感じずに済んだ。

「つまり、これはどうしたことだろう?」と心を落ち着かせて、背後にいる土佐鋼太郎と目白弘樹に言ったが、二人もよくわかっていないようで、首を横に振って微笑むだけだった。

「やはり、こういう複雑怪奇な問題は舞踊に聞くしかなかろう。誰ぞ、舞踊をこちらに」

 ぺこりは誰にともなく命令した。

 舞踊はすぐに現れ、珠姫を見つめた。そして、

「あなたはどこから参られた?」

 と珠姫に尋ねた。

「はい、篠原幕府、十四代・白義輝将軍の御世、帝の名は知れません」

「うん、それはそうです。帝にお名前はありませんから。篠原幕府というものも、この世界の歴史にはありませんからあなたはパラレルワールド、あなたに通じる言い方をすれば同じ時間帯を流れる別の歴史の世界、すなわち 並行世界からなんらかの原因でこの世界に来てしまったのでしょう」

 それを聞いて珠姫は、

「あいすみません。わたくしには全く理解ができません」

 と謝った。

「謝るには及びません。僕だってよくはわからないものです。ええと、あなたの他にこちらへ来た方はいますか?」

「はい、一文字蔵人という義輝将軍の側近が一緒に来ましたが、空からやってきた、もう一人の一文字蔵人と申す、彼と瓜二つな顔をした男に、光の剣で首級を跳ねられ死んでしまいました」

「うむ、それは厄介ですな」

 舞踊が珍しく悩んだ。

「どうした舞踊。あの一文字蔵人めが余計なことをしたのか?」

 そう、ぺこりが尋ねると、

「ええ、その通りです。この姫とともにこの世界に来た一文字蔵人が生きていれば、二人を元に戻す方策も割合と簡単に考えついたでしょう。しかし、一文字蔵人が死んでしまったとなると、この姫だけを送り返すことになり、時空に歪みを生じる可能性が大きいです。ちょっと困りました」

 宇宙一の頭脳が悩むのだから、ことはかなり難解なのだろう。そこで、ぺこりが珠姫に尋ねた。

「なあ姫よ、この世界に残ろうという気持ちはないか? おいらたちが悪いようにはしないが」

 それに対し、珠姫は、

「城に残した父上や家臣どもの行く末が、心配でなりません。できることなら元の場所へ戻りとうございます」

 と気丈に言いのけた。

「そうだろうな。おい舞踊よ、なんとかしてやれ」

 ぺこりが言う。

「はい、少しばかりお時間をいただきます。コンピューターを使いたいので、少々失礼します」

 舞踊は退出した。

「ところで、姫よ。この緑の珠はなんなのか?」

 ぺこりがいくつかの緑の珠を差し出して問う。

「よくはわかりませんがわたくしの身体より出で、四方に飛んで行ったものでございます。おそらくは十二個ございまして八個は北岳にいたもの、二個は義照と熊太郎が持ちて消えてしまい、あと二個はありかがわかりません」

 珠姫が答えた。

「そうか。残りのうち一つはチョイドという、そそっかしいやつが持っていた。最後の一つはなあ」

 ぺこりは珠姫を焦らせて、

「実はおいらが持っているのさ。ある日の朝、ダイエット、ああ減量のために体操をしていたら太陽の方角から飛んで来た」

 と白状した。

「まあ、意地悪な」

「すまんすまん。気を悪くしないでくれ。そして、おいらの持っている珠をあるものに調べさせた」

「その珠の正体はいかに?」

「うん、一つ一つは中性子と言う空の星の明るく輝いているものの死骸なのだが、全てが揃うとブラック・ホールという恐ろしい物質になる。なので、十二個の珠は別々の場所に保管せねばならぬ。だから、全員が北岳に集まらなかったのは僥倖と言えるだろう」

「どのように恐ろしいものなのですか?」

「あの十二個がひとつになると、そうだな賽子ほどの大きさに縮む。だが、その小さな賽子が目に見える範囲のもの全てを吸い取ってしまうんだ」

「見当もつきません」

「そうだろうな。おいらもわからん。ただ、おいらの配下、大軍師、諸葛純沙は過去にブラック・ホールに吸い込まれ、全く違う場所に吐き出されて、記憶を失ってしまった。まあ、ごく最近記憶は取り戻したが。でな、姫よ。あの十二個の珠をおいらに譲ってくれないか? この世界はいま、宇宙連邦というとてつもない敵に狙われているんだ。この世界が滅べば、姫のいた世界にも影響が出るだろう。すべての時間軸を平和にするため、おいらはこの珠を必要としている」

 ぺこりの言葉に珠姫は考え込んだ。だが、

「わたしの産んだ珠が、この世界やわたくしの世界を救うのならばお託しいたします。どうぞ、お使いください」

 と晴れやかに答えた。

「うむ、ありがたい」

 さっきからぺこりの口調が時代劇のようで笑える。

「あとは、舞踊に、元の世界へ戻れるようにして貰おう。しばし待たれよ」

 ぺこりはなぜか扇子を持っていて、それで膝を打った。

「これにて、一件落着!」

 いや、まだなにも解決していないよ!

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