第18話 秘話

 ぺこりは自室に向かいつつ、舞子にイヤーフォーンで、

「おいらの部屋には義照だけを入れておけ。熊太郎は後ろの部屋に控えさせよ。時期が来れば呼び込む」

 と連絡した。

「義照さん、熊太郎さん。ぺこりさんが部屋に戻って来たそうよ。あちらに行きましょう。でも、まずは義照さんのお話が聞きたいそうだから、熊太郎さんは残りの焼き芋を食べながら、控えの間で待っていて、ですって」

「はい、承知しました」

 義照が頷くと、熊太郎が、

「おら、もう焼き芋は食べられないよ」

 と泣き言を放った。

「じゃあ、なになら食べられるの?」

 舞妓が尋ねると、

「シュークリーム」

 と熊太郎が突然、街のデザートを言ったので、舞子はキョトンとし、

「そんな都会のものを食べたことあるの?」

 と聞くと、

「ああ、最近は登山に甘いものが必要だって言って、お菓子を持ってくる登山客がいるんだけど、年寄りが多いから食べ切れないで、それを山に捨てていくんだ。年寄りのくせに、マナーがなってないだ。けど、そのおかげで、おらはシュークリームって美味いもんを知っただ。でも、他のくまには絶対にやらない。あいつらがあんな美味いものを知ったら、また食べたくなって街に出て行ってしまう」

 熊太郎は困ったような顔をした。舞子はそれを聞いて、

「熊太郎さんは山のくまたちのリーダーなの?」

 と質問する。熊太郎は、

「リーダーって言葉をおらは知らない。山の顔役をしていたんだ」

 と答えた。熊太郎は賢いのか、ぬけているのかよくわからないと舞子は感じた。まるで、ぺこりにそっくりだ。勘のいい舞子にはもう全てのことがだいたい読めていた。あとはぺこりが正直になれるかだ。


「義照くん、約束通りの帰参。おいらは嬉しいよ。疲れているだろうが、ここは北岳の真実を洗いざらい教えてくれたまえ」

 ぺこりが口を開いた。

「はい。事態は予想以上に逼迫しています」

「なんと!」

「北岳にいたのは珠姫という美しい女人と家宰と名乗りましたがかなりの剣客と思われる一文字蔵人という武人。この二人はどうも時空を超えて、本来の歴史とは違うパラレルワールドの過去から、この緑の珠を追いかけて、この世に来てしまった……いいや、間違えました。ある、巨大な勢力によってこの世界に送り込まれてしまったようです」

 義照はそう話しながら、緑色の珠をぺこりに見せる。

「その勢力とは?」

 珠を転がしながら、ぺこりが尋ねる。

「確か、宇宙連邦とか……」

「うぬ、それはかなりヤバイな。しかしさあ、こりゃあスーパーボールとは似ても似つかぬものだ。恐ろしいパワーを感じる。誰か、仲木戸を呼んでくれ」

 ぺこりが叫んだ。仲木戸が走ってやってきた。

「仲木戸科学技術庁長官、これは一体なんなんだ? スーパーボールって言ったら、ここから追放だよ」

 ぺこりは仲木戸を脅した。

「こ、これは、超新星のかけらに違いありません。強烈なエネルギーを発し、全てを消し去る力があります。もし、もっと大きい恒星のようなものであれば、ブラックホールに変化する可能性があります」

