第5話「武器屋に行こう!!」
「ひえーん!!」
「よし、よくもったセツナ!!」
正直このセツナをエネミー、飛竜ワイバーンの攻撃からのオトリにするのは俺の良心が痛んだが、そうでもしないと空を飛ぶワイバーンは俺の駆るロボットの剣が掛からない。
「これでとどめ!!」
――ワイバーンの鱗<普通>×2――
――ワイバーンの頭<低質>×1――
――――――
「怖かったでござる、怖かったでござる~!!」
「あーよしよし」
ただ、大迫力の戦闘がメインのこのゲームではセツナの、彼女のこのビビり癖は大きなハンデとなる。いくら俺がこれは単なるゲームのグラフィックだよと諭しても、彼女は聞く耳を持たない。
「ただ、具体的に何が怖いの、セツナ?」
「あの大きな身体に雄叫び、それを身近で聞くだけで拙者は、もう……!!」
「うーん」
だとしたら、彼女は遠距離戦の方が向いているかもしれない。確証はないが。
「よし、セツナ!!」
「はえ?」
「今から、王国に飛び道具を買いに行こう!!」
「と、飛び道具でござるか?」
「それなら、お前も戦えるかもしれん」
「……」
「ん、どうしたセツナ?」
「拙者は、侍にして……」
「え?」
「飛び道具なんて、卑怯な武器は……」
「……はあ」
返事を聞くにこの彼女、セツナはビビりにして意外とこだわり派のプレイヤーなのかもしれない。いくらゲームにマッチしていなくてもだ。
「……まあ、ともかく街に出よう」
「それは構わないでござるよ、ゲイル殿」
「うん」
いつもながらの草原四畳半、そこに吹き付ける風は優しく、彼女がゲームオプションで購入した羽織っている陣羽織が、涼しげに靡いた。
――――――
「ここが機械の館でござるか?」
「ああ、そういう設定だ」
と、言っても俺もこの王国随一の施設「機械の館」に足を踏み入れた事は数える位しかない。あちこちが歯車で覆われたその館は、あまりの巨大さからよく「データが落ちる」との評判てある。
「このワイバーンの頭、質が悪いがレアドロップだしな」
本来ならドロップ品というのは、FEの改造などに使用する為の物であるが、店に売ってもそれなりの価格で売れるのだ。
「これで、セツナのハンターフォックスを強化しようぜ」
「か、かたじけないでござる、ゲイル殿」
場合によってはその金で領地を買う方が良いという人間もいる。だが別に俺はそこまで熱心なプレイヤーではない。好きな時に好きなだけ金を使えばいいと考えている。
「えーと」
機械の館の中にはその名の通り様々な機械、その間を縫うように幾つかのFEが鎮座されており、その巨大兵器の足元に、慌ただしく動いているNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)の姿が見えた。
「よっ!!」
「久しぶり、ゲイル!!」
俺はそのNPCと交渉をしている顔馴染みのプレイヤーと出会い軽く挨拶を交わした後に、目当てのFE技師の元へ行く。
「よおゲイル、何か用か?」
「FE用の武器はないか?」
「武器か、少し待ってな……」
そのNPC、巷の噂でこのゲーム運営のスタッフが「プレイ」していると噂の男の元へ行き、そのツナギ姿の男が差し出してきたクリップボードを俺はそっと受け取った。
「セツナ、見えるか?」
「うむ」
「あのワイバーンの頭が銀貨1000で売れるから、その範囲内で選んでくれ」
「しょ、承知したでござる」
パ、ラァ……
――FEロングソード<普通>:300――
――FEハンドアクス<普通>:200――
――FEメイス<低質>:150――
――FEカタナ<普通>:1500――
――FEシュリケン<普通>:500――
――FEクロスボウ<低質>:500――
――FEライフル<低質>:500――
――FEライトマシンガン<低質>:1500――
「カタナが欲しいでござる」
