10.3

「……また、会えましたね」

「そう、ね」

 笑いかけると、彼女もほんの少しだけ笑顔を返してくれた。

「いやー、魔界で経験積んだから三下の不良くらい楽勝かと思ったんですけどね。みっともなくこの様ですよ」

「……一応聞く、わ。どうし、て?」

「……あんまり、嬉しくなかったんですよ。生き返ることも、顔を変えてもらえることも。だって、考えてみりゃあその先にある一番欲しかったものが、とっくに手に入ってたんだもの」

「……そう」

 彼女は嬉しそうに笑った。たぶんまんまと術中に嵌ってしまっているんだろうけれど、不思議と悔しさも後悔もなかった。

「それじゃあ、閻魔大王として……聞くわ。死んでしまった、あなたは……どこに行きたい? 天国か……地獄か……それとも……」

 それに俺は胸を張って答える。もう迷いはない。

「俺を、魔界に送ってください。まだやり残したことが、一番大事なものが残ってるんです。俺はそれを、諦めたくない」

「いいの……? 今度はもう戻れないわ、よ……? 魔界は、スリルと危険とデンジャラスな所……まだまだ、あなたが思っている以上に……」

「誰かさんのおかげで、痛みにはもう慣れっこなんですよ。望むところです」

「そっか……央真君、良い顔になったわね」

 それは俺にとって十分過ぎる称賛だった。だって、もう顔を変えてもらわなくたっていいってことなんだから。

 閻魔大王は俺に手をかざした。聞きなれない言葉の詠唱を聞きながら、俺は一つ彼女に質問をする。

「なぁ、閻魔大王。もしかして最初っから全部……?」

「……ふふ、さぁて……どうかしらね」

 彼女は茶目っ気たっぷりに笑った。やっぱり掴みどころのない人だ。それでもなんとなく信じられるのは、さすがゴールド免許のなせる業なのかもしれない。

「それじゃあね、央真君。君の頑張りと……門出に、私からの本当のオマケ……付けとくからね……」

 閃光の温かさが体を包んだ。

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