第19話 宇宙連邦の先遣隊

 太陽系の一番端というか終着地を思い浮かべていただきたい。

 えっ、思い浮かばない? 太陽から遠いのだから寒い! それだけでいい。


 天王星付近に百隻もの宇宙戦艦や宇宙空母が停泊している。宇宙連邦の太陽系鎮守府はこの星にある。鎮守府将軍の名は一文字蔵人……えっ、一文字蔵人は北岳で珠姫の家宰として床几に座っているし、確か宇宙連邦に唯一所属していた日本人パイロットは突然宇宙警察に拘束され、秘密裁判によって、その地位と名誉を剥奪された上に宇宙カプセルに押し込まれ、大宇宙の未開の辺境地に追放されたはずだ。カプセルに積み込まれた食料と水は共に三日分。その後は飢えや渇きに苦しんで死にでいくのだろう。ところで、今回の『太陽系リゾート地計画』という、宇宙貴族だか、宇宙ブルジョワジーのみを愉しませるためだけの大事業は新進気鋭の宇宙ホテル王、スター・フィールドという男が社運を賭けた一大プロジェクトとして発案し、クラウド・ファウンディングで資金を集め、宇宙連邦永世執政官カスパル・ウォータル元帥からも宇宙財務省および宇宙国土交通省より、多大な資金融資が約束され、当然カスパル・ウォータルへの巨額なキックバックも約束されている。なんか、どこかの国に似ているなあ。でも、それは仕方がない。この作品の作者が自分の祖国のことしか知らない引きこもりだから。


 いい迷惑なのは太陽系鎮守府である。まず、地球以外の惑星、準惑星、小惑星に、生命体が本当にいないか、綿密に調査し、仮に存在したら、DNAを採取した後に消滅させる。わざわざDNAを採取するのは、万が一、カスパル政権が崩壊し、次の永世執政官になった人物が「太陽系の生態系を元に戻せ!」というご無体な命令をした時の用心に、宇宙環境省が太陽系鎮守府に命令したからだ。鎮守府将軍の一文字は「人員不足のため、宇宙環境省か宇宙連邦国立生物大学から調査員を派遣してくれ」と頼んだが、宇宙環境省からは「現在、宇宙新型コロナウィルスの発生により、宇宙連邦大学は全てロックダウンされており、人員をさく

ことはできない」という答えが返ってきた。その一報を聞いた一文字将軍は「大学やってねえなら、暇人がいっぱいいるだろうに!」と激怒した。


 さて、ここで二人の一文字蔵人の秘密を明かそう。現在、天王星の太陽系鎮守府将軍を勤めている一文字蔵人は元日本人で、パイロットとしてのテクニックを買われ、宇宙連邦にスカウトされた。その時、実子を友人に預けている。その後、宇宙統一戦争において、抜群の統率力を見せたため、カスパル・ウォータル元帥に気に入られ、実子のいないカスパルの養子となった。つまり、いまは日本国籍を有さない、エイリアンなのである。一方、北岳で珠姫を守る、一文字蔵人はパラレルワールド、つまりこの時間軸とは違う世界の人物である。ではなぜ、この世界とは別世界の人間である珠姫と一文字蔵人が北岳頂上に存在するのか? それもまたカスパルのせいなのである。宇宙をほぼ統一した彼の野望は尽きることなく「次は時間の世界を制服する」と言い出し、時間連合に所属する、スウォッチ、セイコー、カシオ、オメガ……申し訳ない、世界の時計業界には詳しくないので、読者が好き好きに想像して欲しい……などを敵対的TOBで次々と株式買収をして自分の傘下に収めた。これによって、時間連合はあっさり崩壊した。唯一りんごという青森のシリコンバレーと呼ばれる、変なマニアに愛される企業体が『りんごの砂時計』という地方の土産菓子みたいな名前だが、妙に高性能な武器で、宇宙連合に対抗している。判官贔屓の日本人には特に人気がある。


 まあ、それは置いといて最初の実験として選ばれたワールドが珠姫のいた時間軸であった。珠姫の美しい姿をタブレットで見てしまったカルパスが、様々な手を使って、珠姫を自分のいるワールド、つまりこの世界に半ば拉致したのだ。一文字が付いてきちゃったのは、まだパラレルトリップ庁の担当者が、時間軸設定、ターゲット人物設定など、細かい機械操作に慣れていなかったからである。こんな、めちゃくちゃなことを書いたらSFフリークに叱責されそうだな。まあ、そういうことで納得して。


 生物保存など、余計なことをしなければ、すでに太陽系はリゾート地として賑々しくオープンし、宇宙貴族らは太陽の暖炉で暖まり、水星の流れるプールで泳いだり、金星のIRリゾートですっからかんになったりと……ああ、太陽系は全面禁煙になります。だけれど、大麻はOKなので、俳優の伊勢海老友介主演のバイオレンス映画を星空シアターで観られるはずだったのに、計画は滞り、スター・フィールドリゾート社は出資者から猛烈な突き上げを喰らっている。それはカスパル・ウォータルの懐具合にも悪影響を起こすので、先ほど、カスパル本人から一文字に、

『もう大雑把でいいから環境調査を至急終わらせろ!』

 という恫喝のLINEが来たので、一文字はとりあえず未読スルーしている。だが、いずれは既読にせねばならない。

「義父はさあ、地球にどれだけの生物がいるのかわかってないんだよな。いまの人員では調査、抹殺に一光年はかかる……ああそうか! どうせ義父は地球のことなどなにも知らないのだから、ゴキブリだけ調査して、あとは陸地と海だけの星にしてしまおう」

 一文字将軍はニヤリと笑った。それなら一週間もかかるまい。


 どうやら、彼は『ふるさと』という童謡を知らずに育ったらしい。

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