ぼくの夢と聞こえる声

 全てが始まったのは、いつからなのだろう。兄ちゃんが壊れた日……半年前なのか、父さんが家を出て行った日……三年前なのか、それとも、もっと……。

 兄ちゃんは、そんなに悪い人じゃなかった。少なくとも、ぼくから見たらいい兄ちゃんだった。五歳も離れた弟のぼくをよく可愛がってくれたし、小さい頃の思い出なんて、それこそ山のようにある。

 何が――何が、兄ちゃんを変えたの?

 母さんを倒れさせたのは、一体何?





「相当疲れたみたいね、ロイ」

「有り得ない。あいつは弱虫だが、こんなへたれじゃなかったはずだ」

「記憶を失って、頭が混乱しているせいかもしれないわ」

「そいつは、本当に『忘れてる』のか?」


 ロイ、ロイ、起きて。起きて、立ち上がって。そうして、魔王を倒してよ。人間を苦しめる、残虐な魔王を。あなたは、私が選んだ勇者でしょう?

 ――そんな声が、聞こえた気がする。なにやらかわいらしい、女の子みたいな声だ。


 もっとも、空耳かもしれない。だってぼくが目を開いた時には、そこに小さな女の子はいなかったのだから。

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