わたしの好きなとこ10個言ってみて

「どう? 付き合う気になってきた?」

「どこをどう解釈したらそうなるん?」

「悲観的になるのは良くない」

「その無駄なポジティブさは見習いたいから、1ポイントつけとくわ」

「やった。いま何ポイント?」

「38ポイント」

「遠いな~。ここらでガッと稼いでおかないと厳しいな」

「いけるつもりが揺るがないのすごいな」

「ポジティブだから」

「なんでそこまで付き合いたいん?」

「そりゃまあ、鈴谷のことが好きだから?」

「そんなに好きなん?」

「うーん。たぶん」

「急に弱気やん」

「いやだって、鈴谷のことは好きだけど、そんなに好きなのか? って訊かれると、なにをもって”そんなに”なのかよく分かんないし」

「わかる」

「わかるの?」

「わかるわかる。わたしも一般的にどれくらい好きやったら付き合うものなんか、よく分からんもん」

「ちなみに鈴谷は、俺のこと好き?」

「普通」

「普通か……」

「ポイントで言ったら51くらいかな」

「今度はなにポイント?」

「好きポイント?」

「付き合ってもいいポイントとNESMITHポイントと好きポイントがあるの? それぞれ何ポイントなの、今」

「38ポイントと5ポイントと51ポイント」

「ちゃんと把握してるのも逆に引くな」

「女子はポイントカードの類が好きやから」

「女子っていうかお母さんだろ。俺のマ……お母さんの財布の中もポイントカードで一杯だし」

「待って。今お母さんのことママって言いかけたやろ?」

「言ってないよ」

「そのタイミングでマが割り込んでくるのママ以外にあり得へんやん」

「俺のマイマザーって言いそうになったの」

「なにその頭痛が痛いみたいな。でも高校生になってもお母さんと仲良いのは逆に加点ポイントやで」

「それでこのあいだうちのママがさ」

「すごい勢いで掌返すやん」

「元バド部だから手首のスナップ強いの」

「伏線回収したやん。ていうか、なんの話してたっけ?」

「鈴谷が俺のことどれくらい好きかって話」

「普通」

「普通なぁ……」

「でも、ほとんどの人が嫌いやし、普通って思うことがあんまりないから、普通って思う時点で比較的好きなんかも」

「わかる」

「わかんの」

「わかるわかる。俺も嫌いじゃないことが珍しいから、嫌いじゃない時点でちょっと好きだもん」

「じゃあ七原はわたしを嫌いじゃないっていうのを、好きって表現してるってこと?」

「そういうわけじゃないよ。鈴谷のことは好きだと思う」

「たとえば?」

「え?」

「たとえばわたしのどこが好きなん?」

「え~?」

「わたしの好きなとこ10個言ってみて」

「むずかしくない? 好きに理由なんかないよ。大抵はなんとなくでしょ」

「一個言うごとに1ポイントね」

「ボーナスチャンスじゃん」

「でも、飽くまでそれが的を射てたらの話で、的外れなこと言ったら逆にマイナス1ポイントな」

「ハイリスクハイリターンだな」

「ほら、わたしの好きなとこ言ってみて」

「ちょっと待って。え~っと……やさしい……? いや、全然やさしくはないな。今のナシ」

「腹は立つけどやさしくはないと自分でも思うから許可するわ」

「ええ……? かわいい、とか? うん、顔はかわいいと思う」

「顔はってなに? かわいいのは顔だけなん?」

「いやまあ、性格はかわいい系ではないでしょ、絶対」

「自分でも納得してもうたから、まあええわ。他には?」

「え~?」

「顔がかわいい。はい、他には?」

「う~ん……」

「なに? 顔だけ? 七原が好きなのは顔だけなん?」

「いや、そんなことないよ。鈴谷にはいっぱいいいところあるよ。知ってる知ってる」

「だから、それを言ってみてって。10個」

「う~ん」

「まだ2個めやん。そんなに悩む?」

「いいところはいっぱいあるよ? 勉強ができるとか、真面目とか、掃除とかもサボらないし。でも、それは鈴谷のいいところであって、俺の好きなとこかって言われると悩む」

「どういうこと?」

「鈴谷が真面目に勉強してるのはいいことだけど、たぶん俺は鈴谷が不真面目でも好きだし、それで嫌いになったりはしないだろうと思うから、そうすると、鈴谷の好きなとこって別にない」

「……」

「俺が好きなのは鈴谷のぜんぶであって、鈴谷の部分部分ではないから」

「うまいこと言い逃れしただけって気もするけど」

「そんなことないよ? 俺が好きなとこじゃなくて、鈴谷のいいとこなら平気で言えるし」

「じゃあ、七原が好きなとこじゃなくていいから。わたしのいいとこ10個言ってみて」

「え~? 顔がかわいい」

「うん。顔がかわいい。それから?」

「え~っと……」

「やっぱ顔だけか!」

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