第15話 ネロの決断

「では、まいろうか」

『悪の権化』総大将代理にして、ぺこり十二神将筆頭のネロが愛馬、三千里に騎乗し、号令を発した。

「おう!」

 と雄叫びをあげたのは、神将一の暴れ者、しかし一方で最も心優しき二重人格者、悪童天子である。彼も愛馬、大魔王に乗り込んだ。

 聖寅試金牙、猛禽飛王は自力飛行ができるので問題ない。では、三千里と大魔王は? 

 それが飛べるのである。しかも、甲冑を纏った大男、ネロと悪童を背中に乗せて。

 三千里はネロが中華大陸を彷徨っていたとき、強敵の山賊を打ち破って、奪い取ったものだ。気性が荒く、ネロ以外には乗りこなせない。

 大魔王は、悪童が北海道富良野で、酪農業をしていたころ、生まれた時から大切に心を込めて育てた名馬だ。こちらは普段、気性が大人しいが、主人たる悪童の危機に際しては、その名の通り、大魔王になる。

 この二頭がなぜ飛べるのかはよくわからないが、おそらく主人のパワーと自分の能力の相乗効果であると思われる。ちなみにぺこりの愛馬、青兎馬は超巨大なぺこりの重みに耐えられるくらいだから、体長も体重も普通の馬の五倍はある。こちらは実は空想上の生き物とされるペガサスの血を継いでおり、バカでかいぺこりが騎乗してもへっちゃらで、スイスイ空を飛べる。しかし、最近はぺこりが戦場に出る機会がほとんどなく、たまの出陣には、仲木戸科学技術庁長官が製造した、巨大戦闘ロボット、カッパーキングMarkIIに乗ってしまうので、厩舎で、さみしく飼い葉を食んでいる。


「うむ、雲が厚くなって来た。山も近い」

 ネロがイヤーフォーンで他の三名に伝える。高速で飛んでいるので、直接耳に入ってくるのは強風だけだ。

「ネロ、先に北岳頂上の敵を倒すのか?」

 悪童が聞く。

「いや、人命救助優先がぺこりさまの絶対方針だ。聖寅試金牙、猛禽飛王が、落下した場所を探すのだ。パイロットらには超電波発信器が付いているから、すぐ見つかるだろう。だが、この寒波。怪我などしていると生命の危機がある。両名よ、急ぎ捜索せよ」

「はっ!」

 聖寅試金牙と猛禽飛王が電波受信機を見ながら飛んで行った。


「ネロ、俺たちは?」

「北岳上空まで一気に飛び上がり、爆撃機が破壊された場所へ行ってみよう。もし攻撃されたとしても、俺たちが撃墜されることはないだろう。敵の戦闘能力を知り、できればこのミラクル・カメラで詳細データを撮って仲木戸さんのところへ持って行こう」

「了解!」

 ネロを乗せた三千里と悪童を乗せた大魔王が、一気に垂直方向に飛んでいく。雲が厚くて、視界はほとんどない。しかし、ネロの野性の勘が、爆撃機のやられた匂いを嗅ぎ取る。

「この辺りだ!」

 ネロが言うと、気まぐれな雪雲が割れて、北岳の頂上が見えた。

「うぬ、あれは娘か?」

「時代遅れの侍と、八人の若造がいるな」

「ああ、そして透明のバリアが張られている。こいつは、やつらを操る裏の何者かがいるな」

 ネロがそう言ったとき、若者たちが手に持っていた緑色の珠を一斉にネロたちに向けた。瞬間、グリーン・レーザーが八本、ネロと悪童を撃ち落とそうと飛んで来た。避けるのは簡単だが、ネロはあえて、右手の青竜刀でレーザーを撃ち切ってみた。すごい衝撃がする。まだ八本だからいいが、これが何百と来たら危険だ。

「ネロ、そりゃあ間違いだぞ。あの珠は十二個なんだから、最高で十二のレーザーしか来ない」

「うん、そうだな。ただ、量産機能を持ったやつがバックについていたら……」

「そりゃあ、ヤバイな。でも、この国にそんなフィクサーたる者がいるか?」

「わからぬ。未知の敵だろう」

 そのとき、猛禽飛王からネロのイヤーフォーンに連絡が入った。

『パイロット五名、救出しました。一人が右足を骨折していますが意識はあります。後の四人はかすり傷程度です』

「わかった。きみと試金牙はパイロットを運んでアジトへ戻ってくれ」

『了解』

「とりあえず、生存していて良かった」

 ネロが言った。その間もレーザーは飛んでくる。

「おい、悪童」

「なんだ?」

「お前はきっと不満がるだろうが、とりあえずパイロットは救出できた。それに、甲冑に取り付けたミラクル・カメラで、敵のデータもしっかり撮れた。ここはもう撤退しよう」

 ネロが提案した。

「なにい、撤退など俺にはない……と言いたいところだが、大将はネロだ。指示に従う」

「お前も大人になったな」

 ネロがからかうと、

「あんたは少し、年を取ったぜ。狐狼将軍の牙が折れたか?」

 悪童も嫌味を言った。

「まあな、一匹狼がボスの下にいたんではもう“一匹”じゃない」

「でも、オオカミってのは集団で獲物を狩るんだろ?」

「ああ、だが俺みたいな一匹狼も本当にいるんだ。さて、無駄口はやめて退却しよう」


 白と黒の流星のようなものが北岳上空から去っていった。


「あれは、なんぞえ?」

 北岳頂上の珠姫が一文字蔵人に尋ねた。

「い、いやあ。空飛ぶ馬など、それがし初見でございます。まさか、神仏の使いかも……」

「それより、残りの四名の若者はどうしたのだ?」

「連絡のつけようがないのでどうにも。おそらくは遠方の者かもしれません」


 そのとき、足利義照は北岳の麓まで来ていた。残りの三名については、なにもわからない。

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