45.似た者同士

「きみたちって、そういうところが似てるよね」

「どんなところかしら?」機体が言葉を発したことを面白がるように、日向が斧を肩に乗せながら歩み寄る。右手で頬をさすっているのは、横面に浴びた一打のせいだろう。衝撃で、先程まとめた赤毛がほどけてしまった。


「そうやって、自損しながらでも突っ込んでくるところだよ。捨て身っていうの? 二人ともそういうとこあるよね」

「あら? 私もあの人もプロ意識が高いって言いたいのなら素直に受け止めておくわね。でも一緒にされるのは癪よねぇ」

「そのせいで、また腕が重症だ」

「そうね。でもそんなに切断したいなら、今手伝って差し上げますけど?」


 日向はそう告げて両手で斧を掴みなおした。そしてまるでゴルフのスイングをするように構えてから目を見開き、一息で振り上げて機体の首を跳ね飛ばした。胴体はその場に崩れ落ち、弾かれた頭部は倉庫内に音を立てながらぶつかり、転がった。転がった首の目はしっかりと日向を見つめて笑みを浮かべて何かを告げた後、停止した。


 それを待っていたかのように、倉庫街を囲んでいた警備がなだれ込んできたので、日向は大急ぎで窓の外から身を投げた。当然そこにも警備オートマタがいたのだが、彼女の突進のほうが幾分も強力で、瞬く間にその機能を一時停止させ運河に飛び込んだ。


 他の機体にも見られていたら捕まるかもしれない。冷たい水を浴びたことで急激に皮膚が痛み、痛みのせいで思考が冷静になると、考えることは”目にゴミがはいったら嫌だな”ということに自分でも驚き、黒い水の中を静かに潜水した。


 やがて酸素が足りなくなる頃に水面にあがる時間が迫っている意識が芽生えるが意を決して、彼女は恐る恐る水面から頭を出した。一瞬視界がまぶしく映ったのは、倉庫街を取り囲む強いライトのせいで、運河のまわりに警備はまだ侵入していなかった。そうして寒さに震えながら再度入水し、先程いた倉庫の反対側へ向かって体を泳がせた。


 徐々に口の中で血の味がした。自分の血だったらいいな、と思いながら、手が硬いものに触れたので、勢いよく水から這い出る。重い体をレンガの道に乗り上げ、口から水を吐き出しながら座り込む。鼓動が蘇った気がして日向は笑った。顔に張り付いた髪をゆるりと剥がしながら思わず口から不満を漏らす。


「ああ、もう。お化粧も髪もぐちゃぐちゃ。”どうしてくれる?”ですって? こっちのセリフよ」

 琴平に端末で連絡をするが、もう愚痴しか出てこない。

「なーにが、”今回は違法オートマタよりは人間を相手にすることが増えると予想される”ですってね。からっきしオートマタだったわよね」


 日向は重い足取りで暗い倉庫街を進んだ。端末が正常作動することに安堵し、琴平たちと黒澤の位置を確認するとひとまず胸をなでおろした。


 あとは回収した血液素材が無事にあいつに…、伊野田のもとに届けば自分の仕事は完了することになる。


 これでグランドイルでの借りを返せたとは思わないし自己満足であることはわかっている。しかし日向は数年間、胸の奥につかえていたもどかしさから少しだけ開放させるような気がして、ふっ…と息を漏らした。




後半戦へつづく


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