アリアナ・グランデみたいなこと言うやん

「ていうかいいじゃん。付き合おうよ」

「ゴリ押し作戦に切り替えてきた」

「どっちでもいいんでしょ?」

「どっちでもいいって思ってたけど、やや嫌なほうに傾いてきたわ」

「おかしいな。色々とポイントを稼いだはずなのに」

「加点を上回る勢いで減点がえぐいねん」

「でも鈴谷もどっちかと言えば俺のこと好きでしょ?」

「厳密にどっちかと言えばな。51ポイントやけど」

「じゃあ付き合おうよ」

「1ポイントしかアドバンテージないのに、えらい強気やん」

「現時点での評価だけじゃなく将来性とか伸びしろも見るべきじゃないかなって」

「株式投資みたいなこと?」

「そう。今は51ポイントでも、将来80とか90に化けるかもしれないじゃん」

「化けても90止まりなのが控えめやな」

「いいじゃ~ん。付き合おうよ~」

「その駄々こねてどうにかしようみたいな態度がすごく嫌やな。うっかり付き合ったらめっちゃ苦労するやつやん」

「そんなことないよ。付き合ったらいいこといっぱいあるよ」

「たとえば?」

「毎日10円あげるから」

「お金で釣るのも引くけど10円ってショボすぎひん?」

「配布10円も10日間溜めれば一回自販機回せるし」

「ログインボーナスか」

「頼むわ、ほんと。俺、来月誕生日だし」

「関係ないし、そこそこ遠いな」

「逆に訊くけど、なにがそんなに嫌なの?」

「え? 別にそんなに嫌ちゃうよ」

「なら付き合ってもよくない?」

「だから、付き合わんでもええやん。なんでそんな付き合いたいん?」

「鈴谷が好きだから」

「好きやからって付き合わなあかんことないやろ」

「好きになったら相手のことが欲しくなるのは当然じゃん?」

「ほしいってなに? 仮に付き合ったとしても、わたしが七原のものになるわけちゃうで?」

「そこは比喩表現っていうか」

「なんの比喩表現なん?」

「え~、なにってこともないけど」

「スケベか?」

「え!? ちがうよ!」

「スケベしたいんか? そういうことか?」

「ちがうちがう! そんなことないって!!」

「スケベが目的ではないん?」

「ぜんぜん。考えたこともない!」

「じゃあ、ええよ」

「え?」

「スケベはナシなら付き合ってもええよ」

「マジで?」

「うん。そのかわり、絶対にスケベはなしな」

「絶対?」

「絶対」

「マジか~、絶対か~」

「スケベ目的ではないんやろ? なにを悩むことがあるん?」

「スケベ……目的ではないけれども……そういった発展性のすべてをも否定する立場ではないというか、今後の情勢も見極めたうえで広い視野に立って柔軟な対応を」

「国会答弁ばりに玉虫色の発言するやん」

「だって考えてみて。もし俺がNESMITHだったら、絶対に彼女とスケベするし」

「どんな仮定やねん」

「この世界で絶対と言いきれることなんて、人はいずれ死ぬとかくらいじゃん?」

「話のスケールを大きくして誤魔化そうとしてるな」

「絶対にスケベはナシかと訊かれると、そうは言い切れないというか、可能性は否定できないみたいな。ないことの証明は原理的に難しいから」

「宇宙人の存在可能性みたいな言いかたするやん。自分に嘘をつかないその姿勢は評価するわ」

「お買い得だと思うけど。俺みたいな男、そうそう見つからないって」

「ビヨンセの歌詞みたいなこと言うやん」

「ていうか、俺が鈴谷と付き合いたいっていうよりも。鈴谷が別のやつと付き合うかもしれないのが嫌なんだ」

「なるほど?」

「俺は鈴谷の彼氏じゃないし、鈴谷は俺の彼女じゃないけど、でも俺は鈴谷が他のやつと付き合ったら嫌なんだって」

「アリアナ・グランデみたいなこと言うやん。まあ、付き合わんけど。別の人とか」

「マジで?」

「だって七原がちょっと嫌なのもめんどくさいってだけで、七原以外の誰かやったら、もっとめんどくさいだけやし」

「鈴谷けっこう人見知りだしな」

「せやねん。別の誰かとイチからまた会話するとか、想像しただけでめんどう」

「じゃあ、俺と付き合ったらいいんじゃないの?」

「いや、付き合わんけど」

「なんで??」

「でも、もし仮に誰かと付き合うんやったら、七原かなぁっていう気はする」

「俺とは付き合わないけど、俺以外の誰かと付き合うことはないし、誰かと付き合う気になったら、その相手は俺っていうこと?」

「そういうことかな」

「それじゃあまあ、それでいいか」

「いいんだ?」

「将来の発展性などについては否定する立場ではないけれども、とりあえず今日のところは」

「あそう」

「じゃあ俺、バイトあるからそろそろ行くわ」

「おつかれ~」

「また明日な」

「うん、ばいば~い」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます