第20話 遠い宇宙の片隅で……
人類は宇宙の広さがどれほどか、考えてはいけない。
人類は宇宙の果てのその先のことを考えてはいけない。
ただ星々の美しさを愛で、自由に星と星に線を引いて星座遊びをしていればいい……
そうしないと、気が狂うからだ!
とても電子望遠鏡でさえ観測できない宇宙の一隅に、人間一人がギリギリ収まるほどの大きさの宇宙カプセルが浮かんでいた。宇宙空間は真空なので風が吹くことはない。だからカルセルは静止している。これを動かすには、宇宙燃料を爆発させ、その推進力を持たせなければならない。
よく、SF映画で宇宙戦艦が轟音を立てて撃沈する場面があるが、あれはでたらめである。真空では音波は発せられない。宇宙はいつも静かなのである。
「さてと、そろそろいいかな?」
カプセルの中で声がした。この宇宙カプセルは唯一宇宙連邦に所属していた地球人が今回の『太陽系リゾート計画』の生贄として、辺境の地に追放されたものだ。あれから一ヶ月は経つ。与えられた食料と水は三日分。その後は死ぬまで飢えと渇きに苦しむ拷問だったはずだが……
「宇宙連邦ってのもさ、たいしたことないぜ。俺が地球人だって? 笑わせるぜ。確かに俺は地球生まれの地球育ちさ。でも、そこからが違うんだよな。俺は人間じゃないのさ。水沢舞踊先生と仲木戸先生が共同で作り上げた『超地球人っぽいアンドロイド』、略して『超ロイド』。だから名前はチョイドってんだ。かわいいでしょ? なんで俺が作られたかって? 決まってるじゃないか! 地球を宇宙連邦から守るためさ。えっ、こんな宇宙の片隅にいて間に合うのかって? あんた、ワープ走法を知らないのかい? 知ってるでしょ。はあ、物凄いエネルギーを消費しちゃうから途中で死んじゃうって? 心配ご無用。オイラの身体は無から有を作り出す、特殊な胃袋もどきがセットされてるの。舞踊先生の発明品だ。だからいつもお腹はこなれている状態。それに、無から作られているものがエネルギーだから、無駄な廃棄物がない。だから、お手洗いに行く必要もないんだ。『24時間テレビ』をコンプリートで観ることも可能なのさ。まあ、俺はあんな偽善番組は観ないけどね。ああ、いけない。時間に遅れる。僕は地球で緑色の珠を手に入れなくちゃいけないんだ。座標軸を合わせて、ヤー」
カプセルを残して、チョイドは消えた。ワープしたのであろう。
チョイドの共同開発者、水沢舞踊は、ぺこりのところにいる日本の大女優、水沢舞子の兄である。ただ、DNA検査などは一切行っていないので、本当の兄弟なのか、たまたま一緒にいた二人の幼児なのかはわからないし、知る必要もない。しかし、顔の美しさは全く瓜二つなので、性が違うのに一卵性双生児の可能性がある。
シベリアを抜け、大陸を南下していた狐狼将軍ネロがロシアと中国と北朝鮮の中間くらいでこの二人を見つけ、保護した。舞子はとても元気だったが、舞踊はなにか身体に支障があるようで、自由に動くことができなかった。この様子を見て、ネロは、
「男子の方は成長しないかもしれない」
と考え、捨てて行こうとしたが、女児の方があまりに男児に懐いていたため、日頃の冷酷さを捨てて、二人を左肩に抱え、大陸を駆け抜け、山賊、悪党ら、数多の邪魔者を左腕を使わず、右手の青竜刀のみで打ち破り、南方の海に出た。ネロの愛馬三千里は飛ぶことができる。そこで、一気に日本まで飛び、もうすぐ取り壊されるというニュースが飛び込んできた、横浜文化体育館に現れ、隊員募集の張り紙を見て、二人の幼児の面倒を見ることを条件にぺこりの『悪の権化』に入ったのだ。
その時、ぺこりは街中に出るのでウルトラアイで物干団に化けていた。
「ふーん。女の子はとても元気だが、男の子は糸が切れた人形のようだ」
物干に変身しているぺこりが言うと、
「この子を死なせたら、お前を殺す!」
とネロは憤怒した。
「殺しはしないよ。切れた糸を一本一本丁寧に元に戻していくんだ。でも、日本の医療技術ではムリだな。アンダルシアのおっさんに頼むか」
ぺこりは言うと、初代iPhoneでスペイン、アンダルシアにいる世界一の腕を持つと言われる、ジャック・ブラックに連絡をとった。ちなみに彼には医師免許はない。
「ネロさんよ。この子はオイラが信用するおっさんに任せるため、うちのチャーター機でアンダルシアに運ぶよ。あいつは暴利を貪っているから、機械が全て最新式なんだ。おいらも一兆円請求されたから9999億円にまけさせた。ははは。それでいいかい?」
「感謝します。ぺこりさま」
この時から、狐狼将軍ネロはぺこりの忠実な重臣になる。
前に書いたことを繰り返してしまった。作者は軽い認知症なのでお許しを。
その舞踊が『悪の権化』の科学技術長官、仲木戸と海底ケーブルで談話している。衛星通信の方が早いのだが、相手は宇宙連邦である。盗聴されたらたまったものではない。かつて、ぺこりと対決し、破れて、配下となったウミガメの『ぼく』と家来のイルカ、チェキたちが特別に作った海底ケーブルだ。宇宙連邦にもこれなら気がつかれない。
『仲木戸さん、お久しぶりです』
無菌室の中で、唯一動く顔と左手を使い、舞踊が呼びかける。
『こちらこそ、日々の雑務にまぎれて、舞踏さんとの連絡が滞り申し訳ございません』
仲木戸が、頭を下げた。
『まあ、それはそうとして、チョイドが動き出したようです』
『そうですか。では予定通り、緑の珠をキャッチできると!』
『そう、特殊相対性理論が正しければ、チョイドはギリギリで緑の珠を掴めるでしょう』
『アインシュタイン様様ですな』
『うん、でもぼくは思うんだ』
『なにを?』
『もし、チョイドが珠を獲らなかったら、誰が珠の真の持ち主なんだろうと』
『まさか?』
『どうしてもぼくは、ぺこりさんのような気がしてならない』
『もし、ぺこりさまに珠が届いたら、地球の生物は滅亡です。あの方、美女に弱いから』
『そう、だからチョイドに失敗は許されない』
『しかし、こればかりは誰にも相談できません』
『だよね。この星で、ぺこりさんを倒せる者はもういない。アメリアや、中華や、ロシナ連邦も、もうぺこりさんを倒せない』
『でも、ぺこりさまがいれば宇宙連邦も敵わないでしょう?』
『でも、ぺこりさまがいなくなったあとが、心配だよ。ぼくは後継者の打診を断った。あとは誰がいる?』
『熊太郎嫡子、足利義照どの、播磨宮さま、讃岐宮さま……』
『ふふふ、みな小者だね』
『では、舞踊さまが前言を翻して……』
『ムリだよ。無菌室から命令を出しても誰も言うことを聴くわけない』
『困りましたなあ……ああ、そろそろ、チェイドが成層圏に入ります』
『そうか……ちょっと疲れたから、眠るよ』
『では、失礼します』
ぺこり配下の超天才二人が電話をやめた頃、インドの山岳地帯に突っ込んだ、チェイドの右手に、緑色の珠がすっぽりと入った。
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