「買えんだろう!?」
「むう」
何か当たり前のようにそう溢すセツナであったが、俺は間髪いれずにそうツッコミをいれ、自分の指をそのままシュリケンやらクロスボウやらの辺りへと滑らす。
「やはり、飛び道具でござるか……」
「あとはハンドアクスとかも投げられるみたいだな」
「むう、何が良いであろう……」
とはいいつつも、そのセツナの目はカタナの下のシュリケンにと向けられている様子だ。
「ゲイル殿、この販売価格は一つあたりでござろうか?」
「いや、一旦買えば弾数は気にしないで使えるシステムだったはずだ」
「うーむ、だとすると」
「もう決まっているのだろう?」
「……まあ」
そのままセツナはその顔を輝かせつつ、NPCのオッサンにおずおずと話し掛け。
「カタナを所望致す!!」
「違うだろ!?」
「むう」
まったくもう、俺は胸の内でブツブツ言いながらも、リストの下辺りにある飛び道具「シュリケン」をセツナの為に買ってやろうとする。
「あ、ゲイル殿拙者のハンターフォックスに、装備が」
スゥ……
俺の「領地」からまずはワイバーンよ頭を売り、そしてシュリケン代の資金を減らした結果、セツナの予備武装に「FEシュリケン」が入ったらしい。
「セツナ、お前飛び道具の技能ってあったっけ?」
「飛び道具、技能?」
「知らないか?」
「面目ない、ステータスをあまり詳しく見ないもので」
「わかった、わかった……」
このゲームには武器ごとに種別分けされている「技能」があり、たとえば俺の「剣」技能は最低位のランクEであるために、追加の特殊技能「強打」が備わっている。
「ちょっと失礼」
「プライバシーの覗き見でござるか?」
「違う!!」
俺が少し拝見したセツナのパラメータによれば、彼女は「剣」技能こそあるがやはりシュリケンを扱う為に必要な「投擲」はない。ただ。
「お前には真空切りのスキルがあるな」
「真空切り、でござるか?」
「ああ、恐らくは侍の専用スキルだろう」
もしかするとシュリケンにもその「真空切り」が応用出来るかもしれない。そう俺はセツナに伝えた時、彼女セツナは少し嬉しそうな顔をした。
「実際に使えるかどうか、まだ解らんぜ?」
「でも、もしかしたらゲイル殿のお役に立てるかもしれませぬ」
「そ、そう?」
「何とか、拙者はゲイル殿に受けた恩を返したいでござるよ」
「ま、まああまり気にするなって……」
そのセツナの殊勝な言葉に気恥ずかしくなってしまった俺は、そのまま機械の館から出ようとセツナに提案する。少し外の空気を吸いたくなったのだ。
「ゲイル殿、この王国には他に店はないのでござるか?」
「んー、生身の武器を買える店とか、レストランとか」
「レストランでござるか?」
レストランという単語を聞いたセツナは、何か嬉しそうにその顔を綻ばせてしまう。俺はそんなセツナをガッカリさせてしまう事を言うのは気が引けたのだが。
「けど、良い食べ物は残りの金では食べる事が出来ない。高いんだ」
「おむすびでも売ってないでござるか?」
「そういうのは王国ギルド本部に売っているぞ?」
「ならば、そっちに行こうでござる」
「おむすび、食べたいのか?」
「別におむすびが食べたいのではないのでござる」
そう言いながら、陣羽織の娘はややはにかんだような表情を浮かべている。そのしばらくした後に。
「ゲイル殿と一緒に食べたいのでござる」
と、言われた時には俺はどういう顔をしていいか解らなくなったとさ。
■ゲイルの領地
――広さ、畳四畳半――
――収入、銀貨600枚――
――兵力、フレーム・エレメント2機――
――住人、2人――
ロボットと共に始める四畳半からのオープンワールド 早起き三文 @hayaoki_sanmon
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