第55話『SEN 4・8』


ポナの季節・55

『SEN 4・8』    






「SEN 4・8」と書いて「セン フォー・エイト」と読む。「SEN」は、そのまま「エスイーエヌ」と読んでもいい。


 という安祐美の説明で、あっさり決まった。景気づけの質問が出た。

「4・8ってのはフォーティーエイトって読む人もいるんじゃない?」

「いいじゃん、覚えやすくて。多少パクリっぽいけど、ちゃんと意味があるんだから」

 安祐美が幽霊らしからぬ陽気さで答えた。


 なるほどなあ……。


 家に帰ってからも、安祐美のネーミングの感覚の良さに感心した。

 SENのSEは世田谷女学院の頭文字、Nは乃木坂学院で、構成メンバーの所属校を現している。これは直ぐに分かった。

 4・8が分からないので、安祐美が説明してくれた。

「それぞれの学校が4丁目と8丁目にあるからよ」

 と涼しい顔でいうので「あ、そうか」と納得した。


 お風呂に入っても、SEN4・8が頭から離れない。で、考えすぎてポナは気が付いた。


――4・8って……人数じゃないかな――


 メンバーは五人だけど、安祐美は実体化しているとは言え幽霊だ。がんばりすぎると実体化もしていられずに姿が現せなくなる。それから、想像するのも嫌だったけど、このSEN4・8が上手くいったら……。

 そこまで考えた時、大ネエの声がした。

――ねえ、浴槽の中に指輪落っことしたみたいなんだけど、ポナ、探してくれない?――

「うん……」

 入浴剤で浴槽の底が見えないので、ポナは手探りした。手応えがあったので、持ち上げた。意外に重いという感触はあったが、安祐美のこっとで頭がいっぱいだった。

――ごめん、洗面台にあった――

 大ネエの声。


 ゴボゴボゴボ……ズーーーー


 気が付くと浴槽のお湯が、ほとんど無くなっていた。

「あれ……?」

「あんた、なにやってんの?」

 大ネエに言われて気が付くと、指には浴槽のゴム栓のリングがハマっていた。


「ねえ、4・8の0・8は、安祐美、あんた自身のことじゃないの?」

 ララランチを食べながら、隣に座っている安祐美に聞いた。

「分かった……?」

 ラーメンを食べている安祐美の手が止まった。

「まさか、今のユニットが上手くいったら……」

「ハハ、考えすぎ。あたし幽霊だから、存在としては八掛けぐらいかなって、それで0・8よ」

 と、勢いよくラーメンをすすって、食器のトレーを返却口に持っていった。


 六時間目のチャイムが鳴って、直ぐにみなみが教室に入ってきた。

「なんで乃木坂が、こんな時間にここにいるのよ?」

「うち、三者懇談で昼から休み。それより、いいニュース!!」


 なんと、急にデビュー公演が決まったのである……。



ポナの周辺の人たち


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

佐伯美智  父の演劇部の部長

蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒

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