第33話『Person Of No Account ②』     


ポナの季節・33

『Person Of No Account ②』     



ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名




 ギギー……


 悪魔の歯ぎしりのような音をたてて旧講堂の裏口が開いた。


「すごい、ホントに開いた!」

 合鍵を持ち出した由紀がびっくりした。

「生徒会って、学校中の合鍵持ってるんだね……」

「昔のはね、新しくオートロックになったとこは、お手上げだけどね」


 生徒会は、学校に内緒で学校中の合鍵……正確には合鍵のスペアを持っている。何十年前の生徒会役員に鍵屋の娘がいて、そのときに作ったもので、顧問にも内緒で歴代の生徒会長と副会長にだけ伝えられてきたものだ。たいがいの校舎が建て変わったりオートロックになってしまったので、実質使えるのは、この旧講堂といくつかの倉庫だけになっていて、もう二十年以上使われたことがなかったが、半信半疑でトライしたら、本当に開いてしまった。


「ウ……かび臭い」

「……何年も開けてないんだね。窓開けようか?」

 奈菜がスカタンを言う。

「開けたら、秘密で入ってるの丸わかりじゃんよ!」


 裏口は、そのまま舞台のソデに繫てっている。目が慣れるとカーテンの隙間から差し込んでくる梅雨時の鈍い光でも様子が分かるようになってきた。ポナは持ってきた大型の懐中電灯で、あたりを照らしてみた。


 舞台の上は、何かの儀式のときのように、演壇や色あせた金屏風がそのままになっていた。客席はガランとした特大の洞穴のようで、LEDの懐中電灯でも全体を明るく照らすことはできない。LEDの明るさで、かえって光が届かないところの闇が際立った。


 三人の好奇心娘は、勇をフルって客席に降りてみた。


「やっぱりね……」

 LEDにてらされた舞台の上には『第九十九回入学式』と書かれた横断幕が、少し傾いてぶら下がっていた。

「九十九回ってことは……あたしたちの二十六年前か……」


 三人は、古参の技能員さんの話を思い出していた。


「九十九回目の入試でね、合格した後事故で亡くなった子がいるんだよ。よほど入学に未練があったんだろうね……入学式の後片付けをしようとすると、必ず怪我人が出るんだ。で……客席の、ちょうど新入生の席のところに新品の制服着たお下げの女の子が、瞬間見えるんだ。それで、建て替えも決まって、新しい講堂ができたし、ずっとそのまま……ちょうどバブルがはじけちまって、取り壊しは繰り延べ。やっとこの秋に取り壊しが決まったんだけどね、時々姿は見えないけど出るんだよ。体育や行事で人数数えると一人多いんだ……そうか、君らの授業でも出たんだね……」


「入学する前に死んだってことは……定員に入ってないのよね」

「式の直前だったんで補欠入学も間に合わなくって、その学年は、ずっと欠員一名のままだったんだって」

「その子は、ずっと数に入れてもらえなかったのね……」


 その時、客席の前の方に、新しい制服でお下げ髪の後姿が浮かび上がった……。


 で…………出たああああああああああ!!




ポナの周辺の人たち


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る