第22話 二人の一文字蔵人

「ヒョイ、ヒョイ、ヒョーイ。はい、到着」

 陽気な性格にできているらしいチョイドはあっという間に北岳頂上にたどり着いた。狭い頂上には美しい姫さまと、おっかない武士。それに八人の若者がいた。

「お主、何者か?」

 一文字蔵人が問う。

「はーい、この緑の珠を捕らえて、ここに来るように命令された、チョイドって言いまーす」

「ふーん。性格の軽そうなやつだが、あっという間にここまで来たな。なかなかの能力の持ち主と見たが」

「どうかなあ? 自分のことを最強だと思ったら、その時点で成長が止まり、戦いに負けちゃうと先生が言っていたよ」

「ほう、いい心がけだ。で、その先生とは、誰のことだ?」

「水沢舞踊先生だよ」

「その先生はどんな武芸の達人だ?」

「えっ? 先生は生まれつき、首と左腕しか動かないから、武芸なんてできないよ」

「なんと、おいたわしい事だ」

「でも、先生はこの地球で、一番の天才的頭脳を持っているよ。二番は仲木戸先生かな? このお二人に僕は教育を受けたんだ!」

「水沢先生に、仲木戸先生……そのお二人を我らの味方にすることはできないか?」

 チョイドは笑い転げて、

「ムリですよ。舞踊先生はアンダルシアの無菌室から出られないし、仲木戸先生は『悪の権化』というテロリスト組織の科学技術庁長官で、首領のぺこりさまの多大な信頼を受けてるの。お金だって、いっぱいもらってるよ。お武家さま、お金を持ってる?」

 チョイドは親指と人差し指で円を作った。

「うぬ、いまは手元不如意だが、まもなく、足利義照というものと座間熊太郎というものが、大金持ちを味方に引き入れ、戻ってくるはずだ」

 一文字は答えた。

「ふーん……」

 しばらく考え事をしていたチョイドが突然喋り出した。

「お武家さま、僕の脳細胞の計算によると、その大金持ちと、御家来の二人はここには帰って来ませんよ」

「な、なんという……」

 一文字の顔が赤くなり、左腰の刀の鯉口を切った。

「やめなさい、一文字」

 珠姫が一文字を止める。

「はっ」

 一文字は刀を放した。珠姫がチョイドに問う。

「そちは、なぜあの者たちが戻ってこないと断言するのじゃ」

 チョイドが答える。

「二人が交渉に行ったのはおそらく、先ほど申し上げた『悪の権化』の首領、ぺこりさまとしか考えられません。あの方はテロ組織の首領でありながら、血を見るのが嫌いで、いつも平和を望んでいます。しかし、武力はこの世界でおそらく最強です。それに、優秀な家臣団、それも普通のテロ組織の首領ごときでは手に負えない、荒くれ者たちを配下に置いています。カリスマ性がものすごく高いのです。きっと、御家来衆もぺこりさまの魅力に惹かれて、こちらを裏切るでしょう」

「では、我らはどうすればいいのじゃ?」

「一刻も早く、ぺこりさまに降伏するべきです。いまならすんなり受け入れてくれるでしょう。しかし、ぺこりさまはせっかちなので、時を違えれば、皆殺しです」

「なんと……どうする、一文字?」

「降伏する必要はないでしょう。空をご覧ください。お味方が到着したようです」

 一文字が指差すと、天空から巨大なものが下りてきた。宇宙連邦の戦艦二隻と空母一隻である。

 旗艦と思われる一隻の底が開き、光のエレベーターが北岳の頂上に下りてくる。エレベーターは静かに頂上に到着し、ドアが開く。中から十人の警備兵と、主将、副将らしきものが出てきた。主将は、

「いまだにこんなところで、軍兵も揃えられず、地球人を抹殺していないのか! 愚か者め……うぬ、お主、何者だ?」

 主将は一文字を睨んで問うた。

「珠姫の家臣、一文字蔵人!」

 一文字は名乗りをあげた。その瞬間、警備兵が笑い出した。

「ふふふ……タイムパラドックスしているから仕方がないが、ワシもなあ、一文字蔵人という者よ」

 主将はそう言うが否や、腰のビームサーベルで、武士の方の一文字の首級を跳ねた。

「一文字!」

 珠姫が絶叫する。

「この世に、一文字蔵人は一人で十分。愚かな地球人ども、一ヶ所に集まっておれ。サーベル副将、戦艦から重臣たちを下ろすよう連絡を」

「はっ」

 サーベルが連絡をとっていると、宇宙連邦の一文字蔵人が床机に腰掛け、珠姫らを見た。そして、

「チョイド! なぜお前がここにいる?」

 と叫んだ。

「ふん、おいらは本当は地球人じゃないのさ。精巧に造られた『超アンドロイド』だよ。あんたたちの技術力でも作れないモノさ。僕は宇宙の果てから果てまで、一瞬で行けるのさ。じゃあ、ここにいてもつまらないんで失礼しますよ。本当は地球人の一文字蔵人さま。息子さんは息災ですよ。では!」

 チョイドは悪態をつくとジェットエンジンで飛び上がった。警護兵がビームライフルを撃つが当たらない。

「チッ」

 一文字蔵人は舌打ちをした。


「あっかんべー」

 と高速でチェイドが飛んでいると、

「きみ、チョイドだろ?」

 と言いながら、自分と似たような物体が近づいてきた。

「あんた、誰?」

 チョイドが聞くと、

「僕、マイド。きみの後継機さ。舞踊さまの命令で、きみを捕まえに来たの。はい、睡眠スプレー」

 マイドがチョイドにスプレーをかけると、チョイドは失速した。マイドはチョイドを抱えて、アンダルシア方面に飛んで行った。

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