第44話 待ち人来ず

 私とレティは、授業を終えて、家庭科室に来ていた。

 今日も部活に来たのである。


「来ないね……」

「来ませんね……」


 しばらく家庭科室で過ごして、私とレティはそのように言葉を交わしていた。

 プリネさんが、ここに来ないのだ。


「おかしいなあ……ルリアは、何か聞いてないの?」

「あ、うん……」

「そっか……」


 トルカやティアナさんも、そのことを気にしていた。

 昨日プリネさんは、また来たいと言っていたはずだ。それなのに来ないのは、少し心配になる。

 もしかして、私が友達になろうなどと言ったから、嫌になってしまったのだろうか。そうだとしたら、色々な人にとても申し訳ない。


「でも、用事ができただけかもしれないよね?」

「ええ、そうね。プリネさんにも、プリネさんの事情があるもの」


 そこで、トルカとティアナさんがそう言った。

 確かに、その可能性はあるだろう。用事ができたりして、ここに来られなくなっただけかもしれない。


「あれが、リップサービスだったかもしれないし……」

「その可能性もあるわね。そもそも、まだ部員になってくれたという訳でもないし、気にしすぎても駄目よね」

「うん。まあ、今日は普通に部活ということにしよう」


 そもそも、プリネさんは家庭科部に入った訳ではないのである。

 そのため、あまり気にするのも駄目なのだ。


「はあ……」

「お姉様、落ち込むことはありませんよ?」

「あ、うん。ごめん、ありがとう……」


 私のため息に、レティが反応した。

 レティは、私のことを心配してくれているようだ。また、レティに心配をさせてしまった。

 もっと、私も気を強く持たなければならないだろう。


「まあ、明日は来るかもしれませんし、昨日考えていたことはその時役に立ちますよ」

「あ、うん。そうだよね……」


 確かにレティの言う通り、今まで考えていたことは、次にプリネさんが来た時、役に立つだろう。

 だが、そのことで、私は少しだけ悲しくなる。


「……教室で話しかけられないのは、少し残念だね」

「それは……仕方ないでしょう。私達が、彼女に話しかけたら、大問題になりますから……」


 私やレティは、教室でプリネさんに話しかけることができない。

 彼女にも迷惑がかかるため、それは無理なのだ。

 そのことが、少し悲しかった。同じクラスなのに、教室で話しかけることもできないなど、普通はおかしいだろう。


「二人にも、そういう悩みがあるのね……」

「ティアナさん?」

「私とティアナも、そういうことには色々と悩んだんだよ」


 そこで、トルカとティアナさんがそう言ってきた。

 そういえば、二人も貴族と平民の友達である。


「二人は、教室ではどうしているのですか?」

「そうね……基本的には、敬語で話しているわ」

「まあ、私が下で、ティアナが上という関係は示しているよ。ティアナが、私のことを気に入っているんだと、周囲の人に思ってもらわないといけないからね」

「あまりいい気分ではないけど、周りの目があると、そうせざるを得ないのよね……」

「そうなのですね……」


 どうやら、二人は教室ではこことは違う関係らしい。

 それも、周りの目がある以上、仕方がないことなのだ。

 もし、トルカがティアナさんと対等に話したら、周りに色々と気にされてしまうのである。


「まあ、でも、ここでは普通に話せるから、別にいいけどね」

「そう? 私は、少し悲しかったりするのだけれど……」

「なんというか……そういう遊びだと思えばいいんじゃない? おままごととか、昔したことない? あれのすごいものだと思えば、よくないかな?」

「……おままごと?」

「知らないんだね。まあ、貴族だし、そんなものか」


 トルカは特に気にしていないらしいが、ティアナさんは気にしているようだ。

 基本的に、トルカは細かいことを気にしない。その性格が、この問題についてはいい方向に働いているのだろう。


「まあ、ルリアも色々と大変だと思うけど、頑張ってね」

「うん。頑張ってみる」


 トルカの言葉に、私はゆっくりと頷く。

 とりあえず、今日は普通に部活だ。

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