第二話 辺境に出会いを求めるのは、大いに間違っている?#0

 さて、これから探索者としての人生を始める諸君。面倒だろうがきちんとこの場所に集まった諸君。

 まずはおめでとう、と言っておこう。

 ん? なにがおめでたいのか、だ?


 クックックッ……おめでたいに決まっているだろう? この場所に来たことで、お前たちは『期待できる』探索者としてギルドに認められたからだ。

 探索者になるにあたり契約書にきちんと記された最初の仕事──今日このギルド大部屋に集合し、簡単な講習を受けること──を、達成したからだ。

 要するにお前らは、今後仕事に必要な書き物をおろそかにせず、最後までしっかり目を通すだけのアタマと注意力を持っていると証明したワケだ。

 最低限自分のサインする書類になにが書かれているのかはきちんと確認するべきだし、文盲だというのならば読んでくれるように頼めばいい。

 確認すらしないアホは問題外だが、できないことをできないと言えない者も探索者に向いているとは言えないからな。

 ここに集合したお前たちはこの後、正式に『木』級の探索者として認められる。こなかった奴らは──『木』級以下の探索者ってワケだ。

 表面上の扱いは同じ『木』だが、ギルド内部では扱いも厳密に区別されるからな。


 良かったな、お前たち。


 少なくともお前たちは、ギルドに貢献できる探索者として認められたワケだ。ここに来なかった半分以上の愚か者たちとは違ってな。



 さて、そんなことより講習だ。

 といっても大した内容じゃない。今更子供相手みたいに締め切りを守れ、規則を守れなどという常識を説明するつもりもない。

 探索者として絶対に知っておくべきことを教えるだけだ。


 まずは度量衡の単位、メートル法についてだ。

 都市部に住んでた者なら馴染みがあるだろうが、そうでない者だと初めて聞いたかもしれん。

 とにかく全てはコレで始まり、コレで終わると言ってもいいぐらい重要なシロモノだ。

 このメートルという単位は、『メートル原器』というアーティファクトの大きさによって定められている。

 こいつは凄いぞ。なんせ神サマが俺達人族を創造した際、直接与えてくださった恩寵の一つといわれる究極のアーティファクトだからな。

 コレに関してはお互い色々思う所があるだろう『王家』と『教会』が、損得抜きで共同の厳重管理をしているぐらいだ。空から槍でも降ってこないのが不思議でしょうがないぜ。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 重要なのは、これからお前達が使うことになる全ての度量衡は、このアーティファクトが基準となって定められたという事実だ。そのため、一切誤差や解釈違いは発生しない。絶対的に公正な単位だ。

 これはオーク族や魔族でも同じであり、この世界全てで共通単位として用いられている。魔物については知らんがな。

 しっかし、お互い崇めている神サマは違うはずなんだがな……まぁ、これが偶然なのか神さん達の間で協定でも結ばれていたのかは知らねぇが、便利なのは良いことだ。

 で、なぜこんな話をするかというとだな……探索者として活動する際に、最も重要なことだからだ。

 今までお前らがそれぞれ生まれ故郷で使っていたローカルな単位は忘れろ──少なくとも探索者である限りは。

 覚えるのが面倒? 今まで困ったことがない?

 は! メートル法が気に入らないなら好きにすればいいぜ。大抵の商人ならどんな単位を使っても一応取り引き自体はしてくれるだろう。商売だからな。

 まぁ、どれだけボラれるかはお楽しみってところだ。

 なんだ、不満そうだな。公平な取り引きは守られるべきだと?

 あのなぁ……異なる単位間での交換レートなんて規定も決まりも一切ねぇ。公平な取り引きを保証する法律も決まりも全てはメートル法を前提としている。

 つまり、それ以外は全て取引相手の胸一つってところさ。

 そもそも相手は善意で応じているだけだぞ。本来なら店から叩き出されても文句は言えねぇ。

 相手だって時間は無限じゃないんだ。一々余計な手間を掛けさせてくる相手に愛想よく振る舞う理由もないだろう?

 なお、ギルドはお前達に対してそんな面倒な手間をかけるつもりはないから、そこは覚悟しておくように。


 次に治安のお話だ。

 なんせ好き好んで探索者になろうなんていうお前たちのことだ。理由はともかくまともな仕事に就けなかったか、あるいは夢と浪漫と現実の区別が付かない愚か者のどちらかだが……。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。とにかく一般人に手を出すな。多少不条理な目にあったとしても飲み込め。

 そうしなければ衛士か警士に逮捕されるだけだ。

 仮にお前たちに非が無かったとして、それが通る可能性は殆どない。だから余計なトラブルを作るな、巻き込まれるな。

 あまりに酷い冤罪でも吹っ掛けられた場合はギルドが多少の介入を行うこともあるが、まぁ、期待するな。

 探索者の立場など犯罪者よりはマシという程度だということは常に頭に入れておけ……まぁ、数年で忘れてしまうだろうがな。

 ついでに探索者同士の諍いだが……勝手にしろ、好きにやれ。あくまでもギルドの目が無い範囲でだがな。

 もちろん建前としては禁止している。当たり前だろ。

 だがいくら止めたところでお前達が言うことを聞くワケねぇからな。無駄なことに労力は割けん。

 ただし、ギルドの目に入った時は――覚悟しておくんだな。

 俺は忠告した。後はお前らの勝手にするがいい。


 さて、俺から言えることはこれぐらいだ。

 ん? 少ない? 細かく言ったところでお前たちの頭じゃ理解できないだろ?

 こんなの体裁だよ、体裁。

 基本的に探索者は自助努力・自己責任だ。ギルドの仕事を受けるも良し、資源を集めて小銭を稼ぐも良しだ。

 ギルドとしては、回した仕事さえきちんこなしてくれるなら文句はない。

 もちろん飴も用意しているぞ。

 ランクを上げ、ギルドに対する貢献が高ければ色々と優遇したり融通を利かせてやるぞ。


 あぁ、そうだ。大事なことがあったな。集めた資源の持ち込みはギルドとしては大歓迎だ。きちんと鑑定し、相場価格で買い取ってやる。もちろん手数料はかかるがな。

 別に商人に直接持ち込むのは禁止していないが、ツテでも無い限りはやめておいた方がいい。

 実績も信用もない新米探索者が資源を持ち込んだところで、買い叩かれるのがオチだ。自前で鑑定できない以上は相手の言いなりになるしかないからな。


 これから何をするのもお前たちの自由だ。それが探索者ってモンだからな。

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