数値は別として、ベクトルは同じやろ

「どう? 付き合う気になった?」

「エアバドミントンでポイント稼げた前提なん?」

「意外とかっこよくない?」

「かっこよくはないけど、やってって言ったらやってくれるところは優しいなって思ったわ」

「いま何ポイント?」

「なにそのポイントって」

「自分で言ったんじゃん。ポイント稼げた前提なのって」

「あー、言ったわ。付き合ってもいいかもポイント、45ポイントやな」

「何ポイントでクリア?」

「100ポイントちゃう?」

「遠いな」

「でも、さっきも言ったけど、一番の理由は付き合うメリットがいまいち分からんってとこやねん」

「それは、付き合ってないと別の人と付き合っちゃうかもだから」

「いま買っとかんと別の人に買われてまうでって?」

「そうそう。後で買っとけばよかったーって後悔するよりは」

「でも他に付き合ってる人がいても、本当に両想いなら別れてから付き合えばええだけやし、取り返しがつかんってこともないやん? なおのこと付き合うとか意味なくない?」

「そんな簡単なもんでもないでしょ。ほいほい別れて次の人とか、普通はやらないじゃん」

「やってる子もいるやん。2組の星野さんとか」

「星野は別だろ。あいつ、そのせいでめっちゃ評判悪いし」

「評判は悪いけど、ちゃんと毎回彼氏はできてるやん。つまり、評判悪くてもデメリットないんちゃう?」

「星野てきにはそうなんだろうな」

「七原は、たとえば、星野さんから告白されたら付き合う?」

「いや、付き合わないけど」

「なんで? 星野さんかわいいやん」

「顔はな。でも評判悪いし」

「まあ星野さんも七原とは付き合わんけどな。面食いっぽいし」

「あのなぁ……まあいいけど。なんにせよ付き合わないよ。星野でもそれ以外でも。俺が好きなのは鈴谷だし」

「……」

「どうしたの?」

「今のはポイント高いな。1ポイントあげるわ」

「え? あそう。ありがとう。で、いま何ポイント?」

「46ポイント」

「先が長いな……」

「七原はわたし以外の子に告白されても付き合わへんの?」

「付き合わないよ。俺は鈴谷と付き合いたいの」

「じゃあ、やっぱこのままでよくない? 付き合うのは他の人にとられへんようにやろ? 七原はわたし以外の子に告白されても付き合う気がないんやから、わたしが七原と付き合ってなくてもなにも困らんやん」

「あ~。まあそういうことになりますね? いや、でも人の気持ちって変わるものだし」

「変わるん?」

「変わりませんよ!  俺の気持ちは変わりませんけれども! 仮にね! 仮にの話だよ。俺が別の誰かと付き合ったとして……」

「ごめん。全然イメージが浮かばんわ」

「そうだろうけど」

「わたし七原と部室でしか会わんから。七原が普段、誰と仲良いのか知らんし。もうちょっと具体的じゃないとイメージしにくいかも」

「具体的って?」

「たとえば、七原は誰と付き合うの?」

「誰ってこともないけど、誰かと」

「だから、抽象的な誰かじゃイメージできへんから、たとえば誰なん?」

「え~、別に誰でもいいけど、たとえば、二宮さんとか?」

「二宮さんって、演劇部の? と、七原が付き合うの?」

「いや、付き合わないけど! たとえば! たとえばの話でしょ!」

「いや~、たとえばにしても無謀すぎやろ? 付き合わんやろ、二宮さん。七原と」

「付き合わないだろうけど! たとえばって訊かれたから!」

「二宮さん系がええんや、七原は」

「そんなことないよ? ほんと、たとえばって訊かれたから適当に言っただけで」

「でもそこに潜在意識てきな好みがまったく反映されてないなんてことはないやろ。清楚系っていうか、深窓の令嬢系?」

「いやまあ、見てるぶんにはね。清楚系のほうが、いいな~とは思うけど。でもそれは好きっていうのとは別で、二宮さんはもう、芸能人とかを見るのと同じ感覚じゃん」

「見てるぶんには二宮さん系がええんや?」

「う……ん。そうですね。はい」

「まあ、わたしも二宮さん系やしな」

「え? 鈴谷が? 二宮さん系?」

「数値は別として、ベクトルは同じやろ。勉強できるし、色白で黒髪ストレートやし」

「いや~、ないない。鈴谷はまったく二宮さん系ではない」

「そりゃ二宮さんのほうがもっと勉強もできるし、もっとかわいいしもっとピアノも上手いけど。系統としては同じ直線上にあるやん」

「ないないない。ていうか鈴谷ってピアノやってたの?」

「中学三年生まで習ってたで」

「へー、知らなかった。それちょっとポイント高いね」

「なにポイント? 二宮さんっぽいポイント?」

「違う違う。えっと、俺の好きポイントみたいなやつ」

「いま何ポイントなん?」

「うーん、100ポイントだったのが101ポイントになった感じ」

「何ポイントで何と交換できるん?」

「そういうシステムなの?」

「ていうか、人をポイント制で評価しようっていうのがそもそも失礼な話やな」

「お前が言うなよ。まあいいか。ちょっとやってみてよ、それ」

「それって?」

「ピアノ」

「え? でもピアノないで」

「そのへんはほら、エアで」

「エアピアノ? まあええけど。じゃあちょっと静かにしててや」

「……」

「はい。どうやった?」

「ピアノはエアでも普通にかっこいいなって思いました」

「せやろな」

「ちなみに今のはなんて曲だったの?」

「別れの曲」

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