第42話 方法は一つ
私は学校から帰ってきてから、お兄様にある相談をしていた。
それは、家庭科部に見学に来たプリネさんと関わりについてのことだ。
「お前の質問の答えだが、それは俺も難しいことと言わざるを得ない」
「え?」
私のどうしたら友達になれるのかという質問に、お兄様はそう返してきた。
どうやら、お兄様でもこの問題は難しいようだ。
「まず前提として、俺は身分の差による考え方の違いはある程度仕方のないものだと認識している」
「身分の差ですか……?」
「ああ、この国では大きくわけて、貴族と平民という身分が存在する。貴族が上で、平民が下。それが、この国での決まりだ」
「はい……」
お兄様の言うことは、なんとなく理解できた。
まず、平民のプリネさんにとって、貴族の私は明確に上に位置する存在と認識されている。
それによって、意識に差が生じるのは仕方ないこと。私がプリネさんと友達になりたいと思っても、向こうはそう思えない。お兄様は、そう言っているのだ。
「故に、お前が友達になりたいと思った女生徒の態度は、当然のものだといえる。上に立つ者を敬い、対等な関係を拒否する。貴族としては、むしろ好ましい類の平民だ」
「はい……」
「貴族は貴族、平民は平民。それを線引きするのが、この国での正しい在り方だ。故に、平民と友達になりたいというお前は、貴族としては間違っているということになるだろう」
お兄様の言うことは、正論だ。
平民の人達が、貴族を怒らせないようにするのは当然のことである。なぜなら、貴族を怒らせた場合、何かをされる可能性があるからだ。
身分の差というものは、それができるだけの力の差なのである。よって、プリネさんの態度は至極全うだといえる。
そして、私の態度は、そんな彼女を苦しめるものだ。身分が上の者から対等を要求される。それは、苦しいことだろう。
「ただ、我が学園の方針としては違う」
「え?」
「俺は学園を建てるにあたって、そのような弊害は取り払うことにした。貴族であろうと、平民であろうと学園に入れる。そして、平民が貴族よりも優れているというなら、真っ当に評価する。それが、我がフォルシアス学園の鉄則だ」
そこで、お兄様の話の流れが変わった。
ここからが、お兄様の本心であるようだ。
「故に、身分を越えたいというお前の考えも理解できる。身分を見ず、相手の内面を見て評価するのは、我が学園の方針に沿っているだろう」
「お兄様……」
お兄様は、私の考えも理解してくれている。
だが、プリネさんの考えも真っ当だと思ってはいる。
そのために、この問題を難しいものだと言ったのだろう。
「さて、今まで色々と言ってきたが、結局はお前が何をするべきかが、この問題の本題だ」
「はい……」
「それが何か……」
お兄様は、そこで一度言葉を区切った。
それは、何かを考えているかのように見える。
やはり、お兄様でもまだ答えは出ていないのだろうか。
「いや、はっきりと言おう。身分の差をすぐに破壊できるものなどない」
「え?」
「人間と人間の関係を変えるのは難しいことだ。故に、すぐに仲良くなることなどできないだろう」
お兄様の言葉に、私は驚いてしまう。
結局、方法などないとお兄様は言いたかったのだろうか。
いや、そうではない。私はすぐに考え方を切り替える。
「ふ、気づいたようだな」
「はい。お兄様は、すぐに仲良くなる方法はないと言いました。だから、時間をかければいいということですね?」
「ああ、その通りだ。この問題に、近道などありはしない。何度も話して、距離を近づける。それ以外に方法はない」
お兄様が言いたかったことは、そういうことだったのだ。
私の努力が、プリネさんとの距離を近づけられる一番の近道なのである。
「かつてお前は、そこにいる引きこもりの心を開いてみせたのだ。故に、心配はいらん。そいつ以上のものなど、中々ないだろうからな」
「お、お兄様に言われたくはありませんね……」
「ほう……?」
「ふぎぃ!」
そこで、お兄様はレティのことを言ってきた。
そういえば、ここに来たばかりの時は、レティやお兄様とも打ち明けていた訳ではなかった。
あの時の気持ちで、プリネさんにも接すればいいのだ。
こうして、私は新たにやる気を出すのだった。
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