 仲木戸は明確に答えた。

「ふーん。しかし、そんなものがなぜ、この地球にあるんだ。それにどう操作すれば、爆撃機を墜落させられるんだ?」

 ぺこりが考え込む。

「ぺこりさま、その答えは控えの間にいる座間熊太郎どのという、くまと人間のハーフと名乗るものが知っております。ぜひ、こちらにお呼びください」

 義照が言上する。

「座間熊太郎ねえ……」

 ぺこりが躊躇する。いつも、イケイケのぺこりにしては珍しいことだ。すると、

「覚悟をお決めなさい!」

 舞子が大きい声をあげた。舞子でなかったら、ぺこりの逆鱗に触れ、一撃で殺されるところだ。

「そ、そうだな……熊太郎くん、こちらに来ておくれ」

 ぺこりが熊太郎を呼び寄せた。

「はあい」

 相変わらずとぼけた口調で熊太郎が入ってくる。口には生クリームがべっとり。そして、ぺこりの姿を見て、

「うわあ、オラより大きなくまの王様がいるだあ!」

 と叫んだ。

「おいらは王様じゃないよ。『悪の権化』首領、よろしくま・ぺこりというものだ。ぺこりと呼んでくれ。だからって、呼び捨てにしたら怒るよ」

「へへえー」

 熊太郎は生まれて初めて恐怖で平伏した。珠姫にも一文字蔵人に立って、会釈しかしなかったのにである。それだけ、ぺこりの恐ろしさを察しているのだ。

(熊太郎さんはバカじゃないわ)

 この様子を見て舞子は感じた。

「熊太郎くん、面をあげよ。おいらを恐れる必要はない。きみには聞きたいことがたくさんある。だがまず、きみにもおいらに伝えたいことがあるだろう。それを話しなさい」

 ぺこりは優しく熊太郎に言った。

「はあい。では申し上げるだ。おらはある日、緑の珠を拾っただ。そしたら珠姫さまの映像みたいなものに『北岳に来い』という伝言をいただいたので、暇だったから、北岳の頂上に行っただ。そしたら、そこには本物の珠姫さまがいらして、おらを重臣にしてくれると言うだ。おらは正直、他人さまの下に付くのはイヤだったけんど、珠姫さまがあんまりにも美しかったのでとりあえず、表向きは家臣になったフリをしただ」

 部屋の隅っこでやりとりを聞いていた舞子は心の中で笑ってしまった。

(美人好きのDNAが確実に繋がれてるわ。ふふふ)

 熊太郎の話は続く。

「珠姫は『この緑の珠を持つものが十二人いる。でも、まだここには八人しか来ていない。だから残りのものを待つ。必ず来る』と言っただ。その時は義照さんはまだ来ていなかっただ。だから、おらは珠姫に『十二人揃ったら何をするんだ?』とお尋ねしただ。そうしたら珠姫は『宇宙の平和のために、この地球にいる全ての人類を抹殺する。そのための武器が緑の珠だ』と答えただ。それを聞いて、おらは珠姫に見切りをつけただ。人の命を軽んじるものは地獄に落ちる。おらは地獄には行きたくない。だから、義照さんをここに送るついでに、北岳から逃げることにしただ。おらの話はこれでおしまい」

 熊太郎はぺこっと頭を下げた。

「うぬ。熊太郎くんよ、きみは偉い。そして賢い。さらに善良だ。さすが、遥とおいらの息子だ!」

 ぺこりはついに真実を言ってしまった。

「はあ? おいらの父上は北陸宮さまだがや……でも、ぺこりさまの方がどう見てもおらの父上っぽいなあ」

「だろ? 察しがいいぞ熊太郎くん、いや熊太郎。今日からお前はおいらの嫡男だ。でも、まだ後継者にはしないよ。この『悪の権化』という巨大な組織の指導者に熊太郎がふさわしいかどうか、まだわからないからな。義照くんが場合によっては後継者にふさわしいかもしれないし、かなりムカつくが、北陸宮の残りの子、播磨宮と讃岐宮とて、天賦の才あれば、惜しげもなく、この地位を譲る他ない。おいらはこの地位に執着などしていない。けれど内紛なんてことは絶対に許さない。おいらの目の色が黒いうちに決めるぞ! そうだ、熊太郎。遥を、お前の母をここに連れて来い。ずっと探していたんだ。ずっと心配していたんだ。申し訳ないとも思い続けている。遥においらから、きちんと謝罪がしたい」

「はあい。ではおらは木曽に行ってきます」

「木曽……あんな山国に隠れていたのか」

 ぺこりは遥の辛苦を思い、懐かしい遥の顔が早く見たいと思った。


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