短い休暇

46.中立地帯にて

 中立地帯はメトロシティより北部に位置している。石造りの伝統的な建築物が特徴な一方で、最近はモダン建築も目立つようになった。街中には制服姿の銃士が歩いているが、彼らは他の都市でいう警察官の位置と同等である。住人たちと良好な関係を持つことで、街の治安が保たれているのはこの地帯ならではのものだ。


 山岳から流れてきた川の近くには幾つも公園があり、住人の憩いの場になっている。休日はたくさんの人が集まり、日光浴やアクティビティを楽しむ姿が見られる。旧市街の坂道を車で蛇行しながら登ったところには気象や天文などの研究所の他に、メトロシティに本拠地を構える事務局の支部がある。


 本館では、中立地帯周辺の違法オートマタの監視業務を担当しており、それより一回り小さい別館は今は関係者向けの宿泊施設として使われていた。中立地帯には元々オートマタはあまり出現しないが、事務局が中立地帯に進出するために施設を造ったのだ。



 伊野田たちは今、その別館にいた。鳥のさえずりで、毎朝彼はパチリと目を覚ますようになった。

 これはなにも、渓流から聞こえてくる自然のサウンドとかそういったナチュラルなものではない。単に、事務局のモーニングコールの動作音で鳥のさえずりを選んでいるだけである。もちろん他にもサウンドは選べるが、鳥の声で起きるなんて寝覚めは経験がなかったので彼はこの音を選んだ。


 そんな人工音で目覚めた後は自分がベッドのどこにいるのかを、ゆっくりと自覚する。ベッドの真ん中にいることはあまりなく、片足がずり落ちているのは良くあることで、体の半分がベットから落ちていたり、猫伸びポーズになったりしている。今朝は、ただうつ伏せになってたくらいだった。そのあとシャワーを浴びてから右腕に義手を付ける。ベルトを肩に回して固定し、電源を入れる。手を指を開いて動かし、じっくり感触を確かめてからストレッチをして体を起こす。


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