第25話『ポナの真実』

ポナの季節・25

『ポナの真実』            



 ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名



 チイネエの優里は、ポナをベンチに座らせ密着するようにして妹の横に座った。


「新子の実の母親は、十七歳で新子を生んだ……お父さんの教え子。でも生まれてきた新子を親も相手の男の子の親も認知しなかった。放っておけば乳児院行き、そして児童養護施設。見かねたお父さんとお母さんは、新子を自分たちの養女として引き取ったのよ」


 ポナは崩れそうな自分を、胸を抱きしめることで耐えた。チイネエはむやみに抱きしめるようなことをせずに密着させた体の体温で姉妹であることの絆を伝えた。


「大ニイは、いきなり歳の離れた妹ができて、どうしていいかわからずに、偶然見つけた捨て犬のポチを拾ってきたんだよ。ひょっとしたら双子の姉弟みたくなって、うまくいくんじゃないかって……あの朴念仁にしては上出来だった」

「もっと早く言ってくれればいいのに……」

「怖かったんだよ、うちの家族みんな。新子は明るい性格だけど、根っこのところで激しいものがあるのをみんな知ってたから……」

「あたしが激しい……?」

「今だって、あたしがいっしょに居なきゃ、どこに飛び出して、なにをしでかすか分かったもんじゃない……でしょ」


 そう、ポナが家を飛び出したことに目的なんかありはしない。突然の突風に吹き飛ばされた凧みたいなもんだ。切れた糸は辛うじてチイネエが握ってくれている。


「これ見てごらん……」


 意識したわけではないが、習慣でスマホを触っていたら、滋賀県の東近江市で七百キロもある大凧が落下して見物人に大怪我をさせた大阪版の記事がでていた。

「二百メートルも上がったんだ……」

「人も凧も同じかな……自分一人で飛んでるように見えてるけど、実は何十人何百人の人たちが懸命に糸を引っ張ってるんだよね……それでも凧は言うことをきかないこともある」

「凧のせいじゃない……」

「だよね。でも凧も人も落ちたら大変なことになる」

「しばらく一人にしてくれる……」

「だめ、風が出てきたから」


 前線が近づいてきたんだろう、雲の流れが速くなってきた。


「実はね、あたしも……お父さんお母さんの実の子じゃないんだ」

「……え?」


 ポナは公園に来て、初めてチイネエの顔を見た。


「だって、由紀はあたしだけ血縁が無いって言ったんだよ」

「あたしはね、お母さんの妹の子」

「え……!?」

「だって、変だと思うでしょ。あたしと新子は四つ違いだけど、大ネエとあたしは七つも離れてんだよ。大ネエが就職するときに取り寄せた戸籍謄本こっそり見て気づいた」

「知らなかった……」

「その時は、お母さんに、この公園で話してもらった……お母さんは伯母にあたるから、血縁関係はある。ほんとのお母さんは事故で死んじゃった。ま、それは長い話だから、またいずれ。ま、これで我が家が大家族な訳が分かったでしょ。人間は血じゃないよ。凧の紐のような絆だよ……ほら、紫陽花の色が変わりかけてる。ショックだろうけど、いつまでもビックリ色じゃ困るよ」

「うん……」


 ポナは、公園の紫陽花を見て、そう答えたが、それはチイネエの心映えに対しての答えであった。


 ポナの心は確実に、ポナ自身でも気づかないところで変わり始めていた。


 風に加えて、雲も波乱の兆しであった。



 ポナの周辺の人たち


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

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