第26話 ワンサイド・ウォーズ

 日本中にある『悪の権化』支部および華麗宗の全末寺に取り付けられていた、ステルスレーダーが一斉に発信された。これによって、宇宙連邦の索敵レーダーは『悪の権化』軍の宇宙戦艦を見つけることはできない。『悪の権化』の宇宙戦艦は横浜市の本部だけではなく、山梨県や長野県などの高地にもある。横浜の本部だけだと戦闘機でさえ発射に手間取るほど小さいので、信越地方の比較的高い山に宇宙戦艦は日頃格納されている。そちらには少数の戦闘員と、艦船の取り扱いに慣れている乗務員が多くいるので、安心だ。だから、本部から出撃する大型のものはロボット怪獣、カッパー・キング(自爆用)とカッパー・キングMarkII(旗艦)それに宇宙巡洋艦三隻程度である。


 その頃、北岳の頂上では太陽系鎮守府将軍、一文字蔵人が、床几に座って、珠姫に酌をさせて日本酒を飲んでいた。真冬ではあるが、バリアの中は暖かくて快適だが、一文字らに無視されている感じの八人の若者は、自分たちがなぜここに来たんだろう? とか、熊太郎と義照はなんで帰って来ないんだろうとか? あとの二人は本当に来るんだろうか? とこそこそ話しているところに、一文字から、

「酒が足りない。街に行って、日本酒を一樽、いや二樽買ってこい。貴様らそれくらいの能力は持っているだろう?」

 と凄まれて、

「あの、お金は?」

 と一人が恐る恐る尋ねると、

「はあ、宇宙から来たものが、現金など持っているわけないだろう。これを持って行け!」

 とカードを渡された。カードは真っ黒で裏も表もわからない。

「これ、使えるんですか?」

 さっきの若者が尋ねると、

「ふふふ、オダギリ・ジョーの店でも使える」

 一文字は笑った。八人も苦笑いした。

「さっさと行け!」

 一文字の警備兵がレーザーガンを撃ち放し、八人は飛ぶように消えていった。

「ふん。まあまあの身体能力だな」

 一文字はつぶやいた。


 一方『悪の権化』の大会議室。

「たまにはおいらも出陣するぞ」

 ぺこりが巨体を持ち上げた。すると、

「ぺこりさまがご出陣するほどの戦いではありません。これは、あくまで、宇宙連邦太陽系鎮守府との戦い。すなわち 、前哨戦にすぎません。本当の敵はこの何億倍もの力を持っています。ぺこりさまはそれに備えて、今まで敵対していた地球上の組織と和平を結ぶ仕事をしてください。宇宙連邦から地球を守るのです」

 純沙が言った。

「それから、舞踊さんと仲木戸さん。それに古代鈴虫さんは後方支援をお願いします」

 いつの間にか現れた、仲木戸の異母弟、古代まで仕事を与えられた。そこに、

《ガチャ、ガチャ》

 と鉄の擦れる音がする。

「な、なにやってんだかっぱ!」

 なんと甲冑姿のかっぱくんが現れた。でも足が短いので具足はつけていない。

「僕、カッパー・キングの最後を見届けてパラシュートで下りるよ」

 と言う。しかし、その姿を見て、ぺこりが激怒した。

「かっぱあ、お皿割るぞ! その甲冑は神奈川県の白岩知事にいただいた『伝・平光明の甲冑、昇竜漆黒縅』だぞ。平安初期の貴重な史料だ。早く脱げ。ついでに甲羅も脱がすぞ!」

 すごい怒りようだ。

「うわーん、ごめんなさい」

 かっぱくんは泣くが、ぺこりは構わず、

「アキレタス、このかっぱとパラシュートをぼろい方のカッパー・キングにぶちこんでこい!」

 と命令した。

「ヨロシイノデ?」

 アキレタスが尋ねると、

「ハリーアップ!」

 とぺこりは怒鳴った。しかし、アキレタスはギリシャ神話の末裔だから、英語で言っても意味はない。しかも、彼は日本語検定準1級を持っている。

「バカのおかげで、本部軍の出撃が遅れた。純沙、諸君。健闘を祈る」

 ぺこりはそう言うと会場から消え、戦闘員たちは持ち場へ走った。


「エッサホイサ、エッサホイサ。ああ着いた」

 八人の若者が日本酒を二樽担いで、北岳頂上に登ってきた。これはすごい身体能力ではないか? まだ、名前もつけてあげていなくて申し訳ない。ほら、あと二人……あっ、そうか! あと一人は考えてみればチョイドだった。残りはあと一人だ。どんな大物が来るのだろう?

「おお、『真澄』か。いい選択だ。ちゃんと、木槌と柄杓、枡は用意したろうな。忘れていたら、もう一回、街へ行くことになるぞ!」

 一文字が偉そうに言う。

「はあ、抜かりなく」

 一人が、マイバッグから一式取り出した。

「じゃあ、やろう。ところできみらはいくつだ?」

「じゅ……二十歳です!」

「うぬ、少々怪しいが、ここに警察は来ないだろう。遣い立てしたからな。君らも呑め」

「ありがとうございます」

「うぬ。姫も直枡で悪いが呑まれよ」

 珠姫は断るかと思いや、

「いただきます」

 と美味そうに呑み出した。考えれば、信濃の姫。長野県の酒は地元の産である。

 一文字も強いが、珠姫も強い。酒勝負になった。宇宙連邦軍は副将サーベルや警備兵も呑みだし、なぜか、「耳が猛烈に痒い」と言って全員インカムを外し出した。まさか『真澄』を売った酒屋の店主が、蛇腹蛇腹だったとは青年たちには見抜けまい。蛇腹は北岳の連中を殺すのでなく、空中の戦艦部隊との通信ができないように耳がものすごく痒くなる薬を仕込んだのだ。しかし、その中に、鎮守府将軍の一文字蔵人がいるとまでは気が付かなかった。


「将軍、将軍……」

 宇宙戦艦の旗艦、『サムライ』の通信室で参謀長のサジタリアスがいくらインカムで呼んでも、一文字からの返答はない。一文字は珠姫との酒勝負に敗れて、雪の上で熟睡していたのだ。

 その時、北岳上空には恐ろしい勢いで、かっぱくんの載せられた、ぼろい方のカッパー・キングが宇宙連邦軍の空母に迫っていた。低い位置にいた宇宙連邦の船団は雲に紛れたカッパー・キングに気がつかない。索敵レーダーにも映っていなかったからだ。なので、宇宙連邦の空母がカッパー・キングに気がついたのはもう目と鼻の先であった。

《ドッカーン!》

 空母はなすすべもなく沈没した。そして、他の宇宙戦艦も、その衝撃でバランスを崩し、地球の重力に負けて、みんな墜落してしまった。『悪の権化』としては予想外の勝利である。

「宇宙連邦ってこんなものなの?」

 純沙までが茫然とした。


 北岳にいたものたちは忍者衆に生け捕られ、この戦いで一番の功労者、かっぱくんにはミネラルウォーター一年分が与えられた。

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