第6話 誰もが秘密を持っている

 腹心のネロを待つ間、ぺこりは遠い昔の光景を思い出していた……


(ぺこり誕生の話は拙作『悪の権化 第5話 銀毛の謎』に書いてあります。繰り返すのも面倒なので、ご興味がございましたらご覧ください……とは言いましたが誰も読まんね。作者)


 さて、ハーバード大学大学院の経済博士課程を卒業したぺこりは主任教授の、

「准教授として大学に残ってほしい」

 と言う希望を袖にして日本に帰国した。

(もちろん、怪物の姿ではハーバード大学どころか、東北地方で猟友会の方々に射殺されてしまうので、不動明王の法力で、人間に変身している。その時の名は物干団〔ものほし・だん〕※このギャグがわかる人は御同輩)である。その変身方法として、不動明王は、ぺこりに『ウルトラ・アイ』と言う眼鏡状の物体を渡したが、大きさが人間用だったので、

「明王、両眼に届きません」

 とぺこりがクレームを入れた。

「ならば、お主の怪力で伸ばしたらいい。割ってはダメだぞ」

 と不動明王がおっしゃる。それに対して、ぺこりは、

「くまから人間になるならばそれでよいですが、人間からくまに戻るときは大きすぎて目も当てられません」

 とハキハキ言った。

「うぬぬ、賢いクマじゃ。ならば、二つに割って使え」

 不動明王が命じた。

「まるでXライダーみたいですね」

 ぺこりが知識をひけらかす。不動明王は思わず、

「お主は幾つだ?」

 と愚問をした。

「はい今日生まれたばかりです」

 ぺこりが答えると、

「お主、アカシックレコードか? 大日如来か?」

 不動明王は度肝を抜かれた。

「おいらは、そのようなお偉い様ではございません。明王さまの弟子を目指し、今日から学問に精進するつもりです」

 若き日のぺこりは謙虚だったようだ。


 時は流れ、日本に帰国したぺこりは不動明王に、

「これからは明王や童子さま方の援助を受けず、自力で生きていきたい」

 と願った。

「うぬ、いい心がけだ。お主の好きにするがよい。ただし正道を外れるな。その時は、ワシ自らが、この利剣で首級をはね、お主を無限地獄に送ってやろう」

 不動明王はきつく諭した。

「はい必ず、お言葉を守ります」

 ぺこりはそう言って放浪の旅に出た。


 人間を装うより、本来のくまの姿の方が楽だ。ぺこりは山奥の人目につかぬところを進んだ。しかし、近年の登山ブームで、とんでもないところにも登山客がいる。その時は『ウルトラ・アイ』をサッと装着し、登山客の真似をした。すると、ベテラン風の登山客のおっさんが、

「そんな軽装備で、こんな危険な山さ登るなんて、登山を舐めてるべ! 下山しろ! このバカチンがあ」

 と怒るので、ぺこりは少々腹が立ったが、自分が本気で怒ってしまうと、周りが血の海になってしまうので、グッと辛抱をして山を下りた。


 ぺこりはこの当時、足が早かったので、街に出てみると、そこはもう北関東のようだった。リュックには山で採った木の実がたっぷりあったので、食の心配はしていなかった。ああ、もちろん姿形は物干団である。

 ぺこりは首都、東京を観てみたいと思い、埼玉県をひとっ飛びして、渋谷のスクランブル交差点で人の多さに目を回し、ハチ公像の下に座って、木の実を食べた。予想より、木の実は減っていた。

 しかし、今度は「海が見てみたい」と神奈川県へ入ったが、海などどこにも見当たらない。しかも、木の実が尽きた。ぺこりはとてつもない大食漢だったのだ。

「うー、腹が……」

 空腹のあまり、僧侶のように托鉢をしようと思ったが、有髪だし、もちろん僧衣も道具もない。せめて、剃髪しようかと思ったが、くまに戻った時、とてつもなく恥ずかしい姿になるような気がしてやめた。

 しばらく、ボーッと歩いていると割合に大きな川を見つけた。『一級河川 鶴見川』とある。一級河川なら魚が獲れるだろう。もしかして、鮭もいるかな? とバカなことを考えて、『ウルトラ・アイ』を外し、川へ飛び込んだ。しかし、メダカの一匹もいない。さすがのぺこりもメダカが『レッドデータブック』に載っている絶滅危惧種とは知らなかった。


 一時間ほど魚を探したが徒労に終わり、さすがのぺこりもグロッキー状態になった。しばらく、寝転んで川を眺めていた。

 そこへ、上流から緑色の物体がどんぶらこどんぶらこと流れてきた。

「どでかい、キュウリか?」

 最後の力を振り絞って川に飛び込むぺこり。その、緑色の物体を捉え、食べようとしてやめた。その物体はリアル『かっぱの川流れ』で溺れかけていた、本物のかっぱだったのだ……


「ネロのやつ、遅いなあ。まあ、組織の全てを委託しているから仕方ないのだろう。おいらもちょっと疲れたから昼寝でもして待つか」

 そう言うと、ぺこりは大好きなお布団に寝転がった。

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