第16話 巨大な影

「ふう、やっと頂上だ。流石に厳しかったなあ」

 足利義照はため息をついた。寒いのに防寒具の中が熱い。額の汗を拭たかったが、ここで指を滑らせたら元の木阿弥というか死んでしまう。覚悟を決めて一気に飛び乗ろう。

「エイッ!」

 義照は足元の脆さにも怯えることなく、頂上まで飛んだ。尋常でない跳躍力! さすがだ。


 頂上には十人の人間がいた。頂上はなぜか暖かい。バリアのようなものがあるのだろうと勝手に想像した。

「新しき、若者。よう来た。ワシは珠姫の家宰、一文字蔵人だ。よろしく。まずは姫様にご挨拶せよ」

「はい」

 この珠姫という人が、自分を呼び寄せたのか。義照は考える。

「近う、まいれ」

「はっ」

 義照はゆるりと近づく。

「我は珠姫。実を言えばこの時代のものではない。この一文字に居城を乗っ取られた時、処女にもかかわらず、懐妊した。そして、あの日にお前たちの手にある珠を十二産んだのだ。珠は夜空高く消えた。我は珠が有能な若者になって、城に戻ってくると思った。だが、帰ってこなかった。その時じゃ……」

 珠姫が何か語ろうとしたのを一文字が遮った。

「姫、まだこの者の姓名も聞いておりませんぞ」

「そうだったのう。そち、姓名はなんという?」

「はっ、足利義照と申す武芸者でございます」

「よしてる? そなた、篠原幕府十四代将軍、白義輝どのの生まれ変わりか?」

 珠姫が興奮して聞いてきた。

「いいえ、わたくしは代々足利の苗字を名乗っております。明治時代以前で言えば源氏の姓であります。我が祖先は確かに征夷大将軍として京都にて十五代に渡り、幕府を開いておりましたが、尾張の織田上総介に追放され、毛利家の計らいで鞆というところで一応幕府を名乗っておりましたが、歴史学上、この時点で、室町幕府は終わったことになります。ただ、最後の将軍、足利義昭は生きながらえ、帝から准三后の名誉をいただきました」

 義照の話を聞いて珠姫と一文字は首を捻った。

「やはり、あの方のおっしゃる通り、我らが生きていた時とこの時代は違うようですな」

「そうですね。なあ、義照。この時代は平和で幸せか?」

 珠姫が尋ねる。

「残念ながら、平和でも幸せでもありません。世界の強国は自国主義に走り、本当の戦争こそしていませんが経済戦争の真っ最中です。それに新型コロナウィルスという未知の病気が世界を覆い、多数の死者が出ています。人種差別も平然と横行し、アフリカ大陸、南米大陸などは貧困に苦しんでおります」

 義照は答えた。

「やはり、あの方のいう通りなのね?」

「でしたな」

 一文字が珠姫の問いに答える。

「あの方とは?」

 義輝が尋ねると、

「『十二の珠は、滅亡させるべき愚かな星に飛んだ。きみたちも珠を追って、そこへ行くのだ』と仰って、我らをここに連れてきたお方です。我らはその方の言いつけを守り、この世界を滅亡させねばなりません」

 珠姫が力強く言った。

「少々お待ちを。この世界とて、多くの人間は善良なものたちです。悪いのは権力者、反社会性力です。それを考えず全て皆殺しとはあまりに乱暴です。お考え直しを」

 義照が必死に止める。

「でもね、義照どの。あの方はこう言ったの。『もし、いま存在する悪党どもを全員消し去ったとしても、今度は善良だった人間の中から、新しい悪党が生まれる。この星の人間は欲望という悪を心に持っている。だから、皆殺しして構わない』とね」

 珠姫の言葉に、義照は怯んだ。

「この議論は一旦よしましょう。それより、その発言をした者はいったい誰ですか?」

 義照はひとまず、話の方向を変えた。

「そのお方は、宇宙連邦永世執政官カスパル・ウォータル元帥」

「?」

 義照には理解不能であった。だが、この作者の作品を結構読んでくださっている方ならお分かりのはずだ。宇宙連邦とは、この広い宇宙を支配している巨大な政治集団である。これまで、地球を含む太陽系は野蛮な国として無視されていたが、カスパル・ウォータル元帥、実は地球をはじめとする太陽系を一大リゾートにしようと考え、まずは余計な地球人の排除に乗り出したのだ。宇宙連邦には一人だけ地球人が在籍していたが、役職を全て解任され、宇宙カプセルで、遠くのの辺境地に飛ばされてしまった。全くもって非情な組織なのだ。


「姫、この地球を滅亡させるとしても、戦力があまりに足りません。わたくしにツテがございます。一度、下山して話をして来てよろしいですか?」

 義照が尋ねる。

「ほう、そなたにそんな後ろ盾がなあ。よろしい、下山を許す。ただし、一人ではダメよ。熊太郎! こちらに」

「はあい」

 突然巨大な生物が現れた。身長三メートル、体重二百キログラムはあるだろう。

「熊太郎、この義照どのについて、彼の後見人に会ってまいれ」

「はあい。でも、この姿で街にでたら、警察や猟友会の人が来て、夕方のニュースになっちゃうよ」

「ならば、飛べ。お主が鳥のように跳躍できることぐらい我は知っている。義照どのを背に乗せて、目的地に行くのよ」

「はあい。でも、飛ぶと疲れるんだよなあ。義照さん体重なんキログラム?」

「68キロです」

「まあ、行けそうだな。背中で、ナビゲートしてね。おら、方向音痴だから」

「お任せください」

「じゃあ、いっちょ行くか。グワーッ!」

 熊太郎は助走をつけて飛び出した。


 この熊太郎の正体など、小説を読み慣れた方ならすぐわかるよね。